異世界に召喚された殺し屋は自由に生きる

S・R

155話 勇者の覚醒!〜そしてお茶会〜

 俺たちは異世界へ向かうメンバーを決めたあと、直ぐに静香を連れて【神通力】の能力で転移した。
 しかし、そこで目にした光景は.......

「着いたのは良いんだが.......アレかなりヤバくないか?」

 優真が視線を向けている先には、全身赤タイツの変態に追い詰められている輝と、その後ろから忍び寄る全身から触手が生えた狼がいた。

「そんな呑気にしてる場合じゃないでしょ!早く助けないと!」

 それを見た静香は、幼馴染を助けるために直ぐにでも突撃する準備をする。
 しかし、それを優真が静止する。

「なんで邪魔するの!?」

 静香は元々短気だが、説明も無しに異世界へ連れてこられた事と、幼馴染のピンチを見て冷静に見ている優真に対して怒鳴りつけた。

「静香さん落ち着いて下さい。優真も何か考えがあるのでしょう」
「うっ.......」

 ミルティアが冷静に優真の考えを読み、静香を鎮める。
 それを聞いた静香は、冷静さをかいたと自覚したのか、言葉に詰まって口を閉じた。

「ねーねー、あの全身赤タイツの変態、凄く強そうだよ。見た目は変態だけど」
「あぁ、いつもみたいに一撃で倒せなさそうだな。純粋な戦闘能力が圧倒的だ。見た目は変態だけど」

 なんで神クラスのバケモンが、この世界にいるんだ?普通は《上級世界》にいるレベルの強さだろ。

 優真は、あれほどの強さを持つ敵が居ることに違和感を持ったが、今はそれどころではないので頭を振って思考を切り替えた。
 そして、アルテと優真は、全身赤タイツの戦闘能力を解析し、そこから一瞬で作戦を頭の中で練った。

「まぁ、元暗殺者の俺が強者に対してやる事と言えば.......もちろん暗殺だよな」

 優真は口端を吊り上げ、魔物も真っ青になるであろう邪悪な笑みを浮かべる。

「えっと.......なにか思い付いたのね?」

 静香は優真の邪悪な笑みに対して、若干.......いや、かなり引いていたが作戦を聞いた。
 そして、優真は作戦を手短に話したのだった。



 このアーサーとかいう男と戦い始めて、かなり時間が経つね。このままだとジリ貧だし、早く優真たちに来て欲しいよ.......。
 輝はアーサーの圧倒的な力の前に手も足も出ず、防戦一方の状態が1時間ほど続いていた。

「ははははっ!後輩よ!貴様は、この程度の力しか持っていないのか!?そんな貧弱な力しか持たず、よく勇者を名乗れたものだな!」
「くっ.......」

 アーサーは輝を嘲笑いゴミを見るような目で見下していた。
 輝は悔しくて反論したい気持ちに駆られたが、アーサーの言う通り自分の力が全く通用せず、自分の力量不足は事実なので言い返す事が出来ずにいた。

「俺も忙しいのでな、そろそろ終わりにようか!」

 そんな気持ちを勘づいているのか知らずにいるのか、アーサーは光り輝く聖剣を両手で力強く握って輝の頭に振り下ろす。
 そんな絶望的な状況の中、輝は諦めずに今の状況を打破する方法を必死に考えた。

 この攻撃は今までとは比べ物にならないほど意力が高い.......!僕の力じゃ受け止めることも受け流すことも出来ない。負けるのか?.......前は自信満々で魔族に立ち向かっておきながら、あっさりと負けてしまった。あの時、優真たちに助けて貰ったから、改めて強くなることを誓い努力した.......なのに、これでも足りなかったのか!僕の今までの努力は何だったんだ!
 輝はギリィと歯を食いしばり、悔しさに顔を歪める。

 優真の圧倒的な力を目の当たりにし、自分は絶対に負けることの無い勇者を目指した。
 それに相応しい力を手に入れるために、血反吐を吐くほど努力したのに、優真たちが救援に来てくれるまでの時間稼ぎすらロクに出来ない。
 そんな挫けそうな気持ちを負けたくないという想いでねじ伏せ、己の戦意を高めるために雄叫びを上げた。

「負けてたまるかぁぁぁぁぁ!!!」

 絶対に負けないという意志を聖剣に乗せ、下から力の限り振り上げた。
 いつもの攻撃では、アーサーの聖剣を受け止めることが出来なかっただろう。
 しかし、輝の強い気持ちを受け取ったのか、聖剣は今まで以上に力強く黄金の輝きを放ち、アーサーの聖剣と拮抗する力を発揮した。

「.......む?」

 聖剣から放たれる黄金に輝く魔力の奔流を見て、アーサーは「まさか.......」と呟いて更に聖剣に力を入れた。

「くっ!これでもダメなのか!」

 輝は、この戦いで何度も限界を超えた。
 その姿は、まさに勇ましく、これこそ真の勇者と呼ぶべきものだった。
 そして、その決して諦めない勇者の努力に花が咲いた。
 突然、頭の中に詠唱の言葉が浮かんだのだ。
 そして、それを無意識の内に口ずさむ。

「.......我、執念深き愚者なり」

 輝の瞳は虚ろとなり、小さく最初の一文を口にした。

「.......我が使命は悪を憎み滅ぼすこと」

 次第に虚ろな瞳には。激しい黄金の炎が浮かび上がる。

「.......この手に持つは黄金の輝き放ちし聖なるつるぎ

 両手で握る聖剣を更に強く握り、アーサーを少しずつ押し返す。
 そして.......

「.......我、黄金の輝きを持つ勇者となりて汝を正義の名のもとに天罰を与えよう」

 最後の言葉を放つ。

「黄金のつるぎよ。今ここで真の姿を現せ。聖剣エクスカリバー」

 この瞬間、輝が持っている聖剣から激しい黄金の渦が放出され、アーサーを吹き飛ばした。

「.......これは予想外だな」

 アーサーは輝に吹き飛ばされてしまったが、受け身をとって直ぐに体勢を整えた。
 そして、目を鋭くさせて言う。

「聖剣の力を解放しやがった」

 輝が持っている聖剣は、ただ黄金の輝きを放つのにとどまらず、周りの瘴気を浄化し薄暗かった空を真昼のように明るくさせた。
 そう.......真夜中なのに真昼のように空を明るくさせたのだ。

「もう僕は絶対に負けないんだ.......!」

 輝は己を鼓舞するように言って、黄金に輝く聖剣を正面に構えたのだった。



 その頃の優真たち.......

「なんか輝のヤツ光ってね?」
「どうやら聖剣の影響を受けているようですね」
「まぁ、強くなったのなら良いんじゃないかしら」
「そうだな。今の輝でもダメそうなら俺たちが殺ろう」
「僕一人でも勝てるし、そこまで心配する必要はないと思うけどなぁ」

 静香は先程まで取り乱していたが、輝の強くなった様子を見て安心したのか、今では随分と落ち着いている。
 そして、他の奴らが決して動じずに慌てないのは、いつものことだ。

「暇だからお茶してるか?」
「「「さんせーい!」」」

 こうして、優真たちは呑気にお茶を飲みながら、輝とアーサーの死闘に決着がつくのを待つことにしたのだった。

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