光の幻想録

ホルス

#30 変獄異変 8.

 地獄に閃く2つの光、遠目から見守る閻魔や魂たちはその美しさに目を奪われ喉を鳴らす。
 火花と同時に激しい轟音が衝撃波と共に押し寄せる事から、外の世界に通じる言葉をそのまま利用して“花火”の様だと、後に1人の閻魔はそう綴っていた。
 それは私も同感だ、これ程までに拮抗し実力が同じ者同士の戦は指で数える程しか経験が無いし見たこともない。
 “そら”から眺める分それはそれは綺麗で、そして本当に儚い。
 私も参加したいのは山々だが、地上に居る私に命令された以上この場から離れる事は一切出来ない仕打ちを食らっているのだ。
 いやはやとても面倒だ、私も地上へ降りて私と入れ替わって遊び倒したいのに……。

「──様、八雲紫様より派遣されました八雲藍で御座います」

 あっ……そうか、今日はその日だったのをうっかり忘れてしまっていたようだ。
 我ながら自分のうっかり加減には頭を悩ませるものだ、まあでも人間でいう人格が半分に分け隔てられているという弊害から生まれたバグだし、文句は地上に居る私に言うとしよう。

「入りなさい藍」

 九尾の化け狐の妖怪……いいや、妖獣に近しい存在の八雲藍という女は、幻想郷という幻想を創り上げた賢者と呼ばれる者の内の1人、八雲紫の直属の式神だと聞いている。
 外の世界の伝承通り九尾の狐とはほぼほぼ伝説に近しい存在と云われ、そこに『藍』という式神が憑く事によって今の彼女があるそうだ。
 外の世界だけで見れば彼女は途方もない力を秘めた者だろう、それが何故八雲紫に仕えて式神となっているのか。
 それこそ彼女の内心をまさぐる他無いだろうけど、私はそこまで興味を持て余してはいない。

「失礼致します。早速ですが早急にお伝えする事柄が御座います、数日前に我らが幻想に紫様を通じて正式に踏み入った博雨光という人間についての事に御座います。彼の体内に外の世界にのみ存在すると思わしき“物質”が埋め込まれている事が判明、外の世界曰くそれは“闇”と呼称される魔の物質、手段等を誤れば幻想に被害を被る可能性が浮上しております。ですが奴を幻想に留めておかなければ、博麗大結界は確実に崩壊を招いてしまいます」

 …………なるほどね、味方をする理由はそういう訳だ。
 あの結界が崩壊するのだけは避けなければならない確定事項、と言う人間については幻想に留める必要があるが“闇”が被害を産み出す可能性もあると……。

「その人間についての決定権は其方に委ねます、お好きになさい。早急の要件は1件のみですか?」

「もう1件御座います、現在発生している異変についての御報告に御座います。元凶は外の世界より違法侵入した人間の手によるもの、地獄の力を強引に引き出し地上を地獄そのものとさせようとしております、既に人間だけでなく妖怪や妖精にも被害が出ており紫様は元凶たる人間の処罰へ赴いております」

「それは事前に幻想についての情報を掴んでいたという事になるな。侵入して地獄の在り処を突き止め引き出そうとするには相応の準備が必要になろう。外の世界に此方を覗く事が出来るもの、または幻想内にスパイが居るのだろう。早急に見つけ出し処す及び覗く目を潰せ」

「承知致しました。早急の件は以上にて御座います故、では賢合会議を始めたいと存じます」

 何度と繰り返されて来たこの会議もそろそろ飽き飽きして来た頃合だ、いつも通りの面々が四方八方に設置された椅子に腰掛け円卓を作り上げ、中央には議題を問う藍が居る。
 正直前々から思っていたけど、この会議には何の意味も無いと私は思っている。
 だって他の賢者たち寝てるし、外の世界から持ち出した“ゲーム機”というもので遊んでいたり、仕舞いには肉体のみを残して魂だけ何処かへ向かって遊びに行く者さえ居る。
 硬っ苦しいのは嫌だからのびのびとやろうと言い出したのは先代の ──── だけど、それにしたってハメを外し過ぎている気がする。
 いや良いんだけど何かこう、モヤモヤする。

「議題を問います 賢者の一柱 摩多羅またら様。現在起きている異変及び外の世界からの一方的な視察、これらの対策についてお聞かせ願いたく存じます」

「秘神に問いを投げるとは愚か極みたりね、貴様はたかが式神だと言うことを忘れるでない」

 面倒くさい……。
 賢者という称号を得ている者たちはどうして揃いも揃ってここまで性格がひねくれて面倒なのか。
 藍も可哀想なのよね、紫がここに来たくないというだけの理由で毎回代理出席をして私以外に進行を進めたがる奴が居ないから自分で進行を切り出して、それで文句を言われるんだからその内キレるんじゃないかな。

「承知の上でもう一度申し上げます、対策についてお聞かせください」

 まだキレる事はなさそうね。
 あの2人だといつも通り今の台詞が何回か繰り返されて長引くでしょ。
 その間に私は地獄でやり合ってる2人の続きを見て会議をサボる、もはやこれがテンプレートみたいなものだった。




 ────



 未だに2つの輝きが互いにぶつかり合う。
 その衝撃波は遠く離れて視認していた閻魔を通り越し連なる山々をも震え上がらせ噴火を促す。
 閻魔や魂たちがワーワーと叫びながら避難する中、等活エリア閻魔である四季映姫は未だに遠く離れた場所から彼女たちを見つめていた。
 それは単なる興味からか、またはそれ以外に何か感じているのか、それは彼女自身にもハッキリとしては分かっておらず、溶岩がすぐそこに迫っているというのに傍観を繰り返していた。

「おらァァ!!」

「はあァッ!!」

 魔理沙は笑顔だ。
 なにやら邪なオーラを雰囲気で出しているが根本的には善良な気持ちで一杯だという事が一目で分かる。
 アレは性格故の邪だろうし気にとめなくて良さそうだ、問題なのはもう1人の少女。
 あの子は間違いなく外から来た異邦人、此処幻想と噛み合わない異質な服装は我らからすれば異常という事象そのものだ。
 だが彼女からも邪なものは一切感じ得ない、寧ろ魔理沙に対する戦意や熱意といった戦闘への想いのみがひしひしと重く伝わり来る。
 一瞬その戦闘を止めるべきなのかで悩んだが、あそこまで魔理沙が楽しそうに戦闘を行っているのは見たことがない、それ故に彼女たちの戦いに尚更興味が引き立った。
 圧倒的な火力を誇りし星々をも焼き尽くす熱線か、それに等しく対抗する未知の力の電撃か、私の好奇心を駆り立てるには相応しいものだ……!

「四季さま〜」

 ……とまじまじと戦闘を眺めていたら呑気な声が後ろから。
 何ともまあ場面を読まないと申しますか。
 ですがそれも彼女らしいと言うことでしょうか。

「何ですか小町、お昼休憩の時間はとっくに終わっていますよ?早く仕事に戻りなさいな」

「そんな事言ったら四季さまだってそうじゃないですか、あの2人……?の戦いが見たくて魂たちの判決を疎かにしてるじゃないですか!」

 ぐぬぬ……小町が痛いところを突いてくるなんて槍でも降るんじゃないですか?

「これは閻魔として当然の行いです、等活エリアで行われている異常事態はそのエリアの閻魔の管轄問題にもなります、故に私はその事態を終結させる為にこの様に機を見計らっているのですよ」

 間違ったことは言っていませんとも……えぇ、数箇所偽りを混ぜ込んではいますが結果として繋がるべき部分に嘘はありません。

「流石は四季さまですね……そこまでお考えだったとは!ところでなんですがね?三途の川に等活エリアに放たれていた獄獣が夥しい数来ていましてどうしたら良いでしょう?」

「…………はい?」

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