香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 145

「ケーキ、お好きですか?」
 オレ的には無難なことを聞きながら、あっと気がついてケーキとコーヒーの載ったトレーをアクアマリン姫から受け取ることにする。
 我ながら冷静な判断が出来たと自分で自分を褒めてやりたい。
 まあ、こういう「女性に物を持たせない」ということも――少なくとも仕事上のモノでなければ、という前提がつくが――田中先生がナースに対してごく自然にしているのを見て覚えたことだった。
 あの時は(良く気がつく人だなぁ。だから外国出張の多い――だから西洋の男性のエスコートは物凄くスマートだと聞いた覚えがあるーー商社レディとも気兼ねなく付き合えるのだろうし、病院内での評判も物凄く良いんだろうなぁ)と他人事ひとごとのように眺めていたけれど、今回はその実践編だった。田中先生みたいに物慣れた自然な感じには全然なってはいないだろうけれど、挙動不審にも見えないだろう。
 やっぱり、普段からモテる人のことを良く見ておいて本当に良かったとシミジミ思った。
「有難うございます。それに……指示を具体的に出してくれって言ってくださって本当に助かりました。
 『あれ』とか『それ』とかで全部言われてしまうので、何を指しているのかサッパリ分からなかったものですから」
 そういう先輩ナースの不手際というか、指示ミスなどが有った場合、ウチでは柏木先生とか場合によっては田中先生が対応している。それが普通だと思っていたのだけれど、あの医局の混沌カオスっぷりからしてそんな「些細な」コトまで気が回ってない感じだった。
「『こそあど言葉』で片付けられたら全然意味不明ですよね。外科医の場合は的確に言わないとならないのでそういう指示語は一切使いません。
 まぁ、だから飲み会とかでも平気で心臓とか臓器の話をしてしまって、周りの空気がササっと白けることとかもよくあります。そういう点を気をつけるようにはしているんですけど……」
 アクアマリン姫とA会議室に入って向かい合って座った。
 なんだか面接みたいな感じになってしまうのは仕方がない。だけれども、オレが綺麗な女性と向かい合って座ってケーキとコーヒーを一緒に食べているなんて夢のようだった。
「前教授のPC『も』カオスらしいですね……。いっそのこと全部壊してからこっそり山に埋めに行くとか、海に捨てに行くとかじゃダメなんですか?」
 オレも専門的な学問としてPCを学んだわけでもないので詳しいことは分からないが、PC本体があれば復元することも可能だと聞いた覚えがある。
 すると。

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