異世界に召喚された殺し屋は自由に生きる

S・R

159話 大物感出す奴ほど実は小物

「ん?2人してどうしたのだ?.......どれ、ハンデだ。いくらでも相談するが良い」

 エトーレは、俺とアルテが目線だけで合図を送った事に気が付いたのか、余裕ぶっこいてハンデをやると言い始めた。

 .......なんかムカつくな
 取り敢えず、俺はもう一度アルテへ視線を送る。
 そして.......

「全く.......ホント優真って人使い荒いわよね」

 エトーレの真後ろの空間に亀裂が走り、少女の声が聞こえてきた。
 その直後、エトーレの胸を華奢な細腕が貫いたのだ。

「.......!?き、貴様ァ.......いつの間に!」

 エトーレの胸を貫いた者の正体は.......

「きゃー!静香ちゃんクールでカッコイイ!惚れちゃうわー!」
「優真うっさい!殴るわよ!」

 静香である。

 俺はアルテに合図を送るふりをし、念話を使って静香に相手の不意を突くよう言っておいたのだ。
 もちろん、これだけでは相手は騙されるはず無いので、『隠蔽神』からコピーした隠蔽能力を使用し、殺し屋時代に培われた演技、そして相手の呼吸を読むなどして、無駄に高度な事をしながら、アルテに視線を向けていたのだ。
 お陰で、簡単に騙されてくれた。
 
 そして、静香は【神通力】の能力で"エトーレに気配を悟られない"という不可能と、"エトーレの胸を素手で貫く"という不可能を可能にしたのだ。

 ここまで特に苦戦することも無かったし決めゼリフの一つや二つは言った方がいいよな。

「ふっ.......元殺し屋ナメんな」

 .......決まったぜ。

 俺は自分の整った顔を利用して、誰もが見惚れる程の美しい爽やかスマイルを浮かべる。

「あんた.......決まったぜ.......とか心の中で思ってるんでしょう?カッコよくないわよ」
「な、なんだと!?」

 俺の爽やかスマイルが効かない!?そんな事は有り得ない!.......いや。なるほど【神通力】か。

「言っておくけど【神通力】じゃないからね」
「俺の心を読むとは.......エスパーか!」
「はいはい。馬鹿なこと言ってないで、さっさと敵を倒して帰りましょう」

 と言って、適当に俺をあしらう。
 なんか、少しずつ俺への対応が適当になってきてない?.......涙が出てきたぜ。

「ふふふ.......捨てられた子犬のような顔をしている優真も可愛いですね」
「ミルぅ.......!」

 俺はミルティアの胸に飛びつく。

「ふふふ.......よしよし」

 こういう時はミルに癒してもらうのが一番だな.......ぐへへ、また大きくなったな。

「.......ねぇ、僕の出番が無いじゃないか!静香が殺るなんて聞いてないよ!」
「あれだよアレ。敵を騙すには、まずは味方から.......って言うだろ?」
「むぅ.......僕が殺りたかったのに〜」

 と言って、アルテはいじけて何かを蹴る。
 .......あ、アーサーの首吹っ飛んだ。

「貴様ら.......私を無視するとは万死に値する!」
「あれ、まだ生きてたの?」

 下級神にしては生命力高いなぁ......."主神様"とか言ってたけど、強力な加護でも貰ってんのか?それなら、あの強さも納得だが.......修行して身につけた力のようにも見える。

「おい.......後ろにいる小娘。私の胸に穴を開けた代償は高く付くぞ?」
「.......!?」

 突如、エトーレから激しい殺気が溢れ出し、濃密な魔力が静香を襲った。

「これで死なないなんて.......神って本当に厄介ね!」

 静香は一瞬で後ろへ飛び引いて魔力攻撃をかわす。

「殺気に魔力を乗せて物理攻撃のようにしたのか.......器用だな」

 地面は深く抉れており、かなりの威力があったみたいだが、そこまで高度な技ではない。
 人間である静香なら有効な手段だが、種族が『神』に変化した相手には無意味な攻撃だろう。

 『神』の魔力は人間にとって、毒となり得るのだ。
 まぁ、静香なら【神通力】で何とかするだろうけど。

「アーサー.......聞こえているな」

 エトーレは頭の無い死体に話しかけた。
 そして、何事も無かったかのように、アーサーは頭が元に戻った状態で起き上がる。

「当たり前だ.......クソっ!何度も俺を殺しやがって.......!」

 たとえ絶対的な肉体への不死能力を持っていたとしても、精神だけは不死能力が適応されないみたいだ。

 このまま何度も殺せば、あいつアーサーの心を壊せるな。
 壊したあとは美徳スキル【正義】を無理やり引き剥がして、俺のもんにしちまうか。
 そんで、解析して複製したあとは、みんな恋人に付与しとこう。

 やることも決まったし、俺も本格的に戦おうかな。

 そして、俺は抑えていた魔力を解き放ち、久しぶりに本気を出すことにしたのだった。

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