香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 83

「実はそうなのです。ずっと外科に居たせいか、女性に接する機会がなかなかなかったせいもあって、つい構えてしまうのです……。
 お蔭で私の大切な人にも……」
 香川教授の視線が下がって手のモデルさんみたいな綺麗な指に着けられている左手の薬指を見ていた。
 下を向くと教授の切れ長な怜悧そうな目ではなくて睫毛まつげが長いせいで何だか眠っているようにも見えるほどだ。
 プラチナ製と思しき指輪の――普通は結婚指輪だろうけど――理由を柏木先生も以前詳しく聞こうと頑張ったらしいけれど。
「色々な事情が有って……説明出来ないが……私『は』約束の印として付けているし、その気持ちは相手にも充分伝わっていると信じたい。
 ただ、それ以上は……」
 そう言ったきり絶句してしまった教授に「よほどの事情があるのだろう」と思ってしまってそれ以上は聞けなかったらしい、気の毒さというか武士の情けみたいな感情で。
「お蔭で私のプライベートで最も大切な人にも柏木先生のような指摘を受けましたよ」
 柏木看護師は絶世の美女というわけではない。なんというか、クラスの中で――と言ってもオレは男子校だったが――10番目くらいに可愛い女の子がそのまま大人になったような感じだけれど、きっと香川教授の「悲恋」の相手は才色兼備を絵に描いたような人なんだろうな、きっと。
 だから「You」と呼びかけてしまっていたのだろう。
 あれ?でも香川教授は進学校としても有名だけれど、公立高校からウチの大学に進んだと聞いている。
 公立の場合はクラスに女子も居るのに……?と思ったんだけど、教授はご自分でもコミュニケーション能力に苦手意識を持っている上に、国公立理系コース(公立高校のことは良く知らないので、呼び名とかは適当だ)の場合女子が居ない場合も有ると小耳に挟んだ覚えも有るので、多分それほど女子とか女性に対しては男相手よりも更にコミュニュケーション能力に劣等感コンプレックスを抱いているのかも知れない。
 「病院の至宝」とか「神の手・天使の手」を持つ天才外科医という名声は将にその通りなんだけど、そういう人でも苦手意識が有るんだと思うと何となく嬉しい。
「では、久米先生、杉田師長には私が交替すると言っておきますのでご両親、特にお母様には柏木先生ご夫妻が、色々不幸な状況が有って結婚は難しい香川教授の『代理』もしくは『名代みょうだいとしてお家に行かれるということを懇切丁寧に話して下さいね」
 田中先生は香川教授の恋人さんのことをある程度は知っているような感じだったけれど、今はそっちではなくてお母さんに「香川教授がホントは来るハズだったんだけど、失礼だと思ってオレが必死に止めて柏木先生ご夫妻になったんだよ」と言い聞かせなければならないなと密かに決意を固めた。
 それに。
 

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