異世界に召喚された殺し屋は自由に生きる

S・R

158話 新手

「よし!作戦を考えたから、よく聞けよ」

 俺は高速で思考した末に、ある作戦を考えついた。

「作戦はこうだ.......俺がアーサーをタコ殴りにするから、輝の聖剣で切り刻んでやれ!」

 ドヤっ!という効果音が出そうなほどのドヤ顔で、俺は堂々と完璧な作戦をお披露目した。

「いや、それ作戦って言わないから.......あんた本当に元殺し屋?」
「私も優真が本当に元殺し屋かどうか疑問に思う時があります」
「だよねだよね!優真ってアホだから、そんな大層な職業だった事なんて信じられないよ!」
「てめぇら.......随分と言いたい放題言ってくれんじゃねぇか」

 俺が自他共に認める完璧紳士だからって、言いたい放題言いやがる.......よし、アルテだけじゃなくて、静香とミルもお仕置だな。
 あとで3人ともヒィヒィ言わせてやるぜ!と、頭の中で卑猥なことを考えるのだった。

「そもそも、よく練られた作戦を考えるほど時間がねぇんだよ.......ほら見ろ」

 と言って、俺はアーサーを指さした。
 そこに居たのは、顔を青白くさせて荒い息遣いをしているアーサーだ。
 今にも襲ってきそうである。

「うわぁ.......なんか顔色が悪いよ」

 アーサーの顔を見て、アルテは少し心配そうな表情をする。

「.......キモイね!」

 と思ったら、普通に相手の顔を罵倒した。
 アルテは相変わらず失礼なやつだ。

「そんじゃあ.......殺るか」

 俺は獰猛な笑みを浮かべて、アーサーに一瞬で接近した。
 しかし、俺からは殺気や魔力などが全く発せられておらず、アーサーは反応することが叶わなかった。

「な、なんだと!?」

 接近されていることに気づかなかったアーサーは、驚きで顔を歪める。

 まぁ、元勇者なんだから悪意とかに敏感とは思っていたんだが.......殺気と魔力を隠すだけで、こんな簡単に懐に潜れるとは思ってなかったぞ。

「ふっ!」

 そして、俺は普通のパンチを相手の顔面に放つ。
 俺の拳が、アーサーの顔に触れた瞬間、水風船のように頭の中が周囲にぶち撒かれた。

「.......」

 その後、アーサーの頭は瞬時に再生していくが、その度に俺は拳を放つ。
 つまり、アーサーの再生が追いつかない程の速度で、パンチを連打しまくっているのだ。
 ここまで来れば、ただの作業である。
 俺は黙々と拳を放ち続け、輝のチャンスを作り続けた。
 しかし、いつまで経っても輝は来ない。

「.......何してんだ?」

 俺はパンチを放ち続けながら、後ろを振り向く。

「......そっちに行ったら、僕はアーサーと同じ運命を辿ることになるんだけど.......」
「あ.......」

 しまった.......俺としたことが、こんなミスをしてしまうなんて.......しかし、これでもパンチの威力を最小限して、周りへの被害を抑えている。
 しかし、中途半端な強さを持っているせいで、今の威力を落としたら一撃でアーサーを殺せない。
 そしたら、聖剣の力を解放されるかもしれないしれないのだ。
 もしそうなったら面倒だ.......なんせ、聖剣は最上級神レベルの神が、自重なしで作った武器だからだ。
 そんなものを使われたら、万が一にも俺は重症を負うかもしれない。

 まぁ、【叡智之神ナビ】での計算結果では、そんなことになる可能性は10パーセント未満なんだけどな。
 しかし、それだけあれば警戒するには十分である。

 なので、俺は慎重に敵を倒したいのだ。

「よし.......輝こっちに来い!骨は拾ってやる!」
「だから、死ぬって言ってるじゃん!何が骨は拾ってやるだよ!僕は行かないから!」
「お前.......それでも勇者か!」
「勇者でも死にたくないんだよ!」

 クソっ.......ヘタレめ.......と、俺は理不尽な事を心の中で思い、他の作戦を考えようとした。
 しかし.......

「アーサー.......こんな雑魚相手に何を手こずっているのだ?主神様はお怒りだぞ」

 と言って、なんの前触れもなく現れた男は、俺の拳を剣の腹で受け止めた。

「.......!?」

 その一瞬の隙があれば十分。
 アーサーは瞬時に体を再生させた。

「貴様.......エトーレか」

 何度も殺されて疲弊しきっているのか、アーサーは先程よりも顔色を悪くしていた。

「お前は聖剣が無いと弱い。なのに聖剣を使わないとは.......バカにも程がある」
「き、貴様ァ!下級神の分際で調子に乗るな!」

 その瞬間、アーサーの体は粉々に刻まれた。

「ふん.......その下級神よりも、お前は弱いのだ。勇者の分際で調子に乗るな」

 下級神ね.......それにしては強すぎだろ。
 俺は少しだけ焦りが込み上がってきた。
 本当に少しだからねっ!

「ふむ.......雑魚という言葉は取り消そう。2人だけ私と対等に渡り合えそうな者がいるな」

 と言って、エトーレは俺とアルテに視線を向ける。
 はぁ.......良かった良かった。
 俺のことも含めて雑魚って言ってたから、めちゃくちゃ強いのかと思ったぜ。
 取り敢えず、アルテと一緒に殺るか。

 そして、俺はアルテに目を向ける。
 それだけで、俺の意図を読んでくれたのか、真剣な顔で頷く。

「.......頼んだぜ.......アルテ」

 俺は周りに聞こえないように、小さい声で呟いたのだった。

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