異世界に召喚された殺し屋は自由に生きる

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138話 元太の修行物語11〜人類最後の砦〜

 ソードが振り下ろした剣は、地面に半径50メートルくらいのクレーターを作り出した。
 そしてソードは、邪神に剣先を向けて口を開いた。

「シュナイツ王国騎士団団長ソードの名において、これより邪神の討伐を開始する!」

 ソードの体から赤黒くて青い稲妻のようなものが走る。
 そして身体能力が更に上昇した。

 ソードが使用した『奥義 修羅悪鬼』とは、体内の血液と魔力の流れを無限に加速させ続け、人間の身でありながら神の領域にまで至ることの出来る技である。
 しかし、代償は大きい。
 この技は、『限界突破』とは違い、使用後の反動が、かなり大きいのだ。
 『限界突破』は、1日後の力を引き出すだけだから、疲労と魔力の使用に制限が掛かるだけだが、『奥義 修羅悪鬼』は、血液と魔力の流れを加速させるものなので、血管や魔力回路に大きな負担が掛かり、最終的には破裂してしまう。
 だから、この技を使う時は短期決戦が望ましい。
 しかし、邪神相手には短期決戦は無理だろう。

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 — ギュオォォォォォォ!!

 ソードは雄叫びを上げながら剣を振り下ろし、邪神は剣を弾くために真正面から拳を放った。
 そしてソードは、邪神に力勝負で負けていまい、剣を逸らして攻撃を後ろに流した。

「ふぅ.......」

 力勝負で勝てないと分かったソードは、一呼吸開けた後、更に血液と魔力の流れを加速させ、スピード勝負に出た。

 ソードは、一瞬で邪神の目の前まで距離を詰め、剣を真横に振って切り裂いた。
 しかし、邪神の腹にはかすり傷しか付かず、ソードは「ちっ」と舌打ちした後、すぐさま同じように邪神に接近した。
 その攻撃を一瞬のうちに数十回繰り返し、体中に薄い傷が沢山できたところで邪神も『憤怒』の出力を上げた。

 — ゴアァァァァァァァ!!!

 『憤怒』の出力を上げたことで、魔力の波が広がり、邪神を中心に周りにあるものが、ソードも含めて吹き飛んでしまった。
 その衝撃波が、元太と照子の所まで行ったが、照子が咄嗟に結界を張ったお陰で被害は出なかった。

「.......やはり手も足も出んか」

 邪神に付けた傷が一瞬で再生し、更に力も上昇したので、ソードは冷や汗をかきながら苦笑いをした。
 邪神の圧倒的な力を見て、自分のような矮小な存在が馬鹿らしくて笑ってしまったのだろう。
 しかし、ソードの瞳には諦めの色が見えない。

「.......邪神の方が優勢だけど、真正面から向かい打てるソードさんも凄い」

 照子は、ソードと邪神の戦いに魅入っていた。
 何故なら、優真の力の"残りカス"である邪神に、真正面から戦うことが出来る人間がいるとは思わなかったのだ。

「ソードさんのステータスは見たことあるけど、何か特別なスキルなんてあったっけ?」

 元太と照子は、1度だけソードのステータスを見たことがあるのだ。
 そして照子は、ソードのステータスを思い出した。

ソード
男 43歳 人族
HP100000000
MP85000000
筋力87000000
防御92000000
俊敏90000000

固有スキル
身体掌握 魔力掌握 限界突破

スキル
剣術Lv10 身体強化Lv10 MP自動回復Lv10
HP自動回復Lv10

称号
元EXランク冒険者 シュナイツ王国騎士団長
人類最後の砦

 ソードは特別なスキルが一つも無く、はっきり言って凡人だ。
 つまりソードは、死ぬほど辛い修行や修羅場を何度も潜って、ここまでの力を手に入れたのだ。
 その精神力には、さすがの優真でも舌を巻いた。

「.......!?くそっ」

 ソードは少しも邪神の一挙一動を見逃さないように、瞬きをせずに見ていたのだが、邪神はソードに掌を向けて禍々しい魔力弾を大量に放った。
 一つ一つが街一つを吹き飛ばせるほどの威力があり、ソードは躱したり剣の腹で逸らした事でダメージが入ることは無かった。
 大量の魔力弾を放ち続けているのに、一向に当たる気配が無く、邪神は苛立って雲の上に飛び立った。

「.......何だ?」

 邪神が突然、空に飛び立ったので、ソードは首を傾げた。
 しかし、邪神が飛んだ理由は直ぐに分かった。
 突如、雲が綺麗さっぱり消えて、代わりに巨大なドス黒い太陽が降ってきたのだ。

「なんだアレは!?」
「あんなのが降ってきたら、この国、いや大陸が吹き飛ぶぞ!」
「あ、あんなの防げないよ!」

 元太、ソード、照子は空から降ってきている巨大な真っ黒い太陽を見て戦慄した。
 元太と照子が慌てる中、ソードは直ぐに気持ちを切り替えた。

「アレは私が何とかする。お前たちは自分の回復に専念して、回復し終わった後、王国へ戻るんだ」
「ふざけんな!俺たちだけで帰れるわけないだろ!そもそもアレをどうにか出来んのか!?」
「.......更に『修羅悪鬼』の力を上昇させれば対処できる。だから自分の回復に集中しろ」

 そして元太は、ソードの肩を掴んで言った。

「くっ.......分かった.......師匠、死ぬなよ」
「死ぬ気など無い。お前には、まだまだ教えたい事が沢山あるからな」

 と言って、ソードは不敵に笑った。
 そして、背を向け言った。

「.......すまない.......後のことは任せた」
「.......!?お、おい!師匠!」

 ソードの最後の言葉を聞いて、元太はソードが嘘をついた事に気づき、急いで止めようとしたが、その時には黒い太陽に向かって飛んで行っていた。
 つまり、この戦いで死ぬ気なのだ。
 あの黒い太陽は命を賭けなければ止められないということだろう。

「ソードさん.......」
「クソっ!」

 照子は大量の涙を流し、元太は地面に拳を叩きつけた。
 しかし、やはり2人の目には絶望の色が一切浮かんでいない。

「.......師匠を助けに行くぞ!」
「.......!うん!もちろんだよ!」

 しかし、2人は体がボロボロの状態なので、肉体と魔力の回復に集中した。

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