香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 79

 オレはまだ半人前の研修医で、どちらかと言えば医局の役に立つよりも、皆様の足を引っ張っている立場の人間だとシミジミ痛感している。
 まあ、手術のセンスは有ると、あの香川教授が判断して下さっているようで――それはそれで物凄く光栄に思って感謝しているけれども――そんな足を引っ張ってばかりのオレごときの、しかもプライベートな問題で香川教授の貴重過ぎるお時間を割いてしまうのは何だか畏れ多すぎる。
 でも、田中先生や柏木先生のアドバイスはご尤も!!といった感じだし、どうしよう?
 それに、香川教授が――本人が抱いているほどのコミュニュケーション能力の欠如なんて全然思わないけど――人を説得するよりも、どちらかと言えば黙って手技を見せつけて感服させるみたいな方法の方が手っ取り早いからそうしているんじゃないか?とも思えなくはないけど、ご本人曰くそうでもなさそうだ。
「とにかく、教授には可及的速やかに柏木先生の奥さんを説得して貰えるように頼んでみます。
 そういう恩も踏まえて、これからも医局の仕事も頑張って下さいね。
 あと、想定外のコトが起こった時にパニクる悪い癖を是正するためにも、ありとあらゆるパターンを頭の中で考えておいて、それにどう対処すれば最も合理的なのかの自分なりの解答を頭の中で予め持っておくことをお勧めします」
 手術着に着替えながら田中先生が言ってくれた。
 相変わらず引き締まった身体とか、バランスも物凄く良い長身がカッコ良いなと思ってしげしげ見てしまう。
 それに比べてオレのプヨンとしたお腹とかが恥ずかしくなった。ちなみに社会人というか研修医になってから――多分、色々なストレスとかの解消のために、夜勤の時につい買ってしまうスナック菓子とか唐揚げとかが原因だろうと思うけれど――体重が15キロも増えてしまったのだろう、多分。
 でも、ストレスとかいう点では田中先生だって、オレなんかよりもっと凄いストレスに晒されているのにな……と思った。
「久米先生、ぼうっとしていないで、気持ちを切り替えて下さいよ。
 そうでなければ、手術室から放り出されるとか、タダの見学人みたいに壁にへばりつきたいですか?
 そんな醜態をさらすと、次はないですよ。
――まあ、個人的にはその方が良いのですが――」
 ぽそっと田中先生が独り言のように言った。え?それはどういう意味だろう?と一瞬思ったけれど、聞き返すタイミングを逸してしまっていた。
 そして。

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