香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 78

 香川教授は外科医としても人間としても尊敬出来る上に、「医学部教授」というポジションが与える世間一般の漠然ばくぜんとしたイメージなどは皆無な人だ。
 権威主義とかでは全然ないし、傲慢ごうまんでも自分に自信満々でもない。
 ナースに対しても、いや掃除の小母さんに対しても丁寧に接しているのも知っている。
 そういう医学部教授というのはーーオレの知る限りーー香川教授だけだ。
 ただ、オレはそうは思わないのだけれど、入局試験の面接の時に「日経平均株価」を聞かれて頭が真っ白になった、今となっては微笑ましいエピソードでも分かるように、教授はご自分の会話能力に劣等感コンプレックスを持っているらしい。
 あんなに完璧に見える人だし、患者さんからの信頼も物凄く厚いのに、それでもご本人は気にしているとオレ自身も一回聞いたことがあるし、医局の他の先生からの伝聞でも耳に入ってくる。
 まあ、完璧に見える人でもご本人はそんな自己評価をしているんだな……と思うと、オレ程度の人間でもなんだか世の中に生きていて良いような気がするから不思議なモノだ。
 それはともかく、オレみたいなまだ半人前の研修医のプライベートなコトでーーだって、岡田サマは、オレなんかと付き合うには勿体なさすぎる女性だと心の底から思えるけれど、田中先生経由では「オレが良い」と言ってくれたある意味有難い存在なのでこれを逃がしたら後はなさそうな気がする。
 お母さんが集めてくれた「履歴書」だったっけ?
 なんだか、釣りとか書いてあったけど、オレ的に「釣り」というのはネットの中で皆が反応したくなるような話題をワザと書いて、その反応を楽しんで「バッカじゃねぇのwww」みたいなことをする人たちのことだ。
 ま、それは良いけど、あの「履歴書」をお母さんに渡した女性の母親は多分ーーというか絶対かもーーK大附属病院心臓外科所属で、お父さんが引退とかしたら久米クリニックを継ぐ「医師」としてしか見ていないハズだ。
 お嬢サマの写真がお母さんの手元にあるってことは、お互い様というか、名刺交換みたいにーーオレはそんな「社会人!」みたいなことはしたことがないーーオレの写真も向こうに行っているんだろうな……とは思う。
 オレがあの中の一人と会いたいと言えば、お母さんの感じからしてすぐに会えるような勢いだったけれど、オレは岡田サマが良い。
 けれど。

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