香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 100

 オレがあの事件でケガをしたのは事実だ。そしてその詳細を知るものは少ないけれども、実際のところ、何もないところで転倒して何故か手を地面につくことも忘れ去っていて顔面を思いきりぶつけたというのが真相だった。
 普通は手が咄嗟に出るだろうと自分でも呆れて赤面の至りだったのだが、選りによって元同級生ーーといっても断じて友達ではない!!しかも向こうもオレのことを友達とも思っていないだろうし、むしろ敵視している感じだった。オレが「実力」で香川外科に入局出来たことへの逆恨みというワケの分からない感情で。田中先生にも「身辺にはくれぐれも気を付けてください、一応」とか注意を受けた。
 その時には井藤のあの憎悪に満ちた眼差しを思い出してゾッとしたのだけれど、そしてライフル銃らしきものを車に積んで見せびらかせるような人間だと知っていたけれども、まさかガチで凶行に及ぶとは思ってもいなかった。
 オレが尊敬してやまない香川教授が拉致らちられたと聞いて、きっと精神的に動揺の極みに達してしまっていたのだろう。そして反射神経すらスリープモードに入ってしまったに違いない。
 白河教授に「ガツン」と言う!!と岡田看護師の前では見栄を張ってしまったけれども、研修医のオレがそんなことが出来るハズもなくて、田中先生に泣きつくしかないのが現実だった。
 田中先生の場合は、白川「准教授」時代にいろいろと医局内クーデターの策を授けたようだったのでーーなんでも「病院内の革命の戦士」との異名も高い内科の内田教授とかとも相談をしていたらしいーーポジションはともかくとして色々と話せる立場っぽいし。
「まあ、白河教授にも!!あんな雲の上の人にまで……」
 アクアマリン姫が感心したような感じで細くて華奢な指をーーただ、ナースの常で指は荒れているけど、気にしないーー両頬に当てている。
 研修医のオレにとって香川教授が雲の上の人であるのと同様に脳外科の新米ナースが白河教授に対してそういう気持ちを抱くのはしごく当然だった。
「伊達にケガをしたわけではないですし……。そういう意味では医局の長としての監督責任不十分という切り札は使えます。
 オレ……いや、私との『交際』に関して医局内のナースがどうこう言って来たら、オレに任せてくださいね。大船に乗った気持ちで……」
 実際のところ、大船は田中先生で、オレはその船に付けられた救命ボートくらいの役目しかない。
 しかし。
 

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