香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 133

 まあ、田中先生は香川教授の懐刀ふところがたなと医局内では畏怖して呼ばれているし、個人的にもーーまあ、元同級生かつ友達だった柏木先生も一緒に呑みに行くくらいには親しいようだったが、田中先生は研修医時代からずっと香川教授と仲が良いらしくて、夕食を共にする機会も多いらしい。実際に食べ歩きが大好きなナースさんからも目撃情報がチラホラとオレのところまで聞こえてくるくらいだ。
 ちなみに、アクアマリン姫、いや岡田看護師のような新人はともかく、大学病院などの夜勤とかそういう点できっちりと計算されるナースのお給料は良いらしい。
 ウチのクリニックだと診療時間しかお給料は当然支払われないのでそれほどでもないとかーー具体的な数字は知らないけどーー聞いている。
 そういう食べ歩きの好きなナースが夜の街で見かけたとかいう話も聞こえてくる。
 どうやら香川教授はアルコールが弱いみたいで、田中先生が身体を支えていたり、腕を掴んで立たせていたりするらしいが。
 まあ、オレですらストレス太りをしてしまったのでーー香川教授は帰国当初のままの体型を保っているけどーーそれよりは遥かにプレッシャーのかかる執刀医、しかも世界中から香川教授の手技の冴えを厚く信頼して集まっている分、失敗は絶対に許されない。
 日本人はともかく、10割も負担する外国人の富裕層は当然すごい人脈を持っているので「執刀医はあの人が良い」と直ぐに噂になるらしい。だから今は香川教授が良くっても、他にもっと凄い医師が現れたら、躊躇ちゅうちょなくそちらに行くだろうから。
 そういう桁違いのお金持ちとの付き合いはないけれど、流行りのブランドの宝飾店とか服屋さんをコロコロと替えるのと同じらしい。だから「旬」状態を保たなければならないという宿命をヒシヒシと感じている香川教授はオレなんかよりもプレッシャーは遥かにスゴイんだろう。だからストレス発散にーーといっても田中先生も「病院イチの激務」のあだ名だし、そんなに呑みに行く機会はないだろけど。アルコール中毒の場合、禁断症状で手が震える。そんなコトは香川教授も当然知っているだろうし、田中先生も。だからそこまでの深酒はしないだろう。
 ま、その話は置いておいて、田中先生と呉先生が付き添った時も井藤本人のことはーー被害届とか診断書を書く必要上かもしれないけれどーー名前は良く出ていたと田中先生から聞いている。
 しかし、脳外科のことをーーいや、なんだか医局運営にも問題は山積みっぽいのは何となく空気で分かったーーそこまで問題視していないんじゃないかな?というのがオレの感想だ。
 そして。

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