香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 14

 田中先生は、地震の時に真っ先に病院へと駆けつけた香川教授が――まあ、通勤の便利さで選んだのだろうが、教授のマンションが徒歩で直ぐの所にあるのは医局の中に知らない人は居ない。ただ、中にまで入ったという話は聞いたことがない――職階でも最も上だったので、そのまま指揮官になった。まあ、田中先生とか柏木先生などは救急救命室も兼務している上に、救急救命室の杉田師長の貴重な証言によれば、教授も学生の頃にボランティアとして救急救命室にちょくちょく来ていたらしいので、その心得は充分有ったのも良かったのだろう。
 メインロビーを臨時の救急救命として使うという、大学病院始まって以来の快挙を成し遂げた。
 その時の体験を元に教授と共著で本まで出版したり――ちなみにオレも校正作業を手伝ったが――その影響でテレビに出たりと色々と多忙な毎日を過ごしている。
 そんな二人の先輩がこうして付きっきりで指導をしてくれるのはやはり有り難いコトなのだろう。
「田中先生の彼女さんも、こんなヒールを履いているのですか?」
 その当然ともいえる質問に何故か杉田師長が大笑いしている。
 ただ、オレは何気なく、そして何も考えずに言ったこととかが原因で笑われることも多かったので、きっとその類いだろう、きっと。
「これよりも高いヒールの時も有りますよ?」
 田中先生の笑いを含んだ声がコンクリートと非常灯に照らされた空間に響いた。
 ただ、その言葉を聞いて、杉田師長がお腹を抱えて笑っているのは何故なのだろう。ただ、その質問を発するような……そんな恐れ多いコトは出来ない。
 何しろ相手は救急救命室の天使とも悪魔とも呼ばれているナースなのだから。
 なまじっかな医師すらも恐れ慄く人でもある。ある意味、同じ医局に属している田中先生とか柏木先生の方が親しみを覚えるし、会話も出来る。そういう意味ではナースといえども治外法権的な権力を握っている、彼女の経歴と実力で勝ちとった。
 救急救命室の責任者は北教授だが、病院内でも数少ない国際的に認知されている医師の一人だし、災害が起これば常にその現場に行ってしまうので杉田師長が任されているという裏の事情も有ったが。
「ヒールがこんなに歩きにくいとは全く思っていなくてですね……。物凄く勉強になりました。有難うございます!」
 救急救命室の控室に戻ると、唐揚げの香りで安心してしまった。
「あ!このコンビニの代金ですけれども……」
 唐揚げを食べながらそう言ってレシートを取り出した。
 すると。

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