リスタート!!〜人生やり直し計画〜

水山 祐輔

平凡な日々

2004/8/31
あれから2ヶ月経った。
先生から意味深な言葉を残されたこともあり、
この2ヶ月拓哉は有沙の周りで監視していたが、驚くほど何もなく2ヶ月が経過していった。


(本当に何にもないな…最後の思わせぶりなアレはなんだったんだろう…)


真夏のジリジリとした暑さの中、プールサイドに座って体育の授業を見学していたその顔は今の空とは違い晴れ晴れしい面はどこにもなかった。


「たくやくん!」


「わっ!!」


背後から大声で呼びかけられ、拓哉は思わずその場で跳ねる。


「ど、どうしたの?」


「いや、ぼーっとしてたから。プールに入れないなんてざんねんだね!」


そんなに笑われてもというくらいの笑顔に拓哉は何も返せず、笑って誤魔化しているだけだった。
そんな最中、有沙の表情がスッと落ち着いた。


「あ、りさ…ちゃん?」


「ねぇ、たくやくんは『転校』しちゃうの?」


そう聞かれた瞬間、拓哉の鼓動は激しく波打った。
1番聞かれたくなかった人、1番知られたくなかった人に1番知られたくなかったことを明確に聞かれたのだ。


「し、しないよ!どうしたのさ、急に…」


「このまえ、びょういんにいたときにそんなことがきこえて…」


「気のせいじゃない?」


「そうなんだ!じゃあよかった!たくやくんもプール入れるようになるといいね!」


そう言った有沙の顔には、先までの落ち着いた表情は消え、いつもの明るい笑顔が戻っていた。
拓哉はホッとして、顔からも力みが抜ける。
そこで、チャイムがプールに鳴り響いた。
授業の終わりのチャイムを聞いた先生は


「それでは、来週からは来月の運動会に向けて練習するから、体育着に着替えて校庭に来てね。
間違って水着に着替えないように」


辺りからドッと笑いが起こる。
拓哉からしたら何が面白いのかよくわからなかったが、その場に合わせて笑っていた。
そんなぎこちない笑いを有沙に見られているとも知らず。




















2004/9/3
「1年生の学年種目は大縄跳びです!」


相沢先生が声高らかにそう告げたのはその次の体育の授業であった。
周りの児童からは喜びの声とあまり嬉しくなさそうな声が半々ずつくらい聞こえていた。
拓哉は運動も苦手な訳ではなかったが、勉強と比べると頭抜けてはいなかった。
というのも、脳は20歳そのままだが身体は小1、ある程度使いこなすのがうまい程度のものだった。
あの後、プールは全て見学していた拓哉にとっては久しぶりの体育への参加となった。


「それじゃあまず、縄を回す人を決めたいと思います。じゃあ…やりたい人!」


相沢先生が大きく手を挙げてみせると4人ほどの生徒が手を挙げた。
話し合い…は揉めそうだと判断した相沢先生は早々にじゃんけんで回し手を決めてしまった。


「次は並び順を決めるよ〜ジャンプするのが得意だよっていう人はなるべく外側に行くようにしてね」


そう言われるとザワザワと生徒たちは並び始めた。
拓哉もとりあえず有沙の隣へ。
しかし、運動も割と得意な方な拓哉とは違い有沙はあまり運動が得意ではなかった。
そのため、ほぼど真ん中に位置する有沙の隣に運動できる組の拓哉がいるため、周りからは怪しまれるような目で見られる。


「たくやはもっと外だろ!」


「楽しようとすんなよ!」


「いや、そういう訳じゃ…」


「あれ?たくやくんこんなにまんなかなの?」


ついには有沙にまで、聞かれる始末に仕方なく、1番縄の外側へと移動する。
と、回し手に就任した啓太に


「おまえ、ほんとにありさがすきだな!」


とからかわれてしまった。
練習が始まる前からボロボロの拓哉を見越してか先生が次の指示を出した。


「さあ!じゃあ実際に飛んでみるよ〜回し手いくよ!いっせーのーで!!」


と言うと回し手の2人は大きく腕を回して、その手を振り下ろす。


「い〜ち!」


2へと行く前に縄は止まり、再び上に上がることはなかった。


「はいはい!めげないで!もう一回やってみよう」


相沢先生に引っ張られて練習を続けた。
しかし、その日は1度も縄が2周目にかかることはなかった。






















「ねぇねぇ、どうやったらなわとべるの?」


その日の帰り道、有沙が拓哉に聞いてきた。
それまで、全く別の話題を話していたのでびっくりした拓哉は急には反応できなかった。


「どうしたの?急に」


「きょうのれんしゅううまくできなくて…」


「うーん…まだ最初だし、そんなに気にすることじゃないと思うけど」


「でも、クラスのみんなにいやな思いさせたくないし…」


その目は真剣にまっすぐに拓哉を見つめていた。
その視線は拓哉を説得するには十分な威力があった。


「じゃあ、放課後とか練習する?」


「あ、いや、ほうかごはちょっと…」


珍しく言葉を濁す有沙だったが、拓哉もそれほどは気にならなかった。


(塾でも入るのかな?まだ早いと思うけど…)
「じゃあ、中休みとか昼休みに練習しようよ。教えてあげるからさ」


「ほんと!?」


「うん。もちろん」


その時、拓哉は多少なりとも甘く見ていた。
この時の有沙の運動神経の鈍さを…

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