香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 56

 まだ二通しか見ていないので、根拠としては乏しいもののハンコで押したように「お嬢様小学校からお嬢様大学卒業」というお母さんと同じような学歴だった。
 まあ、お母さんの時代は東京のように小学校から名門と言われる学校がなかったとかで、中学校から「お嬢様学校」に通ったらしいけれど。
「このお嬢さんはお琴が趣味なのよ。
 それに京都の名家の証しの斎宮代さいぐうだいにも選ばれていらっしゃるという素敵な女性だし、良いお話だと思うのだけれどもっ!!!」
 いつの時代の話だよ……と半ばゲンナリとしながら、火を噴くような感じのお母さんの口を見てしまった。
 大学入試の時にはセンター入試で全ての科目9割以上取らなければ入学は覚束ないので古文の勉強もそれなりに頑張った。まあ、そんなのウチの医局に居る人は――香川教授を筆頭にして――皆そうなので、格別珍しい話ではないだろうけれど。
 その時に「源氏物語」を読んだ覚えが有る。そして斎宮は天皇家に近い姫が一人だけ選ばれて、伊勢神宮に巫女として仕えるしきたりがあって、光源氏の恋人の一人でもあった元皇太子妃が選ばれたとかを古文で読まされた。
 古文って主語が省略されることが多いので、物凄くイライラしたことまで思い出してしまってなおさらウンザリしてしまった。
 そして、今の時代には観光資源にもなっていて、京都の「名家」のご令嬢が十二単じゅうにひとえのコスプレ……いや、古式ゆかしく身に包んで道中を牛車ぎっしゃか何かで行列をするというお祭りがある。
 十二単なんて、体型が隠れるし、白塗りの顔もキモいだけだ。
 それよりも、胸の谷間がくっきり見えて、太ももまでスリットの入っている服の女の子の――と言っても生の人間じゃなくてフィギアなんだけど――方がよっぽど萌える。
 けれど、そんなことはお母さんに言ったら更に逆上しそうなので口を噤むことにしよう。オレが病院で働いている時間に掃除に入られて、棚に並べた貴重なコレクションをゴミに出される危険は冒したくない。
「そういうお上品な人と何を話せば良いか分からないよ……。お琴でもハープでも合奏しましょうとか言われたら嫌だし……」
 せめてネトゲの「荒野行〇」で「一緒に戦いましょう」と言われるのなら良いんだけれど、このお嬢さんズはネトゲとか絶対にしなさそうだもんなぁ。
「K大付属病院の医師だから――しかも、今を時めく香川教授の医局に所属している――こういう良いお話が来たのよっ!!!
 その光栄さを分かって欲しいの!!!」
 そんなことを言われたってなぁ……。

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