異世界に召喚された殺し屋は自由に生きる

S・R

166話 浮気じゃないよ!ただのお手伝いだもん!

「ここに来んのも久しぶりだなぁ」

 俺は昔を思い出すかのように、遠い目をしながらギルドを見ていた。
 異世界へ来たから、数ヶ月で元の世界に戻ってしまったので、大して利用することは無かったが、ここのギルド長に訪ねたお陰でアルテに出会うことが出来た。
 いや.......俺のことを昔から見てたらしいから、いつかは出会ってたのかな?よく思い返してみたら犯罪臭漂うヤツだった。

「いちいち受付に話を付けるのが面倒いし直接行くか」

 俺はギルドの建物内部に入った後、気配を完全に遮断してエルマの所へ向かう。
 ギルドカードを見せれば会わせてくれるかもしれないが、偽物と言われる可能性もあり大騒ぎになるかもしれない。

 ギルド長室の前まで来たので、扉を二回叩いた。
 そして、エルマの入室許可の声が聞こえたので中へ入る。

「ちょっと話があってきた」
「おぉ!優真くん久しぶりだね!」

 そこには屈託のない爽やかな笑顔を浮かべ、嬉しそうに手を振っているエルマがいた。

「話って戦争のことかな?」

 あんな宣戦布告をされた後に訪ねたので、すぐに何の用で来たのか分かったようだ。

「それが分かるのなら話が早い。精霊族も手を貸してくれ」

 そして、俺は自分の知っていることを全て話した。
 俺が話している時、エルマは顎に手を当てて難しい顔をしていたが、真剣な態度で最後まで聞いてくれた。

「なるほどねぇ.......僕個人が手を貸すのは構わないけど精霊族全体となると難しいかもしれないね。言っちゃ悪いけど、この戦争に精霊族は関係ないからさ」
「その通りだ.......だけどな。お前らの信仰対象であるアルテも戦うんだけど?」

 俺はニマニマと意地の悪い笑みを浮かべる。
 精霊族は万物神アルテを信仰している。
 自分たちが崇めている神が戦っているのに、精霊族だけが戦わないのはアルテが許さないだろう。

「.......確かに君が戦うのならアルテ様も戦うのはずだよね。やっぱり君は良い性格してるよ」
「よく言われる」

 俺は笑みを浮かべる。
 こうして、精霊族の協力を得ることが出来たのだった。



「くくく.......アルテの名前を出したら、すぐに戦争の協力を得ることが出来たぜ。あとはナーヴァの所に行って終わりだな」

 俺は周りの人が見たら、誰もが振り向くような悪人ヅラをしているだろう。
 それくらいの自覚はある。

「そんな悪人ヅラ晒してどうしたの?」
「ん?あぁ。ユキか」

 女の子に話しかけられたので、すぐに振り向いてみたら、そこにはユキがいた。
 よく見たら冒険者のような格好をしており、腰には小さな杖をぶら下げている。

「冒険者だったのか?」
「うん。最近なったばかり」
「そうなんだ。俺は結構ランク高いから分からないことがあれば言えよ」

 俺はカッコつけて言ってみたが、ユキが冒険者カードを見せた瞬間、驚きのあまり頬を引きつらせてしまった。

「こう見えてもSSSランクだよ。冒険者になる前から似たようなことをしてたから大丈夫。私も腕っ節には自信がある」

 俺の申し出を淡々と返事をして断ってくる。
 でも、俺の方がランク高いし!そんなことを思いながら、冒険者カードに伸びかかった手を引っこめた。
 確かに俺の方が高いが、EXランクなんて幻の冒険者ランクのようなものだし、見せても偽者扱いされるのがオチである。

 SSSランクで化け物扱いされるから、EXランクになれば相手がビビって絡んでこないので、面倒事に巻き込まれないと思っていたのだが.......俺の冒険者カード役に立ってなくね?

「ま、まぁ俺も強い方だと思うから何かあれば言ってくれよ」

 これ以上、しつこく話しかけたら恥をかくだけなので、一言だけ告げて去ろうとした。
 しかし.......

「じゃあ、これから依頼を受けるから手伝って」

 俺の袖を掴んで引き止め、優しく微笑みながら言ってきた。
 その優しさのあまり、俺は涙目になってしまう。
 そして、その優しさと美しい微笑を見た瞬間、俺は女神に魅了されたかのように見惚れてしまった。
 もちろん、女神とはアルテのことでは無い。

「どうしたの?」 
「いや.......何でもない。目にゴミが入っただけだ」

 と言って、俺は目元を拭う。

「良いぜ。手伝うよ」

 そして、俺は二つ返事で了承した。
 何より、美少女の頼みを断るのは男として失格だ。

「えっと、今回受ける依頼は.......」

 そこで俺は手を前に出して、説明をやめさせる。

「依頼の説明なんていらねぇよ.......女の子の頼みを断るのは男の恥だからな。んじゃ、今から行こうぜ!」
「やっぱりナンパなの?」

 そして、俺は浮気.......コホン.......ではなく、女の子の頼みで依頼を手伝うことになったのだった。
 ナーヴァのところへ行くのは後回しにしよう。

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