香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 146

「それが、PC自体が戸田前教授の私物だそうで。
 そして、それがなかったら困る!データも私的なモノがたくさん入っているのに!と強硬に主張されまして……」
 岡田看護師はとても嬉しそうな表情でケーキを口に運びながら言った。
 え?私物のPCに患者さんのデータを入れるなんて、そもそもそこから間違っているのではないだろうか?
 ウチの科の場合、私物のPCはあくまで補助だし、ネットに繋いだ場合コンピューターウイルスとか余計なモノまで拾ってくる可能性がある。そのウイルスが悪さをしてPCの内部全部を外部流出するようなソフトとかもあるというのに……。だから、患者さんのデータはネットが繋がっていない院内LANのみで閲覧可能というふうに厳密に区別されているし、それが当たり前だと思っていた。
「それは……セキュリティ的にも問題があるのでは?」
 結果論だけど、情報が流出しなくて本当に良かったと思ってしまう。患者さんの名前とか個人情報、そして病状とかの電子カルテまでネット経由でどこかに漏れてしまって、それが悪用されたら斎藤病院長が謝罪の記者会見を開く――病院長自身はものすごーくイヤだろうけど――レベルの事態になってしまう。
「そうなんです。ただ、コンピュータウイルスなんて、抗生物質で何とか治めてみせる!とか意味不明なことをおっしゃっていましたし……」
 え?と思ってしまう。ただ、戸田前教授ってかなりのワンマンだったとか漏れ聞いている。
 そういう人の場合、あまりというか全然人の言うことは聞かない傾向にある。
 だから助言する人は居たとしても聞く耳を持たない上司だと思った瞬間に、忠告とかアドバイスとかも止めてしまうのが「人情」だろう。
「ウイルスって……PCのと人体のとでは全然違ったモノですけど……?」
 確か、PCに「悪さ」をするから比喩的に「ウイルス」って名付けられたとか読んだ覚えがある。岡田看護師はケーキを口に入れると、物凄く幸せそうなアクアマリン色の笑みを浮かべている。
 とても綺麗で目を奪われてしまった。
「そういうのって私たち世代では常識ですけれど……戸田前教授はその『常識』を教えてくださる人が居なかったのかもしれないです」
 私「達」世代――私達って。オレとアクアマリン姫のこと、だろうな、やっぱり。
 なんだか、一括りにされたことが物凄く嬉しくてついつい笑いが零れてしまう。
「そうなんですか?田中先生なんて、アプリの使い方とか分からないことはバシバシ聞いてきますよ」
 すると。
 
 

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