異世界に召喚された殺し屋は自由に生きる

S・R

156話 呆気ない幕引き?

「ふぅぅ.......」

 輝は聖剣を真正面に構え、アーサーの動きを見逃さないように見つめている。
 そして、アーサーは黄金の魔力を放っている聖剣を見つめていた。

 そんな中、輝の後ろから忍び寄る者がいた。

「グォォォオオオ!」
「なにっ!?」

 極限まで気配を消され、真後ろからネットリとした殺気を受けた輝は、見事に不意打ちを食らってしまった。
 警戒すべき敵が、アーサーだけでは無いという事を忘れていたのだ。

「はぁぁっ!」

 しかし、聖剣の力を解放した者に不意打ちは無意味だ。
 まるで聖剣に意思が宿っているかのように、剣筋が流れるように自然と、触手狼の首筋に吸い込まれていく。

「悪いけど君じゃあ役不足さ」

 輝は少しの抵抗も許さず、あっさりと触手狼の首をはねる。
 そして、触手狼は光の粒子となり魔素へと変換されて消滅した。
 それを見たアーサーは、何故か激しく取り乱し、大声を上げて怒鳴り始めた。

「な、なぜだ!?なぜ再生せずに消滅したのだ!?」
「なんのこと?」
「俺のペットにはスキルによる加護を受けているのだ!それなのに.......覚醒したばかりの聖剣で消滅されるなど.......」

 アーサーはプルプルと小刻みに震えながら、怒りで顔を真っ赤にし、血が出るほど強く拳を握り締める。
 恐らく、予想だがアーサーの持っている何かしらのスキルで、触手狼に不死性もしくは強力な再生系の加護を与えていたのだろう。

「貴様のような勇者になったばかりの者が、何故それ程の力を扱えているのだ!理不尽だ!おかしいだろう!」

 最初はペットが殺されて怒っているのかと思ったが、どうやら違ったようだ。

 それにしても.......人の良さそうな笑い声を上げたり、ペットを殺されて怒っているのかと思ったら、よく分からない理由で怒鳴り声を上げたり.......何だか精神が不安定な人みたいだね。
 しかも、全身赤タイツの変態だし。

「何が言いたいのか分からないけど、聖剣の力を解放した時.......何となくだけど聖剣の力を理解することが出来たんだ」

 輝は小さく呟く。
 そして、その言葉にアーサーは、怒りに顔を歪めながらも耳を傾けていた。

「この子の力は.......持ち主が悪と認識した対象を空気中の魔素へと変換させ、この聖剣で吸収し糧とする力.......もちろん、相手が不死者だろうが関係ないよ。この聖剣に斬り裂かれた者は必ず死ぬのさ」

 つまり、敵と認識した者に聖剣で少しでも傷を付けたら、その瞬間に聖剣に吸収されて純粋な黄金の魔力へと変換されてしまうのだ。
 そして、最後に話した通り相手が不死者だろうが、少しの抵抗も許さず殺すことが出来る。

「なん.......だと?それでは借り物の不死性では簡単に倒されてしまうということか」

 触手狼が簡単に倒されたカラクリが分かり、アーサーは冷静さを取り戻した。
 何か対策を思い付いたのだろう。

「ハッハッハッ!その程度の力なら慌てる必要など無かったな。貴様ではオレには勝てんよ。後輩」
「ふぅん.......ただの強がりじゃないの?」

 輝は挑発気味に言ったが、内心では強がりでないことは理解していた。
 自分の勘が告げているのだ.......まだ、あの化け物には勝てないと。
 しかし、輝は絶対に負けることの無い勇者を目指している。
 だから、諦めるわけにはいかないのだ。

「行くぞ!」
「来い!」

 そして、2人は激突する。

 輝は黄金の魔力をその身に纏い聖剣を振り下ろす。
 それに対して、アーサーは真紅の魔力を纏い、腰にかけていた剣を抜いて、真正面から迎え撃つ。
 その剣は、恐ろしいほど透き通っており、血のように真っ赤な色をしていた。

「その剣.......」

 輝は何かを感じ取ったのか、少しだけアーサーが抜いた剣に視線を向ける。
 しかし、直ぐにアーサーへと視線を戻した。

「はぁぁっ!」
「ふっ!」

 輝は黄金の聖剣、アーサーは真紅の剣を使って、互いの剣を激しくぶつけ合った。
 その激しさは、剣をぶつけ合う度に、黄金の魔力と真紅の魔力が地面や大気を走り、周囲の空間が歪んでいると錯覚するほどだ。

 そんな魔王も真っ青な激しい戦闘が繰り広げられている中、周りの空気を読まない自分勝手な殺し屋がアーサーの後ろへ忍び寄っていた。
 その暗殺者の正体は.......

「いつまで経っても終わりそうにないから、俺が殺っちまうか。さっさと帰りたいし」

 もちろん、優真だ。

 何度、倒されようが必ず立ち上がり、絶対に諦めることのない真の勇者が、自分の命をかけて戦い、今まさに盛り上がりの絶頂へと達している所なのだが.......基本めんどくさがり屋な優真には関係の無いことだ。

「取り敢えず、首チョンパして終わらせよう。そんで帰って寝る。いや、溜まったアニメを消化してから寝よう。うん、そうしよう」

 アーサーの真後ろで棒立ちしながら、優真は顎に手を当てて帰ってからの計画を練っていた。

 ん?邪悪な笑みを浮かべて凄そうな作戦を思い付いたような雰囲気を出していたのに、そんな単純な作戦でガッカリしただって?ふっ.......そんな大層な作戦なんて考えなくても、輝がアーサーの気を引いてる時に不意打ちで殺っちまえば良いじゃねぇか。
 これを卑怯と言われようが、空気の読めない邪魔な奴と思われようが関係ねぇ!俺の平穏な日常を邪魔する奴は全員、首チョンパだ!しかし、ただ首チョンパするだけでは、つまらないのも事実.......だったら少し派手さを付け足そうではないか。

 そして、遂にアーサーの首はチョンパされる事となる。
 ロクに戦いもせず、輝の頑張りを踏みにじる者の手によって.......

「ふっ.......始まりの勇者よ!見事な戦いであった!そんな貴様に敬意を評して、その首でド派手な花火を打ち上げようではないか!」

 そんな芝居がかった口調で話し、なんの前触れもなくアーサーの真後ろに出現した。

「.......!いつのまに!?」

 元勇者である自分に、気配を悟られることなく後ろを取った人物に、アーサーは戦慄した。
 そして、輝は.......

「えぇ.......」

 良いところだったのに邪魔しないでよ.......という顔をしていた。

「んじゃ、チョンパすんね」

 その言葉と同時に、アーサーの首は宣言通りチョンパされてしまった。
 そして、頭の方の切断面からロケット花火のように火花が吹き出し、空高く飛んでいった頭は、大きな爆発音を立てた後、大陸中に見えるほどの華を咲かせたのだった。

 もちろん、このセリフも忘れない。

「たーまやー!」

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