香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 141

 ウチの医局では容体急変がないわけでもないが、コードブルーレベルはオレの知る限り一度もなかった。
 オレが医局に居ない時間帯であったとしてもーー救急救命室で勤務している時とかには当然香川外科の情報は入って来ないーーそんな重要なことは医局の皆が共有すべきコトなので、当然電子カルテも入っているタブレットにはインプットされている。
 ウチの場合、そこまで悪化させることがないのは、長岡先生という超優秀な内科医も存在しているというコトもあるだろうけれども、医局内の連携とか運営が円滑に進んでいるからだと思う。
 ただ、この脳外科の惨状の方が異常事態で、ウチの科の方がマトモだと思うが。
 そんなことを考えていたのは、千載一遇のチャンスでもあった、アクアマリン姫との会議室デート♡がチャラになる悲しさからだった。
「ああ、私はこれで失礼しますが、岡田君は久米先生のお相手を頼むよ。
 そして久米先生、機会があれば!ぜひとも脳外科は皆が香川教授にも、そして医局の皆さま方に心の底からのお詫びの気持ちを表明したいのですが、なかなかそのチャンスがない上に恐れ多すぎて出来ないという現状をお伝え頂ければ幸いです」
 ラッキー!アクアマリン姫とデート出来る!とは思ったし、内心でスキップスキップランランラン!とか思っていたけど。
 そんなことを言われたってなあ……。そりゃ、医局長の柏木先生とか田中先生とは救急救命室で一緒になるし、通称凪の時間には雑談もする間柄だ。
 だから「脳外科の木村先生が……」みたいなことは言えなくはない。
 だが!しかし!今のオレは仮病ならぬ「仮傷」で脳外科までノコノコと来ている。そして同じ病院内であっても科が違えばそんなに喋る機会がない。
 だから田中先生辺りに「何故、そんなに脳外科のことに詳しいのですか?」と聞かれた時にーー田中先生は物凄い勘働きの持ち主だーー絶対キョドる。手術をサボってここにいるってだけで怒られそうだし、アメリカ式合理的思考の香川教授は「役に立たない」と判断した瞬間に手術スタッフ名簿からオレの名前を消去しそうだ。確かに手術をサボるというのはそのくらい言語道断なコトなのも自覚している。
 ただ、遅刻して手術室に入るというのを避けたくてついつい出来心でしてしまったのだけれども、香川教授のーー多分エクセルで管理しているーー手術スタッフの名簿からオレの名前を問答無用で全消去されてしまいかねない。
 どうしよう。

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