異世界に召喚された殺し屋は自由に生きる

S・R

56話 久野優希の過去

「なんだ、この気持ちは.......初めての感覚だ。ま、まさか!こ、この私が恋をしたのか!?.......だが私の中には2体の妖怪が封印されているし、私自身も半分妖怪だ…気持ち悪いと思われるに決まっている…」

 久野は嬉しそうな表情をしたり、悲しそうな表情をしたりなど、忙しそうに表情を変えていた。
 久野には2体の妖怪が封印されている。それはダイダラボッチと八岐大蛇ヤマタノオロチという大妖怪だ。

 久野の中にダイダラボッチと八岐大蛇ヤマタノオロチが封印されているのには理由がある。
 それは今から10年の時を遡る.......



「お母さん!見て見て!妖術を使えるようになったよ!」

 "テクテク"と小さい足で走りながら、母の元へ向かっている少女が居た。そう、小さい頃の久野だ。
 久野の母は、金色の髪と瞳を持っていて、腰には9本の美しい黄金に輝く尻尾が生えていた。
 見ての通り、久野の母親は大妖怪、九尾なのだ。
 小さい頃の久野は、活発で色んなことに興味を持っていた。
 そして母親の事が大好きで、よく一緒に遊んでいた。

「あら!優希は凄いわね!でも、まだまだお母さんには勝てないわよ!」

 と言って、久野の母は指を鳴らし、綺麗な花畑の幻影を出して、大人気なく実力の差を見せつけた。

「むぅ…いつかお母さんを越えて1番凄い大妖怪になるから覚悟しててね!」

 久野の母親は、九尾の始祖に並ぶと呼ばれていたほど強いのだ。
 そして父親は普通の人間で祓魔師をしている。

「優希は凄いな!これはすぐにお父さんよりも強くなっちゃうな!わははは!」

 と言って、久野の父親は豪快に笑った。
 久野は父は、身長2mくらいの大男で、見た目通り、かなりの力を持っており祓魔師の中では、かなり強い方だ。

 久野の家族は妖怪達が集まる里で幸せに暮らしていた。
 だか、それもあと数日で終わる事に、まだ誰も気がついていない.......



「わぁ!綺麗な箱だー!中には何が入ってるんだろう?」

 久野は森の奥まで遊びに来ていた。里には何も無いので、よく森まで遊びに来るのだ。
 そして、そこには古い祠がある。
 その祠は里で決められた掟により、絶対に中に入ってはならぬ、と言われていた。
 しかし、久野は誰かに呼ばれている気がして中に入ってしまった。
 最初は興味を持っただけで開けようと思わなかった。里のみんなに祠の中にある箱を触ったらダメだとよく言われてたからだ。
 久野が引き返そうとした瞬間、声が聞こえた。

────開けろ.......開けろ.......開けろ.......開けろ....... 開けろ.......開けろ.......開けろ.......開けろ....... 開けろ.......開けろ.......開けろ.......開けろ....... 開けろ.......開けろ.......開けろ.......開けろ....... 開けろ.......開けろ.......開けろ.......開けろ.......

 と、頭の中で何度も不気味な声がした。
 そして久野は、何かに操られているように自分の意思に関係なく箱を開けてしまった。



「あれ?.......開けちゃった.......絶対に開けたらダメだって言われたのに.......でも何も無いよ?.......」

 そして、その時は来た.......
 急に禍々しい雰囲気が出てきて、巨大な妖怪たちが無数に中から出現したのだ。

 そこからはあっという間だ。
 その妖怪達に里を滅ぼされたのだ。
 そして久野は父と母に助けられ、生き延びたが両親は死んでしまった。
 あまりにも呆気なかったので久野はただ、里が滅ぼされるのを見ている事しか出来なかった。
 それでも妖怪達は暴れ続けた。
 そして数時間後に祓魔師達がやって来て、ほとんどの妖怪を退治する事が出来た。
 だが、箱から出現した中で、特に強かった2匹の巨大な妖怪が残っていた。
 ダイダラボッチと八岐大蛇ヤマタノオロチだ。
 気がついたら久野の前にはダイダラボッチと八岐大蛇ヤマタノオロチに苦戦している祓魔師たちがいた。
 それを見た久野は、やっと現実を見ることが出来て頬から大量の涙を流した。
 そして久野は、両親が死んだ悲しみで無意識の内に完全封印を使い2匹の巨大な妖怪を封印した。
 そして脅威は去った。
 その日から。久野は周りから忌み子と言われ蔑まれ続けた。



「嫌な事を思い出してしまったな…それにしてもこの程度で惚れるとは、私はちょろすぎるな。」

 明日、どんな風に優真に声をかけようか考えながら、久野は軽い足取りで家に向かった。

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