香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 25

 田中先生が品定めをするような感じで見ているのが気になった。香川外科から有能な人間のみが派遣されるという「伝説」の一員への階段を示されたようで個人的には心が宙に浮くくらい嬉しかった。
 しかし、救急救命室派遣の第一人者でもある田中先生の意見はどうやら異なるような気がしてそこが気になってしまう。
「能力的には問題なく思えるのですが……。ただ、医療の現場以外では割とミスをしますよね。そこが気になります。
 ウチの医局とは異なって色々な患者さんに対処出来るかという点や、慌てている時に起こしてしまいそうなポカが多い点が気になります。
 ただ、これだけ遠慮会釈なく突っ込んだ話を聞ける――いえ、褒めているのですが――点に才能を感じますね。
 まあ、私も全力でサポートしますので出来れば救急救命室でも戦力になって頂ければと思います」
 日経平均株価の話がマズかったのかも知れない。ただ、雲の上の存在の香川教授と親しく話す機会などほぼほぼないだろうし、本人も仰っていたように気さくに医局員と話すということもない感じなので今しかないと思って聞いたのだけれども。
 ただ、田中先生が指摘して下さった点は自分でもその通りだと思えたし、それに何より的確な指摘の後に長所もキチンと教えてくれるのだから学び甲斐がありそうだった。
「私で良ければ喜んで……。香川教授の医局に入れたことだけでもとても嬉しくてそして身の引き締まる思いでいたのですが、きゅ……救急救命室にまでご指名を頂けて……本当に。
 ああ、実家のクリニックに就職しようかと布団の中で泣いていた時の地獄のような絶望感から今日は一気に天国に居る気分です」
 万感の思いを込めて言ったせいで舌を噛んでしまった。
 多分、そういう点が田中先生の指摘の通り弱点なのだなと思った。
「ウチの医局しか希望は出さなかったという点も聞いていましたが……ご実家の――まあお父様はそちらをお望みかも知らないですが――クリニック勤務を考えていらっしゃったのですね。ただ、ご実家は確か外科と内科でしたよね。なおのこと救急救命室勤務は役に立つと思います」
 香川教授の意外過ぎる発言に驚いた。医学部は――まあ、ウチの大学以外もそんなものだと聞いた覚えが有る――医師の息子や娘が圧倒的に多いので実家が名だたる病院という人間なんて五本の指では数えきれないほどだった。確か精神科には京都一の私立病院のご令息が居ると聞いていた。ええと、確か清水とかそんな名前の。
 そういう大病院ならともかく、ウチのような町の病院まで把握している教授――まあ、精神科とは異なって名字が病院の名前なので分かりやすいしネットで検索すれば直ぐに出てくるけれども。精神科の場合は扱う患者さんの病気が病気なだけに逆恨みから何をされるか分からないという怖さも他科とは段違いに有るらしくて、地名とか地域名などにすることが多いと父から聞いている。
「ウチのようなちっぽけな町医者までご存知とは、父もとても喜ぶと思います、草葉の陰で」
 感激の余り、何か間違った表現になってしまった。
 すると。

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