異世界に召喚された殺し屋は自由に生きる

S・R

154話 もう一度、異世界へ!

『ーーーという訳なんだ』

 お義父さんから、輝たちがいる世界に何が起こったのか聞いた後、優真は頭の中で情報を整理していた。
 えーと.......つまり輝はフィーナ王国のアゴラス国王に正体不明の魔物の討伐依頼を受けて向かった。
 そこで勇者では勝てない敵が現れたので俺を呼ぶためにベネスティア王国の国王であるお義父さんアルベルトに連絡をしたということか。

「輝でも勝てない相手か.......厄介だな」

 優真たちが元の世界に戻った後、異世界に残ったクラスメイトは己の弱さを不甲斐なく思い改めて自分を鍛え直したようなのだ。
 その中でも特に強くなったのが輝である。
 元々、武術、魔法など戦闘に関することへの才能が抜きん出ていたのだが、何故か今まで以上に努力して強さへの拘りが強くなっていたのだ。

「直ぐに、そっちの世界へ向かいます。輝は現在も戦闘中ですか?」
『さっき連絡が来たばかりだから、まだ戦闘は続いてると思う。緊急信号だったから出来るだけ早くしてくれ』
「了解しました。今すぐ救援に向かいます」
『頼んだぞ』

 そして通話を切った。

「何かあったの?」

 ミーシャは切羽詰まった空気を感じ取ったのか、真剣な瞳で見つめながら聞いてきた。

「輝がピンチらしい。今からミルの世界に行ってくる」
「分かった。私もついて行く」

 間髪入れずミーシャは返事した。
 俺のことを信頼してくれているから、即答してくれたのだろう。

「僕も行った方が良いかな?一応、あっちの世界で『万物神』やってるわけだしさ」
「.......そう言えば、お前って部下天使に仕事を任せっきりだったな」

 お忘れの方もいるかもしれないが、アルテは『万物神』という神王級の凄い神様なのだ。
 しかし、そんな凄い神様なのに部下天使に仕事を押し付け、自分だけのんびりまったりと過ごしている駄女神でもある。

 まぁ、俺が連れて来たから文句は言えんし、言うつもりもないけどな。だけど、家事くらいはやって欲しいなぁ.......と実は思っている。

「アルテが神様やってるの忘れてた」
「私も忘れていました」
「アルテ様、まだ神をやっておられたのですか?」

 アルテが『万物神』だという事を改めて聞いて、ミーシャ、ミルティア、ナビは、それぞれ顔をポカンをさせながら「そう言えばアルテって神様だったね」という感じの雰囲気を作り出していた。
 それを聞いたアルテは頬がはちきれそうな程、膨らましてプンプンと怒り出した。

「もー!そんな大事なことを忘れるなんて、みんな酷いよ!確かに僕は部下天使たちに仕事を任せっきりだけど一応、神様なんだよ!」

 自分で「一応」とか言ってるので、駄目な神様だと自覚しているのだろう。
 しかし、それを直していない時点で人に文句を言える立場ではないと思う。という言葉が口から出そうになったが、俺は何とかその言葉を飲み込んで心の内に留めておいた。

 アルテのプリプリ怒った顔は可愛らしいが、あまりイジりすぎると本気でいじけてしまう。

「まぁ、そんな事は置いといて.......」
「そんな事!?」
「.......話が進まないから少し静かにしてくれよ」

 アルテ.......いじられキャラがお前の定位置なのだよ。いい加減受け入れなさい。という理不尽な気持ちを込めた視線を俺はアルテへ向けた。
 その気持ちを察したのか、アルテは額から青筋を出してピクピクさせていた。

「優真、後でボコるからね」

 アルテは何か小さく呟いたみたいだが、不穏な言葉が微かに聞こえてきたので、俺は額から少し汗を流しながら話の続きを始める。

「お義父さんが言うには輝が苦戦するほどの手練みたいだし、俺、ミル、アルテの他に静香を連れて救援に向かう」
「なんで静香も?」

 優真の人選に対して納得できないのか、ミーシャは首をコテンと傾けながら何故か質問してきた。

「俺の転移で行く場合、向こうの世界に行ったあと輝の居場所を探して、また転移する必要があるだろ?面倒だし不可能を可能にする能力を持ってる静香に手伝ってもらおうかなぁってな」
「なるほど。確かに静香が居れば便利」
「静香って本当に便利な能力を持ってるよね!」

 と、三人は失礼な事を言っていた。

「人を便利呼ばわりするのは良くありませんよ.......まぁ、確かに便利ですけど」
「マスターの言う通り【神通力】を使った方が良いでしょう。早く救援に行けますし、とても便利です」

 静香は【神通力】という"不可能を可能にする"という便利な能力を持っている。
 その能力を使えば『異世界へ転移→輝の居場所を探知→輝の元へ転移』という面倒なことをせず、一発で輝の元へと転移することが出来るのだ。

「そうと決まれば静香を拉致って輝の救援に向かうぞぉぉ!!」

 優真はサッカーの試合前の掛け声のような声を上げ、アルテはノリノリで「おぉぉぉぉ!!」と叫びながら両手を高々と上げた。
 この後、優真たちは静香の家に訪ね宣言通り拉致って、静香が持っている【神通力】の能力で輝の元へと向かって行くのだった。

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