香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件の後」 70

 オレ的には田中先生に来て欲しいと切実に思ったけれども。なんて言っても「香川教授の懐刀ふところがたな」って呼ばれているほど、頭も物凄く切れる上に口も達者だ。柏木先生は確かに医局長としては立派に職務を全うしているように見えるけど、それって田中先生のさり気ない後押しが有るからじゃないかと思わせられることが度々ある。
 ただ、田中先生の場合は美人で仕事もバリバリに出来る彼女さんは居るらしいけれど――誰も見たことがないのは彼女さんが東京住みだからだろう――まだ独身だ。それに病院内の評価が高いとはいえ、医局では一介の医局員だ。
 だから医局の内部事情なんて全然知らないお母さんが「まだ独身でしょ、説得力がないわね」とか言いかねない。
 田中先生の整った顔とかメリハリのある長身にはミーハー的な目で見そうだけれど。
「そうですね……。出来れば田中先生と柏木先生夫妻が来て頂ければ最も良いのですが……」
 オレの考えた作戦はこうだ。
 まずは病院一のモテ具合を誇る田中先生の笑顔と巧みな弁舌で母さんの心を開いて、その唇で「この柏木先生夫妻も教授の覚えも目出度いですし、ナースと結婚したからと言って我が医局内では何の影響は有りません。というか、配偶者がどんな方かなどは関係ないです。ウチの医局は実力主義ですから」とかお母さんが見とれているスキに柏木先生夫妻を実例として紹介する。
 そうなれば良いんだろうけれど。
 田中先生は、思いっきり顔をしかめていた。
「それってどう考えても土日ですよね?医局のイジメ甲斐の有る……いえいえ『可愛い後輩』のためにひと肌脱ぐことに対しては、やぶさかではないですが、貴重な土日はゆっくり休むかデートをするかの二択しか考えていません。それに柏木先生夫妻がいらっしゃれば話はそれで済みますよね。独身の私の出る幕はないと思いますが?」
 キッパリと断られてしまった。まあ、病院一の激務な先生という評判だし、その上東京と京都という遠距離恋愛までこなしている田中先生だって疲労が溜まっていないわけはないだろうし。
 彼女さんの目撃情報が――下手をすればこっそりスマホでデート動画まで摂られるくらいの人気がある田中先生だ――皆無ということから考えても、そして田中先生が時々漏らす言葉からデートは東京でしているようだったし。
 新幹線で約3時間だけれど、やっぱり往復6時間もかけたデートは「愛しい彼女さんに逢う」ためでも体力的にもお財布的にも負担のような気がする。
 すると。

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