香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 135

 何だか木村先生の後退した前髪部分が心なしか薄毛が生えて来たような感じを受けた。というか、眉間の縦皺たてじわがすっかり無くなったせいかもしれないが。
「そうですか。香川外科の医局ではウチの科自体が責められているわけではないのですね」
 なんだかぱあぁっと光が差したような笑顔を浮かべている木村先生には申し訳ないけれど。
「いや、医局内ではそういう雰囲気ですけれど……。香川教授とか黒木准教授、そしてあの事件の功労者でもある田中先生のホントの胸の内は分からないです。すみません……」
 ウチの科ではそういうことは聞かないけど、ほかの科では医局で教授が言ったのがタテマエにしか過ぎずに、教授執務室ではボロっくそ言われていたとかいうウワサは聞いたことがあった。
 風通しの物凄く良い香川外科は病院でも珍しい医局ではあるものの「ここだけの話」とか言っている可能性は0ではない。まあ、1か2とかのレベルだろうけど。
「白河教授も内科の内田教授や救急救命室の北教授に『教授とはどうあるべきか』を習っている最中さいちゅうでして、しかも香川教授に合わせる顔もない状態です。心からのお詫びと反省の弁を申し上げたいと医局一同思っているのですが、なかなかそんな機会はないですよね。
 久米先生、もし機会がありましたら脳外科一同が謝っていたとお伝え願えれば幸いです」
 深々と頭を下げられてしまったが、そんな機会が来るとも思わなかった。
 田中先生とかなら救急救命室の凪の時間とかに話せるけど、香川教授や黒木准教授などは教授総回診と手術室でしか顔を合わせない。患者さんに関することなら話せるし、そういう研修医が拾った情報でも有益なモノはたくさんあるのもご存じだ。
 でも脳外科の話題なんてとてもじゃないけど口に出せる雰囲気ではない。
「一応努力はしてみます。してみますが、あまり期待はしないで下さいね。
 一介の研修医ごときにそんな大任が果たせるとも思えないので。
 その点はお分かりかと思いますが」
 井藤はともかくとして、木村先生も研修医時代が有っただろうし、そんな職階の時に教授に直訴なんて出来るわけはないのも知っているハズだ。
「はい!それは存じていますが、手術スタッフにも選ばれている上に救急救命室行きという『医局のエリート・コース』に乗っている久米先生のお力をお借りしたいのです。
 ああ、岡田君」
 いきなりの指名にアクアマリン姫が驚いた感じの表情を浮かべている。
 それは。

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