香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 43

 田中先生が称賛を込めてーールックスの良さだけでなくて芯の強いところとか、機転が利くところとか親切なところとまで含めてーーあだ名をつけたアクアマリン姫こと岡田看護師もオレの両親に会いに行くとなると、物凄いプレッシャーなのかも知れない。
 オレを夜食のたこ焼きとかを買わせにバシらせた杉田師長なんかはーーオレ自身密かに尊敬しているほどの救急救命術の達人だし、咄嗟とっさの判断力は神がかり的だ。まあ、目の前にいる田中先生も同じような能力は持ち合わせているのでーー当然敬愛している。ベテランナースは皆自分の仕事に自信を持っている。
 ただアクアマリン姫はまだ新米なので職業面でも自信はあまり持っていないような気がする。オレも研修医としてまだまだ医局の先生方とか看護師に「常識的な範囲」で叱り飛ばされている。
 「大学病院の研修医は人間扱いされない」と聞いていたけれども、ウチの医局の場合は田中先生が「医局の小姑」として目を光らせてくれているので、一応人間扱いはされてはいる。何でも田中先生も研修医時代に酷い目に遭ったので、そういう負の連鎖は断ち切りたいとか言っていた。
 それに、田中先生の場合は「お使い」のお駄賃を今日は恵んでくれたし、公私に亘っていろいろと的確なアドバイスをしてくれるので本当にお世話になっているな……と思うと差し入れのコーヒーだけでは少ないような気がしてきた。
 PCの横に置いてあった田中先生が吸っているタバコの銘柄を覚えて買いに行こうとした。
「すみません、少し失礼します」
 そう言って自販機の前に来てお金を入れてボタンをタッチしても品物が出てこない。あれ?故障かな?とか売り切れーーではない。だって売り切れランプが点いていないので。
 キーボードの音をリズミカルかつ物凄い勢いで響かせていた田中先生のところにトボトボと戻った。
「あのう、今夜の人生勉強の授業料をタバコで支払おうと思ったのですけれど、お金を入れても何故かうんともすんとも言ってくれなくて……」
 すっと手渡すのが大人の格好良さに満ちているような気もしたしオレ自身もそれを狙っていたのだけれども、忌々しい自販機のせいで田中先生に相談するといういつものパターンになってしまった。
「ああ、そんなに気を遣って貰わなくても大丈夫でしたのに。ただ……」
 田中先生がタバコの中身を確かめている。オレにもちらりと見えたのだけれども二本しか残りがなかった。
「タバコを切らしてしまう可能性が大ですね。ご厚意に甘えることにします」
 そして。

コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品