異世界に召喚された殺し屋は自由に生きる

S・R

153話 勇者の誇り〜後半〜

 輝は油断なく聖剣を構え、相手の出方を見ていた。

「あんな化物どうやって倒せば良いんだろうね.......」

 冷や汗をかきながらも、全力で相手を倒す方法を考えたが、全く思い付かなかった。
 悩むなんて僕らしくないね.......と輝は考え、一気に距離を詰めて勝負を仕掛けに行った。

 しかし、全身赤タイツは強者ゆえの自信なのか、全く動かずに腰に手を当てて仁王立ちしていた。
 輝は全身赤タイツに振り下ろす。
 その攻撃を全身赤タイツは.......

「ふっ.......まだまだ未熟ではないか。そんな素人丸出しな剣術しか使えないのか?聖剣が泣いているぞ」

 全身赤タイツは額に手を当てて「やれやれ」と言いながら、鼻で笑った。
 しかし、輝は「そんな挑発には乗らないよ」と心の中で言いながら、容赦なく聖剣を叩き付ける。
 そして、全身赤タイツは聖剣を右手の人差し指と中指で挟んで止めた。

「なんだと!?」

 輝は相手が自分よりも圧倒的に強いとは予想できていたが、さすがに二本の指だけで止められるとは思っていなかったようだ。

「弱い.......弱すぎる!その程度の力で勇者を名乗るな!」

 輝は「さっき僕のこと強者って言ったよね?」と、心の中で呟きながら頬を引き攣らせた。
 そして、全身赤タイツは左腕を後ろに引いて、輝の腹に拳を放った。

「ごふっ!」

 全身赤タイツの攻撃を受けて、輝は聖剣を手から話してしまい、地面を転がりながら吹き飛んでしまった。

「良いか?よく聞けよ。俺の名はアーサー。貴様とは違い本物の勇者であり、始まりの勇者である!この俺が本物の勇者とは何なのか骨の髄まで教え込んでやる!」

 全身赤タイツ.......いや、アーサーは怒りのままに殺気を全方位に放ち、自身の魔力を高めた。
 そして、輝は血反吐を吐きながらも立ち上がり、アーサーへと馬鹿にしたような笑みを浮かべて挑発気味に言った。

「.......全身赤タイツの変態が勇者を名乗れるなら、誰にでも勇者になれると僕は思うよ?」

 その言葉を聞いたアーサーは顔を真っ赤にして、さらに怒りを爆発させた。
 短気なのだろう。

「貴様ァァァ!生きて帰れると思うなよ!」
「勇者らしからぬ言葉だね」

 と、さらに挑発した。
 先程から挑発ばかりしている輝も、人のことを言えないだろう。

 アーサーと輝は同時に飛び出した。
 アーサーは右手に魔力を込めて怒りのままに拳を放ち、その攻撃を輝はいつの間にか回収していた聖剣の腹で受け流した。

「やっぱり聖剣って凄いね.......」

 と、輝は小さく呟く。
 輝が持っている聖剣は、たとえ持ち主が手放したとしても、戻ってくるように念じれば、光の粒子となって手元に戻ってくるのだ。

 アーサーは己の拳に魔力を乗せ、輝は聖剣を両手に持ち、交戦していた。
 アーサーは当たれば確実に勝てる攻撃を毎回放っているのに、輝へ攻撃を当てることが出来ずに、攻撃を逸らされ躱されたりしていた。
 相手が、どれだけ強かろうが怒りで我を忘れている奴の攻撃なんて、簡単にあしらうことが出来るという事だろう。
 しかし、決してコチラ側が有利というわけでは無い。

 アーサーの攻撃を何とか対処することが出来ているが、聖剣から自身の体へと衝撃が伝わる度に全身が痺れ、激痛で悲鳴を上げているのだ。
 だから、こんな戦い方は、いつまでも続かないだろう。

「俺のペットを傷付けた事と俺への侮辱の罰として、貴様は楽には死なせんぞ!」
「.......あれペットなんだ。聞き間違いじゃなかったんだね」

 と小さく呟いた。
 まぁ、確かにペットを傷付けられたり自分を馬鹿にされたら怒るけど、怒り方が尋常ではないし、あの狼はペットにしては強すぎる気がするよね.......お義父さんの頼みとは言え、あの狼を僕ひとりで対処することが間違いだったね。
 輝は自分の義父であるフィーナ王国の国王から依頼を受け、触手の生えた狼を倒しに来たのだ。

 もう一人くらい連れてくれば良かったかな?いや、あれアーサーの相手を出来るクラスメイトは僕以外いないだろうし、連れて来なくて正解だったね.......僕では勝てないだろうから、応援を呼ぼうかな。
 そして、輝はアーサーに勝てる人物を呼ぶために"フィーナ王国の国王"ではなく"べネスティア王国の国王"へ、特殊な魔力回線を使って念話で連絡を取った。

「よし.......本当は僕ひとりで倒したかったけど君には勝てないし.......これで大丈夫だね」
「何を言っているんだ?」

 アーサーは眉を真ん中に寄せて懐疑的な視線を向けた。

「敵に教えるわけないでしょ?やっぱり君って馬鹿だね」

 その瞬間、アーサーの姿が掻き消え、気づいた時には輝の目の前まで接近していた。

「なっ!?」
「ナメるなよ後輩.......何度も言うが俺は"勇者"だ」

 そして、輝はアーサーの拳によって吹き飛ばされた。
 この時、輝は「こんな全身赤タイツの勇者なんて、どの世界を探しても居るはずないだろ」と吹き飛ばされながら心の中で思っていたが、残念ながら目の前にいる。

「くっ.......」

 輝は全身がボロボロになりながらも、意識を失わないように頬を殴り、無理矢理にでも立ち上がった。

「君は強いよ.......本当に勇者なのかは分からないけど僕が嫉妬するほどね.......でも僕だって勇者なんだ.......!だから、どんな手を使ってでも君には負けない!それが僕の勇者としての小さな誇りだから!」

 そして、聖剣から眩い黄金の光を放ちながら、輝はアーサーへと向かって行くのだった。

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