乙ゲーから転生した悪役令嬢は何気に女子高生を満喫しています。

おきたくん@沖野聡大

28

「違う。」

む。

「ここも違う。」

むむ。

「あのねえ、猫谷さん。俺に嫌がらせしたいの?それとも本気?」

むむむ。

「…言葉もありません。」

いつになく真剣かつ少々呆れた顔で茗荷谷エルは私の英文を見ていた。これから蓮とファミレスで会う約束をしていたのだが間に合いそうにない。時間がではない、私の頭が。

「そもそもこの副詞を使う時はこれは使っちゃダメなんだよ。文がおかしくなっちゃう。」

いつもヘラヘラしているこいつだったが、全然甘くなかった。きちんと本当に教えてくれている。楓の件はまだ本人にあってないから確認はできていないが、もしかしてきちんと取り合ってくれたのだろうか。いやいや待て待て。そもそもこいつのせいでここまで拗れたんじゃないか。感謝するなんてとんでもないことだ。

「ねえ、ちゃんと聞いてるの?いくら猫谷さんでも怒るよ。」

ポケーっとしていたであろう私をとらえたのは、初めて見る茗荷谷の冷たい視線。へっへーんだ。私がビビると思ったか!確かにあんたのその視線は初めてだけどガブリエルのは本物も一枚絵でも見たことあるもんねー!

「はい、またここからやり直して。これじゃ追試通り越して単位取得試験に突入しちゃうよ。俺、また一年生の猫谷さんと会うことになっちゃうよ。」

「だってしょうがないじゃないですか。外国語ってできないんですよ。私日本人だし。」

「君は昔から変わんないなぁ、もう。…これやったらとりあえず今日は終わりにしよう。どうせ君の集中力じゃもう持たないだろう。あ、そうだそうだ…猫谷さんこれから暇だったりする?」

ぴくりと肩が震えたのを自分でも感した。けして私の集中力云々で貶されたからではない。そしてそれを茗荷谷は見逃さなかった。やつは口角を上げて続ける。

「もちろん。着いていって、いいよね…?」

そりゃあもう女の子何人も倒しそうなあまーいあまーいマスク(仮)で私に仰ったわけですよ。結果はもちろん白旗で終わってしまうわけで。









んげ、あのアマとんでもねえやつを連れてきやがった。これまでを語り合うため、再度集まったのはファミレスだった。が、フローレンス…猫谷儚日が連れてきたのはそれにそぐわない雰囲気を醸し出す男だった。俺はこの男を知っている。

「こんにちは、蓮さん。…あの、ですね?これにはわけが。」

「お前…なんっで!!」

弁解しようとした儚日の前にすっとその男は入り込み、俺に不敵な笑顔を浮かべる。

「初めまして、いきなりお邪魔してすみません。俺は茗荷谷エル。儚日がいつもお世話になってます。」

これが俗に言うマウント、というものだろうか。こいつはガブリエルだな。この歳で既に口が達者なのだから困ったものだ。宰相だった頃より、というより俺より年が下だからだろうか。以前より随分と行動が大胆になっている気がする。

「俺は夕島蓮。

「彼は前紹介した私のお隣さんの弟さんなんです。趣味の話で意気投合しちゃって。」

…そうなんだよな。」

人を殺すような目で俺に合わせろ〜合わせろ〜と訴えてくる。そりゃあ合わせるしかないが。なんだよ趣味って。乙女ゲームだったら確実に痛いヤツ確定じゃねえか。

「ふうん。あのお隣さんのね。確かに似てるかもね。」

俺を凝視するエル。お前は小姑か!!確かに前世でガブリエルは婚約者の男と小さなマウントの取り合いをしていたような気もする。

ーー俺はそこに入ることすら許されなかったわけだが。

まあそれは置いといて。

「まあそこに突っ立ってるのもあれだし座れよ。今回はちゃんと持ってきたから奢るし。」

とりあえず座るように促す。それにしても、ファミレスで奢りってのはなんだかなあ。俺ってやっぱり肝心なとこダメだよな。向かいに二人して仲良く座った彼女たちは話し始める。

「ていうか、この前も思ったんだけどさ。猫谷さんお隣さんもこの人のことも名前で呼ぶよね。ねーえ、俺のことも名前で呼んでみてよ。」

なんだなんだ、何を早速見せられてるんだ俺は。

「ええ、面倒ですよ。そもそも呼び方なんてなんでもいいじゃないですか。」

「良くなくないー。そうやっていっつも猫谷…はっ儚日ちゃんはさあ。」

むーっとわざとらしい頬のふくらませ方をするエル。顔がいい男ってのはどうしてこんなに憎たらしいのか。アニキもそうだがこいつも中々だな。

「なっ!やめてください。変な勘違いされたら困るじゃないですか。」

「じゃあそれこそ呼んで、儚日?つーかテスト教えてやんないよ?」

「もーう…エル、さん。はいはいこれでいいですか。もう勘弁してくださいよ。」

痛い少女漫画の一部始終を見ているようだ。エルの耳が赤くなっている。儚日は気付いていないようだが。

「うーん、七十点かな。」

俺の方を軽く見てからそう言った。儚日に名前呼びされて嬉しがりながらも俺に向けての敵意は消さない、なんて器用な。まあそんな器用じゃないとあの国の宰相なんてやってられないよな。うんうん。

「いやいや、お前ら俺に何を見せに来た?俺暇人だけどそういうの見るほど暇人でもないぞ?」

ドリンクバーのコーラをストローで飲む。うっすいんだわ、これが。

「この人とは!そういうのじゃないですから!もうほんとなんで着いてきたんですか。」

「だって儚日ちゃんが下手な男に捕まってるかと思ったんだもーん。」

「…だもんじゃないでしょう?」

完全にキレ気味の儚日をからかうようにつんつんするエル。前世のアニキの誕生日パーティでも彼女たちはこんな雰囲気であった。なんだかんだ形に収まるのだ。…出会ってしまえば。こいつもアニキも、俺も。

「…全く昔から変わらないな。お前たちは。」

そう俺が言った時にコンマ一秒、エルが止まったことに俺たちは気付きもしなかった。

「…あんたもね。」

そう小さく返された言葉もファミレスの喧騒に溶け込んでしまい、俺たちの耳には届くことはなかった。

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