学生時代

Me-ya

いつか、君の声が 4

「……………いや」

そう言った松山の声はもういつもの軽い調子に戻っていて。

「ボクが隼人に嫌われている事がよく分かったって言ったんだよ…でも、隼人も嫌いな奴にはどんな事を言われても最初にキチンと拒否しないと駄目だよ、今回はボクだったからよかったものの、他の奴だったらもう止めましょうと言われてはい、分かりましたなんて言わないよ」

………うん、確かに……………。

………………………………………………………ん?

いや、まて。

ボクだったからよかったものの……って……どうなんだ?

っていうか。

「……松山にそんな事を説教されても、素直に聞けない」

「そりゃそうだ」

頬を膨らませてボソリと言った僕の言葉に、松山は可笑しそうに笑う。

「………でもさ、何度も抱かれたって事は隼人も口で言うほど嫌っていたわけじゃないと思われてもしようがないんじゃない?…ほら、よく言うだろ?嫌よ嫌よも好きの内ってさ」

(………な……っ!!)

一瞬、言われた言葉の意味が理解できなかった僕は……だが、その言葉の意味を理解すると同時に怒りと羞恥に眩暈がした。

「…………………………っ!!」

ふざけるなっ!!

そう怒鳴りつけようと口を開いた途端。

松山の笑い声が響いた。

「冗談だよ、最後の冗談…やだな~、そんな顔してさ~」

(冗談になってないっ!!)

なにがそんなに可笑しいのか…涙を流し、腹を抱えて笑い続ける松山に、初め感じていた怒りも忘れて呆気にとられる僕。

「…ま、治夫と仲良くな~」

松山は笑いながらも僕に背を向け、右手を振りながら屋上から出て行ってしまう。

あっけない去りかた。

拍子抜け。

(何だってんだ…相変わらず意味が分かんない奴……)

本当にこれで終わりなのだろうか…少しの間、僕は松山が去っていった屋上の扉を見詰める。

あの扉がいきなり開いて、いつものように松山が爽やかな笑顔を振りまきながら『やっぱりや~めた』と獲物をいたぶる悪魔のように僕に迫って来るんじゃないかと………。

しかし。

いくら睨んでいても、扉が開く事はなく。

開かない扉を見詰めている内に、ジワジワと嬉しさがこみ上げてくる。

屋上に独り残された僕は両手を広げてアスファルトに大の字になり、寝転ぶ。

……これで……。

(僕は自由だ………!!)

青空の下、学校の屋上で自由を謳歌していた僕は、治夫に再会した時になんと言おうか…驚くかな…のんきにもそんな事を考えてニマニマしていた。

僕は松山から自由になった。

僕の心は決まっている。

後は僕が覚悟を決めるだけ。

僕の告白を治夫はきっと待っている。

少し待たせてしまったけど。

きっと、笑顔で僕を受け入れてくれるだろう。

僕はそう思い込んでいた。

疑いもなく。

そう、信じていたんだ。

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