香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 9

 実家の個室に引きこもって、ベッドの中でコンビニの最も大きな袋にパンパンに詰めて貰ったポテチを食べながら、ちなみに事情を知っている家族は黙って部屋の前まで食事を運んでくれた。
 発表まで――どうせダメに決まっているけれど――こうして「自宅警備員」状態を継続して、その後父のクリニックを継ぐために内科の勉強をしようと心に決めていた。
 ベッドの中では大泣きしつつ、ポテチを食べてコーラをヤケ飲みして恋愛シュミレーションゲームに逃避しながらも、あの「綺羅綺羅しい」集団に入ることが出来なかった自分の至らなさをついつい責めてしまった。その悔しい気持ちを込めてポテチとじゃがり○をバリバリと音を立てながら食べていた。
「入るわよ、いいかしら」
 お母さんが昼食を運んでくれてからそう時間は経ってない。
「何だよっ!!邪魔しないって言ってただろっ!!」
 気持ちが荒むと言葉遣いまでがそうなるとは知らなかった。そもそもここまで落ち込んだことは生まれて初めてで、「いいな」と思った片想いの女の子に彼氏が居たことが判明したり「ごめんなさい。もう二人きりで会うの止めましょう」とか言われたりしても、良く有ることだと諦めの境地だったので、ここまで両親に――今、お父さんは診察中なのでここには居ないけれど――当り散らすことはなかった。
「それが、心臓内科からの封書なの。それもかなり分厚くて」
 心臓が止まるほど驚いて、ベッドから文字通り飛び上がった。その拍子にポテチとコーラがベッド全体に散らばってしまっていたが、この際どうでも良かった。
「直ぐ出る!いや、ドア開けても良い」
 お母さんは扉を開いてベッドの上の惨状を一瞥して綺麗に描いた眉を上げたものの、何も言わなかった。
 俺は母親の手から封筒をひったくり犯のように荒々しく取ってハサミを探す時間を惜しんで指で開けた。
 「入局決定のお知らせ」という文字が――もちろん実際は正式な文書なので黒色だったが――金色に輝いて見えた。
「お母さん『入局のお知らせ』って書いてあるよね?」
 自分の目が信じられなくて。お母さんにも確認しつつ、頬を思いっきり叩いた、痛かったけど。
「ええ、念願の香川外科に入れて本当におめでとうございます。お父様にもこの紙を持って行っても良いかしら」
 書類などの用意する物とか、香川教授のお祝いの言葉などが封筒の中に入っていて、先程とは異なった意味での涙が零れてきた。
「合格か……」
 お母さんが――きっと患者さんが途切れたのを見計らってお父さんにもその書類を見せるべく部屋の扉から身を翻して走り去る。俺は信じられない思いで、ベッドに座った。
 すると。

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