学生時代

Me-ya

恋と嘘と現実と 8

…僕もいちよう検査をした方がいいと言われて肩を叩かれるまで、治夫を乗せた救急車を見ていた。

病院に連れていかれる車の中、血を流して倒れていた治夫の姿が頭から離れない。

僕は震える両手を組み、目を閉じて誰にともなく祈っていた。

僕は無神論者だ。

こんな時だけ祈るなんて都合がいいとは思うし、誰に祈ればいいのかもわからないまま…それでも僕は祈っていた。

治夫が助かるように。

誰でもいいから、治夫を助けてくれるように。

血が沢山、流れていた。

助かるだろうか…。

治夫の体から流れていた大量の血を思いだし、不安で胸が一杯になる。

その不安を打ち消すように僕は首を左右に振り、治夫は助かると強く願う。

治夫がいなくなると考えただけで、目の前が真っ暗になり、心臓がギュッと掴まれたように痛くなり、息が苦しくなる。

僕にとって治夫がどんなに大切な存在か、ようやく気付いた。

今頃、気付くなんて…。

病院へ着き、検査の結果かすり傷のみの僕は手当てを済ませ、帰っていいと言われたが…帰れるわけがない。

病院の廊下にある椅子に座り込み、治夫が助かるように祈っていた。

治夫が助かるのなら、僕の命をあげてもいいとさえ思った。

治夫が僕の前からいなくなるなんて、考えられない。

こんな事になって、ようやく治夫がどんなに大切か気付くなんて…。

「帰って!!」

病院の廊下に、大きな声が響き渡る。

振り向くと、そこには寧音がいた。

僕を恨みの込もったギラギラした瞳で睨み付けて、立っている。

椅子に座っている僕の前まで来ると、寧音は右腕を真っ直ぐ階段を指差して口を開いた。

「隼人を庇って、隼人のせいで治夫は…帰ってよ!!」

寧音は泣いていた。

ポロポロと涙を流しながら、僕を睨み付けている。

俺は昔から、寧音の涙には弱かった。

惚れた弱味だろうか。

寧音に泣かれると、どうしていいかわからなくなって何でも言う事を聞いてあげたくなった。

…それで治夫にからかわれた事があるくらいだ。

だが、今回ばかりは寧音に泣かれても、喚かれても、言う事を聞くわけにはいかない。

治夫の手術が終わるまでは…。


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