リスタート!!〜人生やり直し計画〜

水山 祐輔

本当の『こと』

2004/6/30
キリッとまっすぐ拓哉を見つめる先生の瞳に拓哉は息を呑む。


「まず、そもそものところから話すわね」


未だかつてない深い話に拓哉は座ったままうなづく。
学校側が何かを隠しているのは拓哉も気づいていたし、気になってはいたが、そこに触れた時の先生達の眼の変わりようを見て、本能的に退けてきた話題だった。
恐怖と不安を半分ずつほど抱えて拓哉は先生の方をじっと見つめる。
相沢先生もそれに応えるように口を開く。


「これはあんまり知られていない、というか知られないようにしているんだけどね…実は日本には子供のランク付けがあるの。
  運動の方面ももちろんあるんだけど、小さい頃から運動能力を測るのは難しいらしくて、そのためにより重要視されるのは『頭脳』のランキングなの」


拓哉にはあまにも大きすぎる話に圧倒されつつ、
先生の話をじっと聞いていた。
さらに相沢先生は続ける。


「幼い頃から子供の潜在的な能力を測っているの。あなたが気にしていた入学直後のテストもその一環だったの。
その他にも、色々な場面で測っていたのよ?」


「そのランキングの1位が僕ってことですか?」


「そうよ。それもダントツの、ね。だから国側も特別扱いしてるわけ」


ひとつずつ、拓哉の中で謎が解けていく。


「そして、そのランキングトップ50の生徒だけを集めた学校があるの。
そこは文字通り、日本の未来のための育成機関よ。小中高の一貫校で、もちろん設備も、教育も、日本トップなのは間違いないわ。
そこにもちろんあなたも招待されてる訳なの。
本当は行くか行かないかは自由なんだけど…あなたは別だわ」


そこだ。
そこである。
拓哉が1番ひっかかっていたのは正しくそこだった。
なぜそこまで自分にこだわるのか?拓哉にはそれがわからなかった。


「どういう…ことですか?」


「ええ。本来、学年ごとのトップ50の生徒には入学できる権利が与えられるわ。
でもね、本当に一握り、その世代のトップ5の生徒には半強制的に入ってもらうことになってるのよ。
そしてそんなトップ5の生徒の元に派遣されるのが、私みたいな先生ってわけ」


「半強制的?」


「さっきも言ったけど、本来は自主参加が望ましいの。親御さんに心配とか反対とかされたくないからね。
基本は両親と学校についてお話しすると来ていただけるんだけど、それでも乗り気じゃない上位5位以内の生徒には…ね。
色々調べてみてわかったんだけど…
君が転校しない理由は別にあるんでしょ?」


拓哉はそこを聞いた瞬間、背筋が凍った。
頭の中で気になっていたことが全てがひとつに繋がった気がしたからだ。


なぜ、有沙が1人になるのをこの人は防げなかったのだろうか?


なぜ、小1の拓哉が少し走りまわった程度で見つかった有沙のことをこの人は見つけられなかったのだろうか?


なぜ、有沙にばかり不運が襲いかかるのか?


答えは全部、わざと、だからだ。
人為的に、独善的に、有沙は巻き込まれたのだ。
そのことに拓哉は気づいた。気づいてしまった。
拓哉の表情が一気に険しくなる。


「それは…脅迫じゃないんですか?」


「へぇ…これだけで意味がわかるんだ。やっぱり賢いわね」


「茶化さないでくださいよ…だいたい、国がそんなことしていいんですか?」


「いやいや、私からは何も。もう種は撒いたし」


「どういうことですか?」


「さあ?まあとにかく、3年の終わりには君は来ることになると思うよ」


相沢先生はそこまで言うと立ち上がる。その顔から薄暗い面は消え、いつもの先生の顔に戻っていた。


「じゃあ、具合が良くなったら教室に戻ってきてね。無理はしなくていいのよ」


そう残し、先生は保健室から去っていった。
拓哉は理解したことと、そうでないことが多すぎて頭がこんがらがっていた。
結局、明確な答えが出ないまま、日常へと戻っていくこととなった。

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