香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 88

「まあ!官僚!じゃあ総理大臣とお会いしたり出来るのかしら……。素晴らしいお仕事に就いていらっしゃるのね」
 朝からきちんと髪の毛も巻いてお化粧をしたいつものお母さんの顔がぱああぁっと輝いた。
「官僚だからね……。多分首相にも会ったことが有ると思うし……。ああ、何だか一機5億円だかいうヘリコプターに乗れる権利みたいなのは有るみたいだね」
 お母さんが、他意なく柏木看護師の気分を傷つけてしまわないように適当なコトを言った。病院用のヘリが5億円なのはウワサで知っていたけれど、自動車にだって価格差が有るようにヘリコプターだってきっとそうだろう。ただ、お母さんには効果覿面てきめんだった。
「まあ、素敵ね。ヘリなんてドラマみたい……。そういうお仕事をなさっているのもVIPって感じだわ。
 これは力いっぱいおもてなしをしなくてはいけないわねぇ」
 総理大臣に会ったことが有るかなんて知らないのは内緒にしておいたのも良かったのだろう、多分。
 正直、オレは他の先生と同じで厚労省に好意は持っていない。けれども、お母さんにそういうことを言ってもヤブヘビになるだけなので止めておくことにする。
「それにさ本来なら香川教授が直接ご挨拶にいらして下さるって話も有ったんだけど、知っての通り独身なので、その代理として柏木先生ご夫妻がいらっしゃ……って、え?」
 ガタンと音がしてお父さんが椅子から飛び上がっている。そしてテーブルの上にまだ載っていた食べ物たちも跳ねてしまっていた。
「香川教授が直々にいらっしゃるだなんてそんな畏れ多い。雲の上の人じゃないか……。分かった!!
 お母さん、お茶の家元がいらした時以上の準備を頼む……。柏木先生は医局長で、しかも香川教授と同級生だった人だろう。同級生同士の付き合いも有るだろうし、話は直ぐに香川教授に行くことは必定だから」
 オレが見る限り、教授と一番話していて信頼もされているのは田中先生だと思うけれども、そういう誤解が生まれても仕方ない部分があるし、否定はしないでおこう。それにあんなとんでもないことをやらかした井藤は一応、同級生だったけれど、断じて友達ではない。ただ、柏木先生は香川教授と呑みに行ったりしているので関係性は良いハズだ。
「日にちが決まればキチンと伝えるね。あ!もうこんな時間だ」
 お父さんが想定外の事態に狼狽えてテーブルを蹴ったせいで半分零れた味噌汁を急いで飲み込んだ。
 そして。


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