踏切電車向こう側

相坂舞雉

1-2(私)記憶に残り続ける場所



引っ越しの日取りは意外と直ぐに決まった。
母は何だかんだもう少し私と居たいと言ってくれたが私はなるべく早く
この場所から離れたくて来週行くと告げると寂しそうな表情をしていた。

私はちょうど夏休みに入ったところで、
引っ越しの荷造りをグダグダと時間を贅沢に使って終わらせても
無限と思える程に時間は余っていた。

暇——

贅沢な言葉だと感じていたけれど
出発まで何の予定もすることもない
私にはピッタリな言葉と思えた。



意味もなく

何も考えずに

ただ散歩だと言いながら

私は都内で最も人が集まるとされている
渋谷に向かった。

中学の頃の友達が良く渋谷に行きたがり
学校終わり数人でよく行ったのを覚えている。
ゲームセンターでプリクラを撮ったりとか意味なくファミレスに遅くまで黙っていたりとか。

懐かしい



人の多さは変わらず
昔行ったファミレスは今も残っている。




変わったのは私だけ——


いつでも—-


変わるのは自分だけ——




渋谷には昼頃に着いたのだが、
ダラダラと時間を
潰していたら外は暗く冷たい夜となっていた。

夏の夜は好き

こんな大きな街じゃ聞こえないけど
家の近くでは夏の夜になると
虫が鳴き
姿を表すことはないけれど確かに

僕はここにいる———

とその存在を主張している。

私にはそんな大胆なこと出来ないけれど
もしも誰かが純粋に自分の存在を主張しているのであれば真摯に耳を傾けられる人間になりたい。

とくに意識することなく
家に帰る為に使う渋谷の駅へ向かっていた。



久しぶりに行ってみようかな



あの頃は皆んなで行った

今日は1人で行く

あのファミレスへ。


店内は特に変わった様子は無く、
私は、時たま1人でテスト勉強を
していた人の流れが良く見える
あの席へ向かった。
ガラス越しに見える渋谷の街並みは
テレビとは違うのだけれど
画面越しに見るようなそんな感覚を
覚え

1人1人の足の速さや

向かう場所

信号を渡る人

など
そこにいるからこそ感じられるソレが好きだった。


『デミグラスハンバーグを1つで』


気がつくと横に同い年くらいの
見るからにどこからか遠くから来たと
言わんばかりの身なりをした少年がいた。

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