香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 33

 街灯が有るとはいえ、深夜の道を歩いていく。ついでにオレが酷い目というか、女性の歩行困難さを体感させてくれようとした田中先生の(多分)厚意を思い返してとても有り難い気分になった。そして道路の横部分の溝の上に被さっているフェンス状のモノなんかは普通の靴なら何の気なしに歩いていたけれども、あのヒールだと嵌まり込んだら大変なことになるんだな……と今更ながら思った。オレは幸いなことに五体満足だけれども大学のカリキュラムの一環として車椅子や松葉杖まつばづえ体験が一回だけ有った。その時も(なんて不自由なんだろう)と思ったし、ウチの家はバリアフリーという観点で建っていないので車椅子なんて絶対無理とか当時思ったが、身体に不自由さのない若い女性もそういう悩みを――といっても杉田師長のように始めっから諦めている人もいるらしいが――抱えていることを田中先生が教えてくれたのだろう。
 もしかしたら田中先生も大学時代の車椅子体験とかから思いついたのかも知れない。
 ただ、田中先生のことだからその「体験学習」の場所で、病院用のナースとかが推すごくごく普通の車椅子を電動式のヤツみたいに思いっきり走らせたとかのエピソードを持っているかも知れないなと思う。
 そういう武勇伝めいたものをたくさん持っているとは聞いていたので。自分で言うのも何なんだけど、オレの場合は優等生として振る舞っていたと思う。その点田中先生は割と好き勝手なことをしていたらしい。
 岡田様とデートの時はヒールを加味して道路側を歩かせようとか、こんな速足は止めようとか思いつつ歩いていた。
 セブイレの割と明るい照明とは裏腹に裸の蛍光灯が侘しげな光を放っているタバコ屋さんが見えてきた。
 オレはタバコを吸わないので、全く注意を払うことなく通り過ぎていたが、確かに道路が見えないように目隠しされている部分が有る。多分、そこに昼間は患者さんが隠れタバコを嗜んでいるのだろう。
 ただ、冬の気配が次第に深まっていく京都の町の真夜中の寒さは底冷えっぽくて外気と隔てられていない場所には居ないだろうと、扉を開けて自販機が数台並んだ店内を歩くと奥には部屋が――といってもほんの形ばかりといった感じだ――有ったのでそこに居るかな?と思った。
 ただ、何となく不法侵入者みたいだったのでドリンクの自販機で温かいコーヒーを買った。一応ブラックとオレ用の砂糖もミルクもたっぷりのヤツを。
 すると。

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