Weekend × ワールドエンド 〜転生賢者は第3次世界大戦へと逆転召喚される〜
01 転生賢者の結末
十八年前、地球でクラスメイトの罠に嵌められて死んだ俺は、この剣と魔法、勇者や魔王といった概念のある世界へと転生した。
これまた前世の小説ではよく溢れていた話、転生当初は捨て子として、気づけば森の中に捨てられた揺り籠の中で目を覚ますこととなったが、隠居していた元国一の魔導教授に偶然拾われ、密かに彼の後継者として育てられていた。俺はそれから、前世の知識と溢れる魔法センスでグングンと魔導師としての頭角を表し、遂には賢者の称号を得るまでに至った。
そして俺を育ててくれたジジイも年を取り、俺を育てて7、8年が立った頃、俺はジジイの勧めで王都の魔導学院に入学、その後は賢者の称号を持つものとして、様々な事件に巻き込まれながらも、それら全てを乗り越え、ひょんなことから国の中でも相応の地位をもらった。
それから更に4年、俺が12歳の頃だっただろうか。その頃、人間の敵として人の住む境界から本格的に魔族が攻めてきた。俺は賢者として教会に匿われていた女勇者と合流、そして同い年、フィーリングも悪くなかったその女勇者と俺が恋仲になるのも、そう時間はかからなかった。
「あれから一年か……」
長期化した魔王軍との戦いは熾烈を極めた。そしてその戦いに終止符が打たれたのは一年前、丁度一年前の今日だった。
「あれからもう一年が経ったのか……なあ、レスティア」
しかし、その問いかけに答えてくれる人物は誰もいない。
「マリウス……お前の小言が懐かしいよ」
その問いに答えてくれるのは木々を揺らす風の音とそのざわつき。
「ミーシャ……君の明るさはこういう時にこそ必要だ」
木々の間から差し込む月明かりが俺を照らす。
「アーノルド、ルシウス、システィにアルコーディア……みんなみんな大切な仲間だった」
俺は、ふとその月明かりの先、夜天に輝く一つの月を仰いだ。
「なあ、じっちゃんもそう思うだろ?」
今夜は満月。今年初めてのウルフムーン。
「俺たちは勝った……勝ったはずだったんだ…………」
丸く輝く月が左目を捉えて離さない。
「あそこで予断を許しさえしなければ……」
月を仰ぐ俺の左目は、やがて徐々に熱を帯びる。
「これじゃあ、なんのために転生したのかわからない……」
頬を伝い、左目から一筋の線が描き出される。
「わからねぇよッ!」
そして堪えの利かなくなった俺は、月に向かって吠える狼のように、月に向かって絶叫する。
「わからないよぉ…………」
それから情けなくそう呟いたあと、俺はしばらくその場に留まったのちに再び立ち上がって歩みを進める。
「水の香り」
歩みを進める方、その方角から微かに水の香りが香ってくる。
そして ──
「── 湖だ 」
それから間も無く、俺は森の中、静かな湖のほとりへと辿りついた。
「水を……」
賢者となった今、水は魔法で簡単に出すことができるが今はなるべく魔力を消費したくない。
俺は、その湖の水を補給するべく跪き、湖を覗き込む。
『……ぐちゃぐちゃだ』
水を補給するため、ふと湖を覗き込み湖面に映った自分の顔は疲れ切って憔悴しきった形容しがたいものだった。
「もう……終わってもいいかな…………」
そんな顔と共に、今も変わらず湖に輝く湖面の月を見て、そんな絶念が頭を過ぎる……すると── 
「かなた……」
覗き込む水面に最愛の人、レスティアの顔が映って自分の名前を呼び、微笑みかけていた。
『来てくれたんだねレスティア……これで … 俺も … そっちに ……』
そして俺はまるで、水の精に誘われるように、その水面に顔を近づけた。
……
しかし全てを諦め吸い寄せられた顔が水面に付きそうになったその時 ── 
「ポゥ……」
突如視界の端に覗く光。
「精霊の光か……?」
その視界の端に映る光に興削がれた俺は、念の為その光の正体を確かめる。
「……違う!なんだこの光!」
しかし、その光の正体は精霊の光などではなかった。
徐々に強くなっていく謎の光。最初はその淡さから、湖に集まる精霊たちによる光だと思っていたが、強くなっていくその光はある一定の法則性に従って、湖の上にある形を象っていく。
「これは!……魔法陣か⁉︎ 」
それはとても大きな魔法陣だった。初め淡く漂っていた光は、徐々に強くなり収束、今は魔法陣を象る線として、淡い光を放っている。
「あいつらここまでッ!……いや違う……一体何の魔法陣だこれは!」
その魔法陣を確認した瞬間、俺はてっきり追っ手による攻撃や拘束系の魔法陣だと想像したのだが、どうやらその魔法陣はそれらの陣とは異なる形式をとっている。
「見たことない種類の魔法陣だ……ッ!」
そしてその魔法陣の真を確かめるべく、俺は束の間の考察に入る……しかし ──
「マズイッ!」
突如より一層光を強めた魔法陣。
『陣が発動する……!』
これは賢者として何度も見てきた光景だった。攻撃系の魔法陣の場合、防御魔法で何なりと対策はできるものの、転移魔法などの形式がわからないと対処できない魔法に関しては対応の仕様がない……そして ──
「うあぁぁぁぁ……」
突然の魔法陣の発現に油断を許してしまった俺は、そのまま攻撃魔法への抵抗も虚しく魔法陣に吸い込まれていく。
◆
◇
◆
◇
まるで洗濯機の中のように激しい回転に巻き込まれ、既に吐きそうな俺。目も突然の光によって眩み、今も周りの状況をよく確認できない。
「リフレッシュ……」
そんな渦酔いに意識も朦朧としながらも、なんとか状態異常回復系魔法を唱える。
「ここは……」
《リフレッシュ》により、俺の状態異常は一気に回復する……しかし ──
「眩しッ……!」
酔いと共に、一気に通常状態に治った目に、先ほどまではないにしろ、まるで蛍光灯を直視したような光が目に飛び込んできた。俺はその光に思わず目を瞑る。すると ──
「スッ」
俺がまたも謎の光に目を眩まされていると、目の前から何か布が擦れるような音が聞こえてきた。
「カツンッ」
そして自分に近づいてくる足音も……
「誰だッ……!『《空間情報》』」
俺はその音を捉えると同時に、密かに一定の空間を把握することのできる魔法《空間情報》を唱える。
……
しかし、その《空間情報》の結果得られた情報は、俺にとって絶望に近い情報をもたらしたのであった。
『目の前に一人……それにこの人数は……』
《空間情報》がもたらした情報はまず自分の目の前に一人の人物、そして少し離れた距離にその俺たちを囲うように円で配置されている百人近い人間というものだった。
『まあ結果は変わらないか……』
俺はその状況に観念して束の間、その光に眩み閉じた左目をゆっくりと開ける。
……
目を開けると《空間情報》で得た通り、一人に人物が目の前に姿を現した。
「レスティア?」
しかしそこには立っていたのは、この一年、何度も追憶した今は亡き勇者レスティアの姿であった。
これまた前世の小説ではよく溢れていた話、転生当初は捨て子として、気づけば森の中に捨てられた揺り籠の中で目を覚ますこととなったが、隠居していた元国一の魔導教授に偶然拾われ、密かに彼の後継者として育てられていた。俺はそれから、前世の知識と溢れる魔法センスでグングンと魔導師としての頭角を表し、遂には賢者の称号を得るまでに至った。
そして俺を育ててくれたジジイも年を取り、俺を育てて7、8年が立った頃、俺はジジイの勧めで王都の魔導学院に入学、その後は賢者の称号を持つものとして、様々な事件に巻き込まれながらも、それら全てを乗り越え、ひょんなことから国の中でも相応の地位をもらった。
それから更に4年、俺が12歳の頃だっただろうか。その頃、人間の敵として人の住む境界から本格的に魔族が攻めてきた。俺は賢者として教会に匿われていた女勇者と合流、そして同い年、フィーリングも悪くなかったその女勇者と俺が恋仲になるのも、そう時間はかからなかった。
「あれから一年か……」
長期化した魔王軍との戦いは熾烈を極めた。そしてその戦いに終止符が打たれたのは一年前、丁度一年前の今日だった。
「あれからもう一年が経ったのか……なあ、レスティア」
しかし、その問いかけに答えてくれる人物は誰もいない。
「マリウス……お前の小言が懐かしいよ」
その問いに答えてくれるのは木々を揺らす風の音とそのざわつき。
「ミーシャ……君の明るさはこういう時にこそ必要だ」
木々の間から差し込む月明かりが俺を照らす。
「アーノルド、ルシウス、システィにアルコーディア……みんなみんな大切な仲間だった」
俺は、ふとその月明かりの先、夜天に輝く一つの月を仰いだ。
「なあ、じっちゃんもそう思うだろ?」
今夜は満月。今年初めてのウルフムーン。
「俺たちは勝った……勝ったはずだったんだ…………」
丸く輝く月が左目を捉えて離さない。
「あそこで予断を許しさえしなければ……」
月を仰ぐ俺の左目は、やがて徐々に熱を帯びる。
「これじゃあ、なんのために転生したのかわからない……」
頬を伝い、左目から一筋の線が描き出される。
「わからねぇよッ!」
そして堪えの利かなくなった俺は、月に向かって吠える狼のように、月に向かって絶叫する。
「わからないよぉ…………」
それから情けなくそう呟いたあと、俺はしばらくその場に留まったのちに再び立ち上がって歩みを進める。
「水の香り」
歩みを進める方、その方角から微かに水の香りが香ってくる。
そして ──
「── 湖だ 」
それから間も無く、俺は森の中、静かな湖のほとりへと辿りついた。
「水を……」
賢者となった今、水は魔法で簡単に出すことができるが今はなるべく魔力を消費したくない。
俺は、その湖の水を補給するべく跪き、湖を覗き込む。
『……ぐちゃぐちゃだ』
水を補給するため、ふと湖を覗き込み湖面に映った自分の顔は疲れ切って憔悴しきった形容しがたいものだった。
「もう……終わってもいいかな…………」
そんな顔と共に、今も変わらず湖に輝く湖面の月を見て、そんな絶念が頭を過ぎる……すると── 
「かなた……」
覗き込む水面に最愛の人、レスティアの顔が映って自分の名前を呼び、微笑みかけていた。
『来てくれたんだねレスティア……これで … 俺も … そっちに ……』
そして俺はまるで、水の精に誘われるように、その水面に顔を近づけた。
……
しかし全てを諦め吸い寄せられた顔が水面に付きそうになったその時 ── 
「ポゥ……」
突如視界の端に覗く光。
「精霊の光か……?」
その視界の端に映る光に興削がれた俺は、念の為その光の正体を確かめる。
「……違う!なんだこの光!」
しかし、その光の正体は精霊の光などではなかった。
徐々に強くなっていく謎の光。最初はその淡さから、湖に集まる精霊たちによる光だと思っていたが、強くなっていくその光はある一定の法則性に従って、湖の上にある形を象っていく。
「これは!……魔法陣か⁉︎ 」
それはとても大きな魔法陣だった。初め淡く漂っていた光は、徐々に強くなり収束、今は魔法陣を象る線として、淡い光を放っている。
「あいつらここまでッ!……いや違う……一体何の魔法陣だこれは!」
その魔法陣を確認した瞬間、俺はてっきり追っ手による攻撃や拘束系の魔法陣だと想像したのだが、どうやらその魔法陣はそれらの陣とは異なる形式をとっている。
「見たことない種類の魔法陣だ……ッ!」
そしてその魔法陣の真を確かめるべく、俺は束の間の考察に入る……しかし ──
「マズイッ!」
突如より一層光を強めた魔法陣。
『陣が発動する……!』
これは賢者として何度も見てきた光景だった。攻撃系の魔法陣の場合、防御魔法で何なりと対策はできるものの、転移魔法などの形式がわからないと対処できない魔法に関しては対応の仕様がない……そして ──
「うあぁぁぁぁ……」
突然の魔法陣の発現に油断を許してしまった俺は、そのまま攻撃魔法への抵抗も虚しく魔法陣に吸い込まれていく。
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まるで洗濯機の中のように激しい回転に巻き込まれ、既に吐きそうな俺。目も突然の光によって眩み、今も周りの状況をよく確認できない。
「リフレッシュ……」
そんな渦酔いに意識も朦朧としながらも、なんとか状態異常回復系魔法を唱える。
「ここは……」
《リフレッシュ》により、俺の状態異常は一気に回復する……しかし ──
「眩しッ……!」
酔いと共に、一気に通常状態に治った目に、先ほどまではないにしろ、まるで蛍光灯を直視したような光が目に飛び込んできた。俺はその光に思わず目を瞑る。すると ──
「スッ」
俺がまたも謎の光に目を眩まされていると、目の前から何か布が擦れるような音が聞こえてきた。
「カツンッ」
そして自分に近づいてくる足音も……
「誰だッ……!『《空間情報》』」
俺はその音を捉えると同時に、密かに一定の空間を把握することのできる魔法《空間情報》を唱える。
……
しかし、その《空間情報》の結果得られた情報は、俺にとって絶望に近い情報をもたらしたのであった。
『目の前に一人……それにこの人数は……』
《空間情報》がもたらした情報はまず自分の目の前に一人の人物、そして少し離れた距離にその俺たちを囲うように円で配置されている百人近い人間というものだった。
『まあ結果は変わらないか……』
俺はその状況に観念して束の間、その光に眩み閉じた左目をゆっくりと開ける。
……
目を開けると《空間情報》で得た通り、一人に人物が目の前に姿を現した。
「レスティア?」
しかしそこには立っていたのは、この一年、何度も追憶した今は亡き勇者レスティアの姿であった。
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