香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 77

「えっ!!奥様って教授のファンだったんですか?」
 チョコの獲得数とかそういう偏見フィルターを取って見ると、香川教授も田中先生とはタイプは異なるけれどかなりレベルの高い容姿の持ち主だ。
 だから隠れファンが居ても全然おかしくないし、むしろ当然のような気がするけれど、それが柏木先生の奥様だったとは。
「ああ、夫公認だから何も問題はないが。『手術室とかで会えるだけで幸せ。貴方は手術控室や手術室に居ても居なくてもどうでも良いけど』とか言われているな」
 余裕な感じで笑い飛ばす辺りが、配偶者としての余裕なのかもしれない。結婚していないので――それどころか女性と付き合ったこともない――良くは分からないけれど。
「その点を踏まえると私とか柏木先生が説得するよりも教授にお時間を割いて貰って――と言っても先ほどのような内容のセリフを言うだけですから10分もかからないと思います。
 その程度の公私混同だったら別にどこからも文句は出ないでしょう」
 確かにそうだろうな……と思って頷いていると、柏木先生が人差し指を顔の周りで振っている。
「田中先生はナースの習性を良く知っているにも関わらず甘いな。
 家内は大喜びだろうが、他のナースが『抜け駆けされた!!』とか激怒するぞ。そんなウワサが病院を駆け回ったら」
 田中先生の唇が緩い笑みを浮かべている。何だか余裕というか貫録を感じさせる笑みだった。
「いえ、今回の場合は、ウチの医局内がメインです。アクアマリン姫は脳外科所属ですけれど、結婚を前提にお付き合いするのは久米先生、つまりウチの医局所属です。
 その医局員の結婚を前提にしたお付き合いをご両親が反対されているのですから、プライベートな問題も含めて医局のことをしっかりと考えている責任感の強い教授が『見かねて』介入した。そして、医局長もたまたま奥さんがナースだったので説得は部下でもある柏木医局長とその奥様に任せたという流れは別におかしくないでしょう?
 近いうちに教授に申し上げておきますので、柏木先生は奥様が教授執務室にいきなり呼び出されて内心パニックにならないように根回しをお願いします」
 っと、もうこんな時間ですね。
 そろそろ、準備をしなければ。
 田中先生が時計を見ていつものの素早い動作の1、5倍速くらいになっている。
 ウチの医局は皆仲がいいし、上司である香川教授を心の底から尊敬している先生ばっかりだ。
 その香川教授は職務上、口うるさいとか意地悪とか依怙贔屓えこひいきはしないとかの優れた点はたくさんある。
 しかし。

コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品