香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 49

「ねえねぇ、母さん。オレが女性をウチに連れて来たらどう思う?」
 ホントーに久しぶりにゆっくりと食事を摂った後にコーヒーを飲みながら聞いてみた。
「まあ!!どんな女性なの?」
 お母さんは目を輝かせて身を乗り出してきた。
「ウチの病院のナースだよ。清楚な美人で性格も物凄く……」
 さっきまでの満面の笑みがウソみたいに険しい顔をしている。
 田中先生の予言(?)が当たってしまった!と内心思っても、もう後には引けない。
「ダメです!!私も看護師の方々には嫌な目に何回も遭ったし……。そういう人とは仕事上の関わりが有るのは仕方ないとしてもお付き合いですって!?」
 細い眉をキリリと上げて、ついでに声の音程までも1オクターブほど高い。
「嫌な目って?」
 もしかしてお父さんが不倫とかをしたのだろうか?
「一度目は病院勤務時代だったわね。車の助手席の日差し除けを何気なく下ろしたら携帯電話の番号と名前を書いたメモが落ちてきたわ。『電話待っています』とか。
 あの人達はね、相手が医師なら血眼になって……必死に近寄って来ようとするわ。それこそ手段を選ばずに!!!」
 過去の恨みの――どんな修羅場が展開したのかは知らない――せいか、テーカップをソーサーが割れるんじゃないかと思うほどに叩きつけている。もしかしたらオレの発言で過去の恨みがフラッシュバックしたのかも知れない。お母さんは洋食器も大好きなので、普段使いもウエッジウッドでそれはそれは大切にしているのに、そんなことも忘れ去った感じでガシャンという音がキッチン件ダイニングに響いた。
「いや、それはないと思うよ。岡田裕子さんて言うんだけど、病院では屈指の人気ナースなんだ。
 だから、それこそ先生たちが色々誘っているらしいけれど、一切応じていないって田中先生も言っていたし……」
 やっぱり田中先生の懸念は的中してしまった。というかオレが世間知らずだったせいもあるんだろうけれど。
「そうなの……?ただ、貴方は病院で偉くなって、お父様が体力的に仕事に耐えられなくなってリタイアした後はウチのクリニックを継ぐ役目が有ります。
 クリニックの――というか医師会の――奥様達の集まりの時にも然るべき教育を受けていないと久米家の恥になります。
 それに、大学病院の出世を考えると配偶者がナースなんて言語道断だわ。
 わ・た・しは反対ですからね!!!」
 断固とした口調で叫ばれてしまって、しかも目は血走っているという「修羅場」にオレは溜め息をついた。
 そして。

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