香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 147

「田中先生は、あの通り気さくな人ですから。医師、しかも一介の医局員ではなくてAiセンター長まで務めていらっしゃるのに、ちっとも偉ぶったり人を見下したりしない、滅多に居ない先生です。
 医師というだけで――いえ、私達とは頭の良さとか勉強量が違うのは分かるんですけど――滅茶苦茶に偉そうな人ばっかりで……。
 お聞きになっているかは分かりませんが私が井藤――」
 アクアマリン姫が華奢な肩を震わせている。田中先生から聞いた話では、井藤が医療用廃棄物入れに――ちなみにここに放り込んでいれば誰もチェックすることなくどっかに送られて投棄されるらしい。詳しいことはオレも知らないが――犬や猫の無残な死体を放り込んでいるのを偶々たまたま目撃していたらしい。
 そして、香川教授の才能とか名声を妬んでいたことも。いや、教授が人知れず努力していることはオレにだって分かる。そんなのは手術室に入っていたら誰だって分かるだろうし、後で聞いた話だと、井藤のバカは脳外科の仕事を放棄して手術室の上から――学生の時のオレが時間を惜しんで見に通っていたモニター室だ――見ていたらしい。だったら、分かりそうなものなのに?といぶかしく思ってしまう。
 そして、その「危なさ」についてウチの医局の誰かに伝えようと職員用の通用口で待っていたとか。
 心臓外科と脳外科は場所的には近いものの、交流もない上に新人ナースとかオレのような研修医がその「見えない」門をくぐるのは非常に難しい。
 今日だって、杉田師長が「脳外科に行って診て貰えば?」みたいなことを言ってくれなければ、オレだって脳外科のエリアには足を踏み入れる勇気なんてなかったし。
 研修医とはいえ、一応医師のオレでもそんなに怖気おじけ付くのだから、ナースはもっとだろう。
「ああ、その辺は聞いています。大変だったというか、災難でしたね。
 犬や猫をどうの……なんて、オレも人間を扱わせて貰えない時期にはさせられましたけど……あれってホントに嫌でした。それをプライベートでも仕出かすなんて、人間のクズとしか言いようがないですっ!!」
 アクアマリン姫に迎合したわけでなくて、心の底からそう思っていた。
 だからついつい熱弁を振るってしまったのだけれど。
 すると。 

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