香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 84

 田中先生のご託宣たくせんめいたお言葉を決意も新たに有難く拝聴していたけれども、香川教授が田中先生に向かってオレと同じように感謝の視線を送っている。
 その眼差しを受けた田中先生は「大丈夫ですよ」みたいなアイコンタクトをしていた。
 多分――オレ的にはそうは思わないのだけれどもーー言語能力に自信がない香川教授の代理として必要かつ簡潔に教授の現状を田中先生が説明したことに対しての感謝の気持ちなのだろう。
「家内と一緒に久米家に伺ったら良いんだよな?住所を教えてくれると有難い。
 ま、香川……教授の口添えも有ったようだし『深窓のご令嬢』上がりのマダムとは異なった、医療のプロとしての矜持プライドは充分持っているので大丈夫だと思うが。
 それに、離婚とかをした場合に職探しから困るマダムよりも、自分の場合はどんな大きな病院に行っても手術室ナースとして雇って貰えるという自負もあるので……」
 柏木先生の言いたいことは物凄く分かった。オレのお母さんの場合は別に手に職があるわけでもないーーちなみにお母さんの中学校時代からの友達にはテレビに出るレベルの料理研究家がいる。お洒落かつ簡単に作れる美味しいオリジナル料理とかを毎回披露している、らしい。
 もちろん、そんな番組にオレの興味が向くわけはないので一回も観ていないけれども、テレビ局の出演料とか、その番組を観た人が万人だったか10万人だったかは忘れたけど……いや、もう一桁上かもしれない……フォローしてくれるインスタグラムには『インスタ映えがするお料理の作り方』をたくさんの画像付きでアップしているらしい。
 なんでもそこまでのレベルに行くと、それだけで食品関係とか食器とかの企業から「これを使った料理を作って紹介してください」みたいなお仕事依頼が入ったりするらしい。
 だからそのお母さんの友達はご主人に離婚されても大丈夫な気はする。まあ、その人は毎日の食事作りの過程をインスタグラムにアップしている上に、その食事がご主人にも提供されるわけだから一石二鳥だろうけど。
 インスタ映えだけじゃなくーーつまりは味なんて分からないーー本当に美味しい料理やお菓子だとお母さんも言っていたので、食事が不満でという理由では離婚を考えられないような気はする。
 まあ、お金を稼ぐ方法は違っていても柏木先生の奥さんも万が一離婚しても経済的には大丈夫な人であることは変わりはない。
 しかし。

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