異世界に召喚された殺し屋は自由に生きる

S・R

180話 開戦

 あれから一ヶ月の月日が経った。

 武器や戦争の根回しは、たいした労力も使わなかったが、俺の実績作りが大変だった……。

 なぜ、実績作り?だって?
 そりゃあ、俺が無名だからだよ。

 突然、魔王を討伐したEX級の冒険者。
 聞き覚えはいいが、それ以外の実績はない男に世界の運命は任せられないだろう。
 だから、世界中を飛び回って、たくさんの実績を積んできたのだ。

 小さな村のゴブリン退治から、ドラゴン討伐まで、ひたすら人助けをしてきた。
 今思えば、覇神をパシリにするなど、贅沢にもほどがあると思うけど、悪くは無い。
 たまには、人助けもいいだろう。

 そんなことを考えていると、ミーシャに話しかけられた。

「優真……そろそろ来る」
「ん?……あぁ、そこそこ強い神気を感じるな」

 ここは何も無い平原。
 しかし、俺たちの前には、強固な鎧に包まれた騎士たちが、辺り一面に並んでいた。
 十数国が力を合わせた連合軍である。

 さらに、予めここへ敵が来ると予測していたのだ。

 予測というより、計算だな。
 ナビの未来視にも等しい予測演算により、敵の戦力から作戦まで全て叩き出してしまったのだ。
 正直、これには俺も驚愕した。

 もしかしたら、本当に未来視が出来るかもしれない。
 だって、ナーヴァの娘だし。

「な、なんだアレは……!?」

 どこからか、声が聞こえてきた。

 上を見ると、空が真っ二つに割れていた。
 その割れ目の中を除くと、数十万にも上る数の敵兵が潜んでいた。

「わお……下級神レベルだけど、たくさんいるね。人間の兵士では歯が立たないけどどうするの〜?」

 アルテが質問してきた。

「そのための準備だろ。普通の人間たちには、神さえ屠れる兵器を貸しといたから問題ない。それに、SSS級冒険者なら下級神程度、簡単に倒せるだろうよ」
「……ナーヴァ様に怒られない?一応、僕の上司なんですけど」
「……まぁ、大丈夫だろ。ダメなら、土下座して謝ろう」
「そうだね……」

 さすがに、神を殺せる兵器はやりすぎたか……。
 まぁ、いっか!

「とりあえず、行ってくるわ」
「うん。行ってらっしゃい」

 愛する妻、ミーシャの言葉を胸に抱き、空間に人一人が入れるくらいの亀裂を出現させた。

「んじゃ……暗殺してくるか。そうすりゃ、戦争なんてする必要もなくなるしな」

 ん?じゃあ、なんで戦争の準備なんてしたのかって言ったか?
 そりゃ、念の為だろ。
 暗殺者は任務を失敗してしまった後のことを考えるのも仕事の一つであり、何より妻たちの安全を守るためならばどんなことでもする。

 この1ヶ月間が無駄になるし、暗殺するなら戦争が始まる前にしろって話だが、それなりに準備にも時間はかかる。
 主に、覇神を倒すことによる影響の対応だ。

 もし、そいつが覇神の派閥にでも入っていたら喧嘩を売っていると思われかねない。
 だから、様々な世界を渡り関係者ならぬ関係神たちに話をつけに行った。

「おお、ここが敵の本拠地か」

 空間の亀裂から出ると、目に映ったのは思わず呼吸を忘れてしまいそうになるほど美しい光景だった。
 名工が彫ったと思われる模様に埋め尽くされている巨大な柱に汚れひとつない真っ白な床、その外には無限に広がる宇宙空間があった。

「んじゃ、殺りますか」

 俺は気配を完全に遮断し、死神の力を刀に込める。
 これを相手の首に切り込めれば、その時点で任務は終了。
 同じ覇神であろうと、神気の量に圧倒的な差があるので、ほぼ防ぐことは叶わず死んだことすら気づかずに、その生命を絶たれてしまうだろう。

(お、いたいた)

 今回の標的であるアヴニールは、無駄に豪華な玉座にふんぞり返っており、イライラした様子を隠すことなく貧乏ゆすりしていた。

 俺は念の為に別次元へ移動し、相手の後ろに回り込んだ。
 そして刀を横に一閃。
 その瞬間のみ、刀だけ元の次元へ戻して首もとへダイレクトに当てる。

「へ?」

 そんな間抜けな声を出して、なんとも呆気なくアヴニールは死んでしまうのだった。

「うわぁ……まじで倒せちゃったよ」

 色々用意してきたんだから、もう少し粘ってくれよなあ、というボヤきは誰の耳にも届かず、人知れず暗殺は終了した。



 皆様、大変長らくお待たせ致しました。

 最後に投稿したのは1年前くらいですかね?就活が終了したので完全復活です。

 読者の皆様方が戻ってくれると信じて、これからも投稿を続けさせていただきます。

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