光の幻想録

ホルス

#48 隔絶海洋都市 アトランティス

 ──全国から集められた能力者を1箇所に集わせ能力の研究、発展、応用、そこに集められた知恵と技術を全てを総動員し作り上げられたもの。
 外部との交流を絶たれ唯一の外部へと繋がる通路は南方に架けられた大橋のみ、円型の島にビルや学校、その他研究施設などを乱立させ地区毎に役割を担わせる。
 ──研究施設が多く並び一般人の侵入が固く禁止されている第1区。
 ──同じく研究施設施設が並ぶが第1区程ではなく、研究員の中でも位が低い者たちが肩を並べる第2区。
 ──在宅可能なオフィスビルや高層マンションが多く並び立ち、交通網が複雑で迷いやすく、ショッピングモールがある住みやすい第3区。
 ──同じく住宅街があり、比較的貧相な住民たちが暮らしている第4区。
 ──学園が数多く存在し、この都市の学生ならば必ず訪れる。学びの舎や必要である土地、一人暮らし用の小さなアパートなどがある第5区。
 ──第1区が南、第2区西、第3区東、第4区北西、第5区北東と第1から第3区までの3つが75%の面積をしめており、第5区は住宅エリアに挟まれるような形で存在している。
 当然だが第4区にはろくでもない人間しか住まない、第3区で問題を起こした人間も迫害されるように第4区に追いやられ蔑んだ目で見られることが殆どだ。かく言う俺も第4区の住人で、研究員と揉め事を起こしたせいでそうなっている。──全くお笑いぐさだ。

 そして都市に集められた能力者の中には極めて能力の質が良い者、もしくは極めて稀な能力を所持している能力者が存在する。その者たちはトップの能力者と呼ばれ崇められているという話だ。まあそうなってからは研究員が毎日のように俺の体を調査したいだの実験したいだのと言われる毎日、終いにゃ第4区のガラの悪さから腕試し感覚で襲いかかって来るヤンキーも居る。
 なぁ?面倒な話だろ。聞いた話によると第3区のトップの能力者の1人である夢宮なんかはそうでもないらしいが、あいつ自身が周りに幻想を見せてるからとしか思えねえ。

 ……さて、戻りたくもねぇ現状に戻るとしよう。
 俺は起きている時は幻想郷に居たはずだ、ひなをあやしている内に次第に睡魔が襲ってきてそのままぐっすりと寝てしまったまでは覚えている。
 だがどうしたことか……俺が今いる場所は都市で俺が住んでいたアパートの一部屋だ。カーテンも開けず太陽光も入らない最悪な立地で、あるのはキッチンとトイレ、それから人1人がようやく住めるようなスペースのみ。
 その中央にボロボロの敷布団と薄っぺらい掛け布団が掛かっていて、なんとも寒そうな……。

「戻って来たって事か……」

 軽い頭痛に襲われる頭部を右手で抑えながら立ち上がる、顔を洗うためにキッチンへ向かって蛇口を捻るが水が出てこない。ボロアパートにはよくある話とは聞くが今は死活問題なのだ。
 ぱぱっと海色の能力で水を作り出し水分を欲していた喉に潤いを与え、玄関を出て外の景色を確認する。
 何度も言うが立地が悪く、目の前は道路だ。しかもかなり通行量が多くとめどなく車が飛び交う。そこに稀に飛行能力を持った能力者が空をかけているという面白い光景を見れたりする。

「以前と変わりはないか」

 当然と言えば当然の話だ、俺が居ないというだけでそこまで都市が変わっていたりでもしたらそれこそ恐怖しかない。
 そろそろひなを起こして飯でも作って……待てよ、冷蔵庫の中身全てダメになってるよなこれ……開けないでおくか……?

「ひな、ひな起きろ」

「ねぇむぃ……」

 ゴロンとそのまま寝返りを打って背を向けるひな、お前は猫かひな。

「弱ったな……あぁカップラーメンがそう言えば残っていたか。ひな、悪いが起きないならこれで我慢する事になるぞ?」

「それでいい……」

 まあ人間眠気には勝てねぇもんな、ひなをそのまま寝かせておいて海色の能力と点火の能力を使用してヤカンを沸かせる、そのままお湯を注ぎ込んで数分待機。
 ほんとこういう時は便利だな俺の能力は、かと言って消費する力が通常の能力者の数倍にも及ぶからそうそう多用出来るもんじゃねぇが。

 ──その時、閉めたはずの玄関からガチャりと鍵が開く音がして扉が開かれた。

「え……?」

 そこに居た者は持っていた花瓶を落としてしまった、それは驚きからか?恐らくそうだろう。
 俺はその人物をよく知っている、少し控えめでそれでいて少し活発。ヤンチャなとこもあって少しひなと存在を重ねてしまっていた者。
 銀髪のショートヘアに真紅の目、アルビノで肌は限りなく白くそれでいて虚弱体質の少女。
 ──アルビノにより迫害され第4区に追いやられた貴族の娘……。

「アイリス……!」

「楽さま……!」

 持っていた巨大なレジ袋をその場に落として高そうな靴を履いたまま突撃しヘッドアタックを……

「ぐぁ……ッ!?」

 持っていたカップラーメンが宙を舞った。
 ひなにかからなかったのが不幸中の幸いと言えるのかどうか。ア……アイリス……。






「ごめんなさい!ごめんなさい!!ごめんなさい!!!」

「大丈夫!大丈夫だってアイリス!ほ、ほらこうやって吹けばすぐ!な?」

 雑巾で水拭きしてラーメンのスープを拭き取り掃除を済ませたが、若干ラーメン臭さが取れない。
 アイリスも泣き崩れる寸前でその場で蹲っていてどうする事も出来ない、ひなはあれからぐっすり眠ってしまっていて掛け布団から手足をはみ出して……ったくこの生き物は……。

「私ったら……本当にごめんなさい……」

「良いって事よアイリス、それにしても何で俺のとこに来たんだ?」

 雑巾を水で浸して絞り、乾かす為に干しておく。
 ボロボロのクッションをアイリスに渡してやって下に敷くように促したが、貴族様にこんなもの渡してやってのがバレたら俺は間違いなく死刑だ。

「実は……その、楽さまが居なくなったあの日から毎日……はい……」

「……不法侵入じゃねえかそれ」

 当然鍵もかけてあれば常に窓も閉めてある。なのにどうしてアイリスが入って来れたのか、合鍵なんてものは作ってないしな……。

「もしかして能力で入って来てる……?」

「はいぃぃごめんなさいぃぃ!!」

 ま、まさかアイリスがここまでヤンチャな子だとは思わなかった。
 アイリスは障壁を作り出す、またその障壁を自在な形に操り操作する事が出来る。その強大な能力から都市トップに入る能力者の1人である。
 そのトップ能力者が不法侵入を繰り返す少女であったと知られれば都市での名誉が……この事実は墓まで持っていかないといけない。

「楽さまが戻って来ているかもしれないと思ったらやめられず……で、でもこれも全て楽さまの為で……寂しかったのもありますが……」

「気持ちはありがたいよ、ゴメンな心配かけて。俺はもう大丈夫だ」

 ひなと同じくらい小さな頭を撫でてやる。過去にこうして何度かアイリスの頭を撫でてやったっけな、どこかでひなと比べて自身の寂しさを無くしていたっていうのはどこかであったのだろう。

「ところで楽さま、そこに居られるのは……」

「悪い紹介が遅れた、俺の妹だ」

「という事は救出してきたのですか!?」

「道のりは長かったけどな……今は奴らを討つ為にどうやって元の世界に行けるか考えてるとこだな」

「良かった……この居なくなった期間で楽さまは……本当に……良かった……」

 突然泣き出したアイリスに慌てて声をかけるが大きく嗚咽を零しながら泣き崩れてしまう。
 どうしたものかと頭をフル回転させた結果、何故か暖かなコーヒー牛乳を作ってアイリスに渡した。いや、何故俺もそうしたのかは分からないが頭に過ぎったのがコーヒー牛乳だったのだ、

「ありがと!」

「アイリス大丈夫か?ほらこれティッシュだ」

「大丈夫です……ちょっと、楽さまの立場を思ってしまったら悲しくなってしまって……本当に、お帰り頂き良かった」

 コーヒー牛乳が空になったカップを台所に置いておき、話を戻す事にした。いや、俺が居ない間に都市で何らかの変化があったのか、それを聞きたかった。

「いえ特に変化はありません、私たち4区の人間にはそういった情報が通達される事はあまりありませんが、今現在でも楽さまが消えたあの日から変わったことはありません」

「藤淵一族に動きは?」

「それも込みでありません」

「そうか……アイリス自身に何か変化はあったりしないか?」

「私ですか!?わ、私は別になんとも……あ、でも聞いてください楽さま!身長が136cmから138cmになりました!」

「そ、そうか……アイリスまた大きくなったようで何よりだ……」

 ちゃんと食ってるのか不安になるくらい小さいアイリスだが本人がこうして元気に振る舞っている事から別に問題は無いのだと思う。そもそもアイリスはそういった隠し事が絶望的に下手くそなのだ。
 そう言えば遥か昔にひなも身長を測ってその時確か……140cmだったか?今はもっとあるだろうがひなもひなで大きくなったなあ、俺は嬉しいよ。

「アイリス昼飯は食ったか?」

「いえ、まだ頂いていないです」

「私もー」

「その辺のファミレスで良かったらご馳走出来るけど、アイリスはどうする?」

「え……!?私がよろしいんですか!?」

「何言ってんだ当たり前だろうに、寧ろファミレスなんかで良ければだけど」

「是非!是非御一緒させてください!もちろんひなさんも一緒に!」

「ひなちょっとぐっすり寝過ぎだな、おーいひなそろそろ起きてくれー。飯食いに行くぞ」

「んぁ……ご飯……?ッ……んーー!良し行こうからく」

 大きく伸びて体に鞭打って立ち上がるがパジャマのままなんだが……我が妹ながら抜けてる部分がある。
 そそくさとひなの着替えを用意してやり外で待つこと数分、ようやく準備が出来たそうなので3人でファミレスへと出発する。着替えている間にひなとアイリスたちが少し話したようで壁はあるものの話せているようだ。
 さて、俺のボロアパートからファミレスまでは2通りの道がある。1つは大通り……まあ国道みたいなものだな、そこを渡って行く方法と、地下を渡って行く方法。
 大通りは第4区といえど比較的整備されていて信号もしっかりしているが、何分車の方が交通法を守らない輩が多く頻繁に事故が発生する。
 地下はヤンキーの巣窟、この世のゴミダメのような場所でそこに2人を連れて行くのかと言われるとどう考えてもやめておきたい。
 
 従って俺が選択したのは──、大通りである。

 ボロアパートの目の前の道路の坂道を登ってゆき、辿り着くのは広く出た大通り。まあさっき言った問題の場所だな。
 早速車が事故って煙をあげてお釈迦になっている、運転手同士の殴り合いや能力使用の喧嘩はここでは一種の名物にもなっている。
 大柄の男と貧弱な男がやり合っているが、大柄の男の能力はそう大したものでは無さそうだ。能力に甘えず己の恵まれた体格を活かした接近戦に持ち込んでいるようだが、対して貧弱な男は能力に恵まれている。突風を操る能力とみたが、体格に恵まれているお陰か吹き荒れる嵐でも飛ばされず耐え切り、そのまま貧弱な男に殴り掛か──、

「やめなさい!」

 二人の男に間に透明な障壁が仕込まれ、大男の拳が思いっきり潰れ、貧弱な男は自身に能力が降り注ぎ服がズタボロになって頭部が荒ぶっていた。
 これはアイリスの能力である障壁、複製能力ではあれ程的確にかつ迅速な障壁は作れない。アイリスのみの特権だな。

「お二人共おやめなさい、ここは公の場。大の大人がみっともありません!」

 ア、アイリス今幾つだっけか……あんな小さいのに倍近くある大男を言葉だけで言いくるめて泣かせている……。
 「すまねぇ……すまねぇ……」と大男、「ごめんなさい!ごめんなさい!!」と貧弱な男……こ、これはひなの教育に良くないかもしれない。

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