乙ゲーから転生した悪役令嬢は何気に女子高生を満喫しています。

おきたくん@沖野聡大

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とりあえず私たちは与えられた部屋で荷解きをしている。一人の部屋もまた広い。まだお昼頃だ。色々これから遊べるだろう。灯に綺麗な雪景色の写真を送る。みんなにお土産なんか買っていこう。

コンコンとドアがノックされる。誰だろう。

「…?どうぞー。」

ノックした相手は朝から変なテンションのままのエルだった。

「ごめんね、儚日。まだ荷解きの最中だよね。」

「いやちょうど終わりそうなところですよ。エル先輩は自分の荷物は大丈夫なんですか?」

「うん大丈夫だよ。服とかもある程度は別荘に揃ってるからさ。」

無意識だろうが、はあっとため息をついて私のベッドに腰をかける。普段女子を意識しているエルなら女の子のベッドに座るなんてなかなかしないはずだ。普通に椅子あるしね。不覚にも少しドキドキしてしまう。

「で、どうしたんですか。何かありました?」

「いや、なんでもないよ。君と少しでも長く一緒にいたいだけ。」

こういうことをさらっと言えてしまうのは前世でも同じだった気がする。なんてキザな男だろう。

「…儚日。」

エルはそう呟き、ベッドから立ち上がったと思うと荷解きをしている私を後ろから抱きしめてきた。

「えっ!?ちょ、なんですかほんと。先輩らしくないですね。」

「……。」

返事はないがぎゅううっと抱きしめる力が強くなる。まるで前世のころの〝本当に気を許した人にしか安心して素を出せなくて、友達が少なくて、無口で気難しいガブリエル〟だ。あんなに女の子弄んどいて素がこれとか…。

「ごめん、しばらく…もう少しだけ、このまま。」

でもこうしてくれるってことは、私はその安心できる人の中に入っているってことなのかな。それと裏腹に脳裏に過ぎるのは顔も名前も知らない彼だ。なんて薄情な人間なんだろう。っていうか、彼がそもそも転生していなくて一生出会えない可能性だってある。

「…好き、好きだよ儚日。」

ドクドク、とエルの鼓動を感じる。

こんなに自分を思ってくれる人を棒に振って、いつ現れるかも分からない人を待ち続ける。それは猫谷儚日という一人の人生として、どうなのだろうか。私自身は何が良いと思っているんだろう。…あれ、そもそも私なんでそんな前世の彼に固執しているんだっけ?

「…ふふ、儚日には、叶わないなあ。」

「え?いきなりどうしたんですか?」

パッと解放され、後ろを振り返ると軽く笑うエルがいた。

「意外と泣き落としに弱い女の子とかって多いのにな。なのに儚日ちゃん普通に考え事してるんだもん。ほんっとガード固すぎ。」

いつも通りの女を落とすにっこりスマイル。

「…もしかして今日少し元気がなかったのも最初から、」

「うん、演技。だって俺のタイムリミットはあと少しだからね。」

「なっ!さいてーですよ!」

私のパンチをエルは軽くかわす。

「まあまあ怒らないでよ。俺も儚日チャージできたから夕食作りの手伝いにでも行くかな。儚日も荷解き終わったらおいで、ふふふ。じゃーね!」

バタン、扉が閉まる。嵐のような人だ。…相変わらず。真剣に考えてるこっちの身にもなってくれって。

「ああ!もう何なのさ!」








案外茗荷谷の別荘はいい所だった。もらったぶどうジュースもとてもおいしい。彼の家はかなり有名な海外のIT会社の創始者の家系だ。まあ、こんなもんなのか。猫さんもある意味玉の輿だ。別れる兆しも特にないし。ああでも社長夫人になるってなると少しネックではある。とても面倒臭そうだ。まあでも、

「あんな溺愛度だったらなんとかなりそうだけど。」

ゲレンデが少し遠くだが見える。こんな別荘持ちの生活を送れるなら、俺だったら喜んで嫁に行くけどね。

「あれ、君は確か。」

噂をすれば何とやら。面倒臭いの擬人化の登場だ。

「こんにちは茗荷谷さん。公安の末端の俺まで誘ってくださってありがとうございます。」

「末端だなんて、謙遜はいらないよ。君は桜井の優秀な右腕じゃないか。うちの寺島もお世話になっているみたいだし。」

仮面のような笑顔、これで文武両道で社長の息子ときたらモテないわけがない。できれば関わりたくないないものだ。話題を変えよう。

「そういや茗荷谷さん、今日は雰囲気が違って見えたんですが戻ったんすね。体調悪いかと思ったんですけど。」

すると相手は目を丸くする。
ーーやってしまったか。
普段から揚げ足を取るような仕事をしているからか、ついつい人を見すぎてしまう癖がある。

「忠野くん、君ってすごいね。さすが公安の観察眼だ。ごめんね雰囲気悪くさせちゃってたかな。たまにああなっちゃうんだよね。でももう大丈夫。」

「そうなんすね。まあ無理しないでくださいよ。主催側のあんたが本調子じゃないとこっちも調子狂うんで。」

「ははは、君も言うねえ。」

本当に驚いているのかは定かではないがここは相手に合わせておこう。変につつかれなければ特に害がある訳でもない。

「あ、そういえばさ。すごい踏み込んだ質問になっちゃうんだけど忠野くんと寺島って付き合ってるの?それなら、」

「ぶっ!!!」

災害級を投げつけられた。何を聞き出すんだこの男は。思わずイケメンにぶどうジュースを吹きかけるところだった。一歩間違えれば女子たちからの非難の標的になるところだ。

「いや、ごめん!そんなに取り乱すと思ってなくて。」

「いやほんといきなりすぎません?なんなんすか。別に島ちゃんとはただのゲーセン友達ですよ。」

するとなんだか残念そうに肩を竦めた。悪かったな、色恋沙汰には無縁な男なんだ俺は。

「それがどうかしたんすか?」

「うーん、そうだね。…ごめん、やっぱりなんでもないや。なーんだ、てっきり付き合ってるのかと思ってたよ。今日も一緒に来てたしさ。」

もごもごしている茗荷谷は珍しく思える。何か言おうとして踏みとどまったようだ。本当の要件は彼自身の中で解決したらしい。咄嗟に話題を変えたのがその証拠だ。俺に相談事をしようとしてくるくらいだ。どうやら本当に本調子ではないらしい。

「あれは島ちゃんが張り切ってたから仕方なくです。」

「そうは言わずにさ、考えてやってくれない?あの子のこと。」

肩に手をポンっと置いてくる。おいおい、俺は女の子じゃないってのに。

「可愛い後輩の恋は応援してあげたいんだ。
ーーまだきちんと気持ちを伝えられるうちにね。」

含みを持たせた言い方が余計に俺の好奇心を刺激したのは秘密だ。

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