香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 158

「ウソも方便」とか言うけれど、そしてオレだって必要に合わせてウソくらいはつく。
 しかし、普段は極力つかないようにしているウソだったけど、何故ウソをつかないかというとバレた時に取り繕うことが厄介な点とか、あとは「あいつはウソをつくヤツだ」とか思われたくなかったからだ。たとえそれが友達同士の関係であったとしても何となく嫌悪感を抱いてしまう。
 ましてやアクアマリン姫、いや岡田看護師に対してウソはつきたくないし、しかも露見するリスクは割と高い。
 田中先生とは同じ医局だし、救急救命室でも一緒に仕事をすることが多い。
 医局では暇な時はコソっと話しも出来るけど、バタバタしていることも多いのでそんな「口裏合わせ」が出来るかどうかは神のみぞ知るといった感じだ。タイミング的に合えば大丈夫なんだけど。救急救命室の時も、野戦病院みたいになっている時にはもちろん世間話の延長のようなことは出来ない。それに「凪の時間」になって休憩室でオレはポテチとか唐揚げ、田中先生はおでんの大根とかこんにゃくを食べている時とかだったら大丈夫なんだけど、田中先生はすっとどこかへ消えてしまうことも多い。
 それでもサイレンが鳴ったら即座に帰って来るし、香川外科、いや心臓外科に入院している患者さんと違って医師がタバコの匂いをさせていることなんて気にも留められないほどの人ばっかりだ。
 まあ、香川外科でもそういうクレームは出たことはないのも事実なんだけれど、院内ではタバコを吸ってはいけない!とか、タバコの有害さについて館内アナウンスも耳にタコが出来るくらいに流れている。
 だから、医師に不満を持った患者さんがクレーム外来と呼ばれている不定愁訴外来の呉先生に言ったとかを風のウワサで聞いたことがある。ただ、病院内のウワサはアテにならないことも多いし、根も葉もないことだって何度も何度も言われると本当に聞こえてしまうのも事実だ。
 ただ、田中先生の患者さん当たりの良さは香川外科の中でもピカ一だし、知識や手技についてもキチンと説明出来るので物凄く信頼されている。だから不満を持つような患者さんはいないっていうのが実際のところだ。
 ま、それはともかくとして、オレが苦し紛れについたウソを田中先生に彼女が直接確かめようと職員専用の門の所でばったり会ったとかの機会ででも出来るっちゃ出来る。
 ただ、朝の出勤時の場合は目の前にいる岡田看護師も話しかけることは出来ないんじゃないかなって思う。
 だって。

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