香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 96

「かなり年上の先輩なのですが、今と違って25歳までに結婚しないといけなかった時代に適齢期で結婚して……。アメリカとカナダに新婚旅行に行ったらしいんです。アメリカのどっかの空港で『ここでタバコを吸うことは許可されていますか?』とか難しい構文で聞いていたらしいです。
 でも、相手は全然分かってなかったらしくて不審そうな表情を浮かべていたらしくて、その先輩がタバコを吸うジェスチャーをしながら『スモーキング、オッケー?』と聞いたら『オッケー』と言われてご主人はかなり落ち込んだようですけれど、でもそういうのでも通じるんだなぁと思いました」
 空港で普通に喫煙可能だった時代の話みたいではあったものの、その程度で良ければオレでも大丈夫のような気がした。ただ、そのレベルだとは思われたくないので田中先生に特訓を頼み込んでみようと密かに決意した。
 田中先生は「病院イチの激務」というあだ名を持っているし、身近にいるとそれがウワサでないことも知っている。
 ただ、忙しい人には仕事が集まるのも分かるような気がする。それに田中先生の場合は口では文句を言いながらも結構親身になってくれることも経験上よく知っている。
「それは面白いですね。――ところで、ハワイでイルカと泳ぐのが新婚旅行の希望ですか?」
 内心ビクビクしながら聞いてみた。
「はい。透明な海とか素敵だと思います。一緒に行けたら……良いですね」
 透明な笑みが眩しさを増して煌めいている。
 そしてオレの心の中でもハワイのブルーの海の煌めきで照らされた気がした。
「素敵なレストランが有るんですよ。敷地内も車で移動するのですが、夜は篝火かがりびがその沿道を照らしているという趣向です。夜空を焦がす感じがロマンチックだと思います。料理も日本人好みに工夫してくれているみたいですし、一緒にハワイの夜空を見上げながらカクテルを呑んだり、火を見つめるのも素敵だと……」
 なんだか明るい未来が見えて来たような気がする。
 期待に胸を膨らませながら時計を見てギョッとした。やばい!このままだと遅刻してしまう。
「あのっ!会えたのは嬉しいんですが、そろそろ……」
 彼女も我に返った感じで真顔に返った。そして、会釈して歩き出した。
 しかし、なんだか歩きにくい。何故だろうと思って余計に焦る。いつもならサクサク歩けるというのに何でこんなに身体が動かないのだろう。
 すると。
 

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