異世界に召喚された殺し屋は自由に生きる
179話 小物
「依頼を受けたのはいいが……何から始めようか」
準備をするにも、やるべきことは腐るほどある。
敵の情報集め、武器の確認、連れていく仲間の構成など、挙げていけばキリが無い。
「いや……違うな」
俺が殺し屋をやっていたのは、人間だった頃の話だ。
今の俺は覇神……万能に近い存在である。
全て同時並行して進めればいい。
「戦争の準備もいるか……」
宣戦布告とアーサーがやって来たタイミングは、ほぼ同じ。
共犯と考えた方がいいだろう。
だったら、そろそろ戦争の準備も必要になってくるはずだ。
他国との話し合いは、お義父さんに任せて、神の領域に足を踏み入れた化け物は、俺たちとSSS級冒険者が戦うのが最善だな。
SSS級冒険者は化け物揃いと聞く。
ミルの母や、ユキがいい例だ。
仮にも冒険者たちのトップだしな。
俺のEX級冒険者の称号は、ミルとの身分差を埋めるための飾りでしかない。
国王が無理やり押し付けたようなものだ。
「さて……」
街道を歩きながら、これからやることについて考え、思わず口端を吊り上げてしまう。
「殺しの準備を始めようか」
殺し屋は辞めたが、その精神が無くなったわけではない。
それに、この殺しは、俺の女に手を出してきたことへの報いを受けさせるためのものだ。
しかし……それでも、笑わずにはいられない。
なぜなら……俺はゴミ共を殺すことに、どうしようもない快感を覚えてしまうからである。
高みの見物をしている奴の、絶望に叩き落とされる表情は最高だ。
いくら見ても飽きない。
「……帰るか」
気合を入れるのはいいが、準備を始めるのは帰ってからだな。
そして、俺は王城へと戻るのだった。
◇
壮大な神殿、その周囲には無限に広がる宇宙空間があった。
そこには、一人の少女がいる。
「優真……」
茶髪のショートカットに少し赤みがかった美しい瞳を持つ少女は、暗い表情をしながら名前を呟いた。
ユキのことである。
「久しぶりに会ったけど……思ったより変わってた」
昔は純粋だった少年が、今では女好きの軟派男になってしまった。
しかも、ハーレムまで築いている。
「それに……」
あの雰囲気……たくさんの人々を殺してきたのだろう。
やはり、私のせいなのだろうか。
そこまで思考すると、私は激しく首を左右に振る。
「……私には関係ない。ただ主神様の命令を全うするのみ」
しばらく歩いていると、柱が端っこで立ち並んでいる大きな部屋に着いた。
玉座の間だ。
玉座には端正な顔立ちをしている男がいる。
肘をつきながら、反対の指はトントンと一定の速さで肘付きを叩いていた。
「報告に参りました。主神様」
「……手短に話せ」
その一言で、主神様の機嫌が悪いことに気づいた。
こっ酷くやられたのだろう。
「余計なことは考えるな……早く報告しろ」
「ッ!!」
一瞬で周囲に神気が充満し、激しい殺気が己にのしかかってきた。
よくある事だが、何度やられても慣れない。
慣れることは無いだろう。
「はっ。新たな覇神、優真への接触に成功しました」
「……それで?」
「彼には大きな弱点があります」
その言葉に興味を持ったのか、アヴニールは少し表情を柔らかくし、前のめりになる。
「ほぅ……それは興味深い。言ってみろ。許可する」
「はっ。優真には複数の妻がおり、自身の命よりも大切にしています」
「なんだと?……そんなものが弱点?」
「は、はい」
また不機嫌になり、神気と殺気が充満する。
アヴニールは、他者を思いやるという感情を持ち合わせておらず、今の言葉を正確に理解することが出来なかったのだ。
「覇神は群れぬ。情はいらぬ。愛はいらぬ。覇神は完璧な存在であらねばならない。それなのに……己の命より、妻の命が大事だと?」
アヴニールは息を荒くし、額に沢山の血管を浮かばせていた。
「そんな軟弱者と、我が同格?……ふざけるなァァァ!!」
そう叫びながら椅子から立ち上がり、僅かな理性で押しとどめていた神気を撒き散らした。
その余波で、神殿は吹き飛び、宇宙空間が大きく揺れた。
「うぅっ!」
なんて、神気の量……こんな化け物に、ナーヴァは圧勝したのか。
そんな思考がでかかった時、すぐさま切り替えた。
殺される可能性があるからだ。
「か、彼は新参者です。主神様と同格というのは語弊があるかと」
反射的に、主を宥めるための言葉を放つ。
「ふぅふぅふぅ……そうだな。我としたことが……取り乱してしまった」
アヴニールは指を鳴らし、神殿を一瞬で修復させてみせた。
さすが、覇神と言ったところだろう。
「でかしたぞ。ユキよ……これで、忌々しい我が予言を覆せることが出来る……くはははは!!」
「ありがたき幸せ」
これで、しばらく機嫌を損なうことはないと思う。
そう思いたい。
こんな思考に気づかないほど喜んでいる。
それほど、己の予言に恐怖していたということだろう。
「では、失礼します」
そう一言告げて、私は転移する。
◇
場所は、ベネスティア王国付近の森。
ここなら、ほとんど人が来ることがないので、安心して転移することが出来る。
転移魔法は使い手が極端に少ないので、見られたら面倒なのだ。
「やはり……私の主は小物だ」
そんな呟きを残し、王都へと戻っていくのだった。
準備をするにも、やるべきことは腐るほどある。
敵の情報集め、武器の確認、連れていく仲間の構成など、挙げていけばキリが無い。
「いや……違うな」
俺が殺し屋をやっていたのは、人間だった頃の話だ。
今の俺は覇神……万能に近い存在である。
全て同時並行して進めればいい。
「戦争の準備もいるか……」
宣戦布告とアーサーがやって来たタイミングは、ほぼ同じ。
共犯と考えた方がいいだろう。
だったら、そろそろ戦争の準備も必要になってくるはずだ。
他国との話し合いは、お義父さんに任せて、神の領域に足を踏み入れた化け物は、俺たちとSSS級冒険者が戦うのが最善だな。
SSS級冒険者は化け物揃いと聞く。
ミルの母や、ユキがいい例だ。
仮にも冒険者たちのトップだしな。
俺のEX級冒険者の称号は、ミルとの身分差を埋めるための飾りでしかない。
国王が無理やり押し付けたようなものだ。
「さて……」
街道を歩きながら、これからやることについて考え、思わず口端を吊り上げてしまう。
「殺しの準備を始めようか」
殺し屋は辞めたが、その精神が無くなったわけではない。
それに、この殺しは、俺の女に手を出してきたことへの報いを受けさせるためのものだ。
しかし……それでも、笑わずにはいられない。
なぜなら……俺はゴミ共を殺すことに、どうしようもない快感を覚えてしまうからである。
高みの見物をしている奴の、絶望に叩き落とされる表情は最高だ。
いくら見ても飽きない。
「……帰るか」
気合を入れるのはいいが、準備を始めるのは帰ってからだな。
そして、俺は王城へと戻るのだった。
◇
壮大な神殿、その周囲には無限に広がる宇宙空間があった。
そこには、一人の少女がいる。
「優真……」
茶髪のショートカットに少し赤みがかった美しい瞳を持つ少女は、暗い表情をしながら名前を呟いた。
ユキのことである。
「久しぶりに会ったけど……思ったより変わってた」
昔は純粋だった少年が、今では女好きの軟派男になってしまった。
しかも、ハーレムまで築いている。
「それに……」
あの雰囲気……たくさんの人々を殺してきたのだろう。
やはり、私のせいなのだろうか。
そこまで思考すると、私は激しく首を左右に振る。
「……私には関係ない。ただ主神様の命令を全うするのみ」
しばらく歩いていると、柱が端っこで立ち並んでいる大きな部屋に着いた。
玉座の間だ。
玉座には端正な顔立ちをしている男がいる。
肘をつきながら、反対の指はトントンと一定の速さで肘付きを叩いていた。
「報告に参りました。主神様」
「……手短に話せ」
その一言で、主神様の機嫌が悪いことに気づいた。
こっ酷くやられたのだろう。
「余計なことは考えるな……早く報告しろ」
「ッ!!」
一瞬で周囲に神気が充満し、激しい殺気が己にのしかかってきた。
よくある事だが、何度やられても慣れない。
慣れることは無いだろう。
「はっ。新たな覇神、優真への接触に成功しました」
「……それで?」
「彼には大きな弱点があります」
その言葉に興味を持ったのか、アヴニールは少し表情を柔らかくし、前のめりになる。
「ほぅ……それは興味深い。言ってみろ。許可する」
「はっ。優真には複数の妻がおり、自身の命よりも大切にしています」
「なんだと?……そんなものが弱点?」
「は、はい」
また不機嫌になり、神気と殺気が充満する。
アヴニールは、他者を思いやるという感情を持ち合わせておらず、今の言葉を正確に理解することが出来なかったのだ。
「覇神は群れぬ。情はいらぬ。愛はいらぬ。覇神は完璧な存在であらねばならない。それなのに……己の命より、妻の命が大事だと?」
アヴニールは息を荒くし、額に沢山の血管を浮かばせていた。
「そんな軟弱者と、我が同格?……ふざけるなァァァ!!」
そう叫びながら椅子から立ち上がり、僅かな理性で押しとどめていた神気を撒き散らした。
その余波で、神殿は吹き飛び、宇宙空間が大きく揺れた。
「うぅっ!」
なんて、神気の量……こんな化け物に、ナーヴァは圧勝したのか。
そんな思考がでかかった時、すぐさま切り替えた。
殺される可能性があるからだ。
「か、彼は新参者です。主神様と同格というのは語弊があるかと」
反射的に、主を宥めるための言葉を放つ。
「ふぅふぅふぅ……そうだな。我としたことが……取り乱してしまった」
アヴニールは指を鳴らし、神殿を一瞬で修復させてみせた。
さすが、覇神と言ったところだろう。
「でかしたぞ。ユキよ……これで、忌々しい我が予言を覆せることが出来る……くはははは!!」
「ありがたき幸せ」
これで、しばらく機嫌を損なうことはないと思う。
そう思いたい。
こんな思考に気づかないほど喜んでいる。
それほど、己の予言に恐怖していたということだろう。
「では、失礼します」
そう一言告げて、私は転移する。
◇
場所は、ベネスティア王国付近の森。
ここなら、ほとんど人が来ることがないので、安心して転移することが出来る。
転移魔法は使い手が極端に少ないので、見られたら面倒なのだ。
「やはり……私の主は小物だ」
そんな呟きを残し、王都へと戻っていくのだった。
コメント
S・R
ノベルバユーザー523679様、コメントありがとうございます!!
天が多いのは、どっかの誰かさんが名前をノリで決めたせいですね笑
くっ!……ここでもノリで決めた弊害が!……やはり、刀は和名でないとダメですよね。激しく同意します。
嫁に手を出す男には、息子は要らぬ……