香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 142

 あっ!そうかぁ!田中先生も切羽詰まった時に使う方便を思い出した。あの先生は心臓外科についてはもちろんのこと患者さんとの信頼関係を気付くためとかで他の世間話まで物凄く博識だ。
 そして入院患者さんはそもそもが香川教授の手技の冴えを慕って国内中、いや世界からも熱烈な信頼を集めている。
 しかし物事にはやはり例外が有って、患者さんの息子さんとかお孫さんはネットを使えることもあって「この手技の方式よりこのプリントアウトした術式の方が成功率も高いですし、何故そちらを選ばないのか理解に苦しみます」とか言ってデスクに叩きつけられたこともあるらしい。オレたちは言葉は悪いかもだけどーーそういう手技の方法もキチンとどの方法が良いのかとか香川教授の手に余るようだったら外科医の手技はイマイチだけど海外の最新の論文やレポートを読ませたら一流の遠藤先生のアドバイスまでも仰いでいるし、患者さんの血管の狭窄具合によっても当然手術の方式が変わる。
 しかし息子さんとかお孫さんはネットが普及するにつれて――今の時代はスマホでもPCと同じ情報がゲット出来る――「大好きなお父さんのため」だろうが検索しまくって、その患者さんには合致しないデータを持ってくるとiいうケースも有った。オレ達は心臓病に特化した科だけれども、学術誌ならともかく下手をすれば心臓疾患の家族が居るだけの人がネットで情報発信をしているケースもある。
 それに「心臓病が治る」とかってまことしやかに大嘘を書いている新興宗教の教祖も居るので、そういうシロモノを信用する人間が一定数は居るようだった。
 田中先生の場合は、そういうのと真っ向から議論せずに「私は一介の医局の医師に過ぎません。会社で言えばヒラ社員ですね。ですからご家族からこういう貴重なご意見をお預かりはしますが、決定権はないので上司に相談します。回答は次回と言うことで宜しいでしょうか?わざわざプリントアウトして下さって有り難うございます」とか物凄く丁寧かつ真摯な口調で言ったと聞いている。そして、医局に持ち帰って遠藤先生などの「研究肌」の人に丸投げしていた。遠藤先生は頭に血が上ると何を仕出かすか分からない人ではある。だけど、ごくごく稀にしか逆上した挙句の刃傷沙汰――未遂で良かったとシミジミ思う。オレはあの時居合わせたけれども、ガチで怖かった――などは起こさずに、その膨大な量のプリントアウトのエビデンス不足とか根本的なミスなどを延々書いてくれたそうだ。
 そして。

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