香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 13

 関西一のお嬢様大学だけにのんびりおっとりしているのは良いが、思い込むと暴走してしまうというマイペースな面がある。
 そして今は完全に後者モードだ。
 そういう集団に10年も居た学歴を持つだけに人脈は――そりゃあ、香川教授のような世界規模かつ資産価値が多分桁違いの華麗さはないだろうが――それなりに持っている。
 香川教授の医局で思い出したけれども、唯一の内科医として大活躍しているというウワサの長岡先生御用達のフランスの高級老舗ブランドとしても病院でナースの憧れになっているらしいブランドバックを海外旅行の際に余分に買って来ても友達に話すと誰かが欲しいと「必ず」名乗り出るらしい。
 それが普通だと思って育ってきたのに、ウチの大学には裕福とは言い難い同級生が居て物凄く驚かれたことがある。まあ、香川外科にはそういう人はいなさそうだけれども。
「えと。とにかく研修医時代は学ぶことがたくさんあり過ぎて……。それに『あの』教授の医局なんだから、錚々たるメンバーが揃っているので先輩にも可愛がって貰いつつ、教えを請わないといけないだろ?宿直とかも普通に有るだろうし……とにかく今は大学病院に馴染まないといけないと思っている。
 だからお母さん、そういうお話しは一人前の医師として香川教授に認められた後にして欲しい。
 お父さんとお母さんが結婚したのもお父さんが30過ぎてからだったよね?それが普通だろ、な、父さん」
 物凄く美味しそうにシャンパンを呑んでいたお父さんも真顔で頷いてくれた。
「医師が結婚するのは30歳過ぎてからが――学生時代に医学部の同級生同士で付き合っていたとかそういう事情が有る人は別だ――普通で、今、それを考える必要はないと思う」
 オレの味覚に合わせた甘いシャンパンは苦いお酒しか好きではないお父さんの舌に合うとは思えないのだけれども、今日は特別らしい。
「そうそう!取り敢えず、今日は入局とそして目出度く社会人になったってことだけ祝って欲しい……です。
 入局出来ないと思い込んでいた時は、お母さんにもそしてお父さんにも心配かけて本当に申し訳なかったです……。
 ただ、部屋のベッドで寝転がりながらもお父さんのクリニックを継ごうと内科の勉強を始めていたんだよ」
 最後の部分は些細なウソだったが、母の妄想による暴走を止めるためには嘘も方便だ。
 それに引きニート生活時代に――意外に快適だったけど――両親が心の底から心配してくれていたのも知っていた。だから、その御礼だけは言っておこうと思った。
 その夜食べたフランス料理の味は――子供の頃から年に何回か連れて来て貰っている店だったけれど――最高に美味しかった。
 父も母も物凄く喜んでくれたし、親孝行の一環が出来たと思った。
 そして初の「職員として」迎えられた病院では。

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