アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

234 忘れるべき初心

 ここは、奴隷商館がある街から5kmほど離れた郊外の林の中。

「集合場所じゃない」
「ポイントが少しずれたようだ。今見ている方向から2時の方向へ500m先が目的地だな」

 ハイドに乗っ取られ始めてから気を失う数分の記憶の断片に、なんとかイデアの作った魔法式を使ってみんなを転送したことまでは覚えている。教会からテレポートして、ジョシュたちに合流しようとしたリアムだったが、何故か集合場所から500mほど離れた所に出てしまっていた。

「どうしてズレたんだ? 転移先のイメージも、込めた魔力量も完璧だったと思うんだけど・・・」
「そんな原因の分からないことを今考える必要はない。歩けば目的地に着くのだからいいじゃないか。現段階では些細なことだ・・・それより、何故去り際に自分に言い訳した」
「そりゃあ君のせいだよ・・・ったく、あのまま素直に消えていれば僕が余計な心労を抱える必要はなかったのに、挙句に問題の本筋から大きく外れた罪を犯した。逆に質問したいよ。どうして必要以上に彼らを脅したり、公共物を破壊するような真似したんだ。君のとった行動で僕に火の粉が降りかかるリスクが増したのは明らかだ」
「天井を破壊したのは単なる流れだ、その場の勢いって奴だ。で、偶発的且つ連鎖的に着地の振動でちょーっと壁や他の家具等がぶっ壊れただけだ」
「それは偶発的とは言いません。必然と言うんです」

 リアムは目的地より8時の方向に200mも離れた場所にテレポートしたのだと説明するハイドのガイドに従いながら、足を動かして再びゴールを目指す。テレポートしないのは、移動先がズレた原因がわからないためなのだが、ハイドの言う通り、今はこっちが優先だ。このくらいの距離なら、全然遠くも・・・

「うへぇ・・・この中を通らなきゃいけないのか」
「迂回するとしてこの群生地がどれだけの面積があるのかわからない。ただジョシュの情報だと直進して大体5、60メートルも歩けば広い場所に出られると予想できる。ここは突き進むしかないな」

 リアムのいく先に広がっていたのは、鬱蒼と生茂る9歳少年の身長と同じ高さくらいの異世界のセイタカソウ類。時期だけに花がついていたりしないことだけが救いか、ピクニックに来たわけでもないのに、先が見えないため一歩一歩が慎重な前進に加えて花粉が鼻をくすぐるのはイライラする。ミッションのチェックポイントまでもう少し、気合を入れよう。

「でだ、実はお前にもう一つ報告がある」
「なに?」
「大した事じゃない・・・まあ、その場の勢いでといえばもう一つ、実は愚者共に恐怖を与えるためにそのなんだ・・・山を一つ、消しとばした」
「・・・・・・」

 告白の前、ハイドは心の中でゴクリと一度生唾を飲んだ。このままジョシュに会えば、おそらくコレはバレる。あの時は久しぶりの物質世界に感動しすぎてハイになっていたし、元々ジョシュがワープしていなくてもやるつもりではあったのだが、それでも、やるべきではなかったかなぁとちょびっとだけ、後悔していた。 

「この場合、僕はどんなリアクションをとるのが正解なんだろう。”ワーォ、それはクールだね”ってイマジネーションを働かせてパーリィーに言うべき? それとも、”はぁ!?”って、冗談だとわかっていても素直に受け取ったフリをする方がいいのかな」
「そうだな。できれば前者のユニークさのままに事実だけを受け取って、怒りは流してくれるのがいい」
「ンー・・・・・・」

 頬が空気を蓄え僅かに膨らみながらも、目と口は笑っている。鬱陶しい草花をかき分ける煩わしさも相まってか、なんか面白い表情になってるぞリアム。

「・・・冗談、じゃないんだね」
「事実だって言ったろ」
「でもそれ、かなり大した事だと思うんだけど」
「お前に宿る前は、毎朝寝起きの一発に山を消しとばしたもんだ」
「それは、流石に冗談だよね」
「ま、一部な」
「はぁぁぁぁ、なんで今それ言っちゃうかな」

 あれだ、悪い事をしてそれがバレた時、ついでにもう一つ秘密にしていた悪い事を誤って、もしくは狙って言えば2回怒られるんじゃなくて、ほぼ1回分で済む法則である。

「ハイド、あなた・・・」
「グッドタイミングだったな、イデア」
「イデア?・・・も。もしかしなくても、ハイドに眠らされていたって所なのかな」

 ここでイデア参戦・・・察した、ああ察したとも。僕が一時的に意識を失っていたのと同じように、きっとイデアもなんらかの形で僕と同じ状況に陥っていたのだろうと。

「ということは、もしかして僕がこの街にいた原因を作ったのもハイドってこと?」
「さぁ、それはどうかな」
「なんだよそれ・・・もう、色々ありすぎて疲れてきた」
「俺の狙い通りだ」
「・・・? 疲れたって私が眠っていた間に一体何があったんです?」
「言葉通り、色々あったんだよ。色々な」
「言っとくけどハイド、この件については後でじっくり話し合うから。不問にしたわけじゃないから誤解しないように」
「・・・それは面倒だな」
「私の質問に”色々”とだけ答えて放置するとは2人ともいい度胸ですね。あまりふざけた態度でいると、後で後悔することにな・・・」

 が、イデアも目覚め、相関図に新たな点が増えたことでさらにややこしくなったため、この話を一旦中断し落ち着いた時に改めてしようと議論していたら──

「誰だ! 人間なら返事しろ! 然もないと!」
「うわッ! 決して怪しいものじゃないし、獣でもモンスターでもないから撃たないで!」

 ・・・あ、この世界には猟銃とかの銃火器はまだないのに撃たないでとか言っちゃったよ。でも、魔法があるから、魔法をうたないでって意味では成立するか。Shot と fire みたいに、自動翻訳後に大きな違いがない事を祈ろう。

「ってその声・・・ハイドか?」
「その声、もしかしてジョシュ?  何してるのこんな所で」
「この感じ・・・リアムに戻ったのか。いやな、無事ハイドに転送されて目的地に着いたから周辺の警戒もかねて今晩の焚き火の薪やら食料探しをしてたんだが」
「そう、ならハイドのガイドは間違ってはなかったわけだ」
「信用してなかったのか?」
「願ってたんだよ。これでちょっと信頼が回復できたんだから、安いもんだろ?」

 あんなことがあって、詳しい話し合いもできていないのにすんなりと言いなりになることはない。僕はただ、その他に良い選択肢がなかったから、君の案を採用しただけであって、何かあれば臨機応変に対応する心構えをしていた。それに、端っから警戒しない馬鹿が宿主ってのも御免のはずさ。

「みんな!って言っても、ここに残ってるのはチビばっかりだ。年長組は、俺みたいに周囲の警戒と探索にあたってる」

 その後、僕たちはジョシュの案内でこの鬱陶しい背高草の群生地とついでに森を抜けて、広い見晴らしの良い丘の集合場所へと辿り着く。

「・・・君がチェルニーちゃんだね。よろしく、ジョシュの熱の入り様から想像していた通り、どっちも可愛らしいね」
「この度は、私たちを助けてくれてありがとう。私も、お兄ちゃんから聞いていた通り優しそうな人で会えて嬉しい」

 ジョシュの言った通り、そこにいたのは僕よりも小さな子供達ばかり、で、その中に一人、ジョシュの姿を見つけて寄ってきた可愛らしい女の子が一人いて・・・

「その肩に乗っているのは、ハリネズミの一種かな?」
「そうです。私の使い魔でエレメントハリネズミなの。名前はベートンよ」

 キュイっと可愛らしい挨拶をありがとうベートン・・・けど。

「・・・」
「・・・」
「ジョシュ、ちょっといいかな?」
「ああ」
「待って! いいのそんな気を使ってくれなくても」
「そうかい・・・?」
「そう。それに多分リアムさんの想像通りよ」

 チェルニーがいいというから足を止めて振り返ったが、これはデリケートな問題だ。念のためアイコンタクトでジョシュに許可をとって、もう一度話をする。

「私、目が見えないの・・・もちろん両方とも」
「やっぱり・・・僕の懸念は君の想像していた通りだったよ」

 僕がそのことに気が付いたのは、彼女が目にバンダナのような黒い布を巻いていたためであった。

「この布を巻いていると、一眼で目が見えていないってわかるから、いざって時に色々と説明する手間が省けるの」
「でも、ならどうやって僕の顔を?」
「それは、ベートンが見ているものを私にも見せてもらってるから」

 モンスターと感覚共有をするにはかなりの熟練したテイマーのスキルが必要なはずだ。精霊と感覚を共有する技はつい最近にも目の当たりにしたが、あれと恐らく同等の技術が要求されるのではないのだろうか。それも、部分的な共有しながら僕と話ができているのだから、相当熟達している。一応僕もテイムのスキルを持っているが、何せ内なる同居人で手一杯だから、新しい家族を迎える余裕もない。

『私たちはペットか何かですか?』
『それは由々しき認識だな』
『違うよ。君たちはペットっていうより、飲んだくれて泊まる場所もないからと転がり込んできた酔っ払いの友人って感じに近い』
『ならいいです』
『ならいい』
『いいのッ!?』

 そんなに素直に受け入れられると、アル中に言うみたいに批判したものの、友人と言った自分の方がなんだか恥ずかしくなってくるよ。案の定、まだ友人に友人って言葉にして恥ずかしさと違和感を覚えるほど、僕の交友経験は未熟なんだ。リアムならまだしも、ナオトの人生分も合わせると尚更ね。

「可愛いな〜、案外モグリの親戚だったりして・・・」
「そういう直感だけで精霊とモンスターを同じ括りで分類するのは安易すぎます。モグリは日中普通に表にいたりと確かに一般的な動物(アニマル)のモグラとは生態がかけ離れていますが、精霊とは突き詰めればエネルギーそのもののような神秘の存在ですから、常識に当てはまらぬのも止む無し。一方モンスターは魔力を持つ獣やそこから特異の進化を経た者達を指します。生物の分類をするのであれば、見た目ではなく特徴を捉えて発言を」
「でもさ、真無盲腸目ってのがあってね? 同じ食虫動物だし共通点が全くないとも言えない・・・」 
「シャラップ! マスターは私の言ったことを何一つ理解できていません!いいですか?私が今の解説で何を伝えたかったのかと言うと、先程の特徴に加えモグリのようなトガリネズミ科亜種が土と匂いや音といった風属性の本来の生物的特徴になぞる魔力アストラル能力を兼ね備えているのに対して、モンスターとは知性より本能を優先して行動する獣に近い本体を資本としたエーテル的存在なのです。互いに長所短所ありますから、浅はかな認識を持つとうっかり設計ミスする」
「えっ? 何の設計?」
「・・・なんでもありません。今のは忘れてください」
「おいおいパートナーが可愛いって言ったから嫉妬か? それに説教しつつやっぱり自分でトガリネズミ科亜種って言ってるぞ・・・これもそんなもんなのか?」
「それはあくまでも表現のうちの一つで仮です仮! あと私が可愛いのは全宇宙周知の事実ですから、態々比較する必要性もないことを付け加えておきます。そもそも可愛いの種類が違いますしね、種類が」

 まさか生物の分類にイデアがこんなにうるさいとは知らなかった。でも、おかげでモンスターや精霊といった存在についての定義を再認識したよ。肉体、エーテル体、アストラル体という神秘学的用語を借りて説明するならば、皆この3つの性質を持ってはいるが、人間を含める動植物は肉体、モンスターはエーテル、そして精霊はアストラルと、それぞれ存在定義のうち最大値をとるものが違うということだ。バランスが違う。あくまでも、僕が理解できる範疇で定義した場合の話だけどね。
 さて、この世界の生物の存在的立場を議論する話はこの辺にして、チェルニーの目の話に戻ろうか。

「イデア・・・君なら」
「・・・まあ、できなくはないですよ。できなくは。そうですね、今日は2回目の願い事ですから、魔力貸付はサービスして1万で請負います」
「わかった。いいよそれくらい」

 僕はひょっとしてと、イデアに尋ねる。何せこんなケースは初めてだが、僕の体を魔改造した彼女ならできるのではという純粋な疑問も含めての質問である。

「・・・? あの、マスター。少しいいですか?」
「何?」
「そのまま、右向け右してもらって、一度亜空間へアクセスして見てもらえませんか?」

 が、1万MPで取引したのも束の間、イデアから一つ、亜空間へのアクセスを所望される。まあ、そのくらいならしてもいいけど・・・ッ!?

「・・・ッ!? た、息が・・・し・・・ッ!!!」

 次の瞬間──

「リアム!? チェルニー下がってろ!」
「リアムさん!?」

 リアムが開いた亜空間から大量の鉄砲水が吹き出し、正面に立っていたリアムを丘からさっきまでいた林の方へと押し流す。

「ケホッケホッ!・・・一体何が起きたんだ!?」
「原因は特定できていませんが、どうやらマスターの魔力に原因不明の変質が起きているみたいで、それに伴って亜空間が拡張したようです。ただし新たに取り込まれた新空間に大量の水があって、出口の位置も変わってしまってい・・・よかった。私のものは全部無事みたいです」
「原因不明って・・・それに、水が吹き出してくるのがわかってたんなら、なんで先に教えてくれなかったの!」
「だから右向け右と言って、ジョシュやチェルニーに他の皆にも被害が出ないよう計らったでしょう?」
「面白くない冗談だ。ただでさえ、僕の亜空間のキャパは一生使っても埋め切れないくらい広かったろ? それに僕への計らいが相変わらず欠けてるし」

 何メートル、いや何十何百メートルジョシュたちのいた場所から流されたんだ? この大木に引っかかって助かったが、周りを見渡せば林の木々根が洪水に土を流されてすっかり露出してしまっている。自分でも生きているのが不思議なくらい、強い衝撃を受けて遠くまで流されたよ?

「ちょうどいいじゃないですか。最近私の実験場も成長して手狭になってきたと思っていたところで」
「実験場!?」
「大したものじゃありません。土や植物を持ち込んで、家庭菜園を兼ねた動物の存在しない世界での植物進化の研究をと思いまして。土と水には成長促進のためマスターの魔力を主成分としたオリジナル調合(ブレンド)のイデア印を使った特別栽培農産です」

 オリジナルブレンドとか言ってるが、それただ僕の魔力で土魔法を介して生成しただけの話だろって、大体、どうして僕の魔力が変質し始めて・・・

『・・・そういえば、聖戦中騎士王の津波を飲み干せなくてその分を亜空間に閉じ込めたんだっけ・・・よく中毒にならなかった物だ』

 ・・・どうして僕の魔力が変質し始めてるんだ。

「これは、本格的に倉庫整理が必要だ」
「いいえ、その必要はありません。亜空間の中の物は全て、私が構築した高度で精密なシステムによって管理されています。ですからこれまで通り私が、倉庫整理を担当」
「だからダメなんじゃないか! 今まで君に任せっきりにしてたから、この様だ!」
「反対! 今まで管理に従事してきた功労者を蔑ろにするなんて! 今までやれと言われれば言われた通り番号つけて、倉庫番していた私にはこれからの管理体制について口出す権利があります! それにはこれまでマスターのお手伝いをし、その報酬として得た魔力を使って培養、拡張したものです! いわば私の財産であり、所有権は私にありますから手出し無用です!」
「聞き分けのないこと言わないの! それに人聞き悪く言ってるが、別に君の功労を蔑ろにしてるわけじゃなし、人の土地にゴミを捨てるみたいに不正利用していたのは君じゃないか!」
「ゴミではなく、これは純粋な知的探究に基づくシミュレーション模型です!それにマスターの亜空間は私の空間も同然なんです! いいじゃないですか! ケチケチしないで半分くらい豪快にガバッと分割して、ついでに後1千万ほどの魔力受取手形を私にください!」

 こんなことに僕を巻き込んどいて、どれだけ肝が座ってるんだ? 今日という今日は、頭に来た!

「君は大体図々しすぎるんだよ! 今までは物質界に直接アクセスする手段がトランスするしかなくてだからといってひょいひょいと憑かせるわけにもいかないから可哀想だと大目に見てきたけど、勝手に許可なく大量の備品を買い込んでるわ、蓄えてるわで加えて秘密の実験をしていたなんて情報が多過ぎて僕には受け止めきれない!どうして前もって一言相談してくれなかったんだ!」
「マスターこそ可哀想ってなんですか! 私はマスターのペットか何かですか!? いいえ違います、私はマスターのパートナーであり、それはマスターも認めるところ、つまり本来はマスターの得た利益は全て半々で分割されるべきなんです!」
「利益だけってそれこそ都合良すぎだ! せめて負債も一緒に背負ってよね!?」
「それは場合によります! マスターの独断で被った負債まで私が抱える必要はないでしょ!」

 なんだよそれ・・・僕が独りよがりの判断だけで動いているって? ・・・今、一番君にだけは言われたくないな。

「はぁ・・・はぁ・・・」
「おや、もう息切れですか? 肉体があるというのも、考えものですね」
「なんだって・・・?」

 大量に水を飲んだせいか腹がタプタプして、鼻がジュルジュルいって呼吸が安定しない。だがこの程度で息が上がるなんて、きっと君の改造がやわ過ぎたんだ。初めてゲートを使ったときのことを思い出すよまったく、あれはもう黒歴史認定だねこれは。

「まあ落ち着けってお前ら。それよりも、どうして魔力が変質してきているのか原因を知りたくないか?」
「なんだって言うんだよ・・・こんな時に・・・」
「そうです。邪魔をしないでくださいハイド」
「ちょっとくらいいいじゃないか。俺だってこれからはお前らの輪の一部に嫌でもなるんだ。リアムもイデアも。俺の正体については大体目星がついているんじゃないか?・・・そうだ。俺にはな、リアムみたいにこの器に宿る前の記憶がある。じゃあ俺は何者だったのか・・・俺はその昔、この空をどの種族よりも自由に翔ぶ1頭の竜だった」

 が、リアムとイデアの我がぶつかり合う喧嘩の行方は、新しくリアム内乖離独立性人格グループに加わったハイドによって意外なルートへと進行することになった。

「竜って、つまりあの竜? ドラゴンとか、龍とか」
「厳密には、竜と龍とは形態的なグループによって分けられるが、ドラゴンとして総称されるように種族的分類は同じだ。俺は呼称的には竜の方のドラゴンであって、主に大陸の西側一帯に分布し、漢字とやらで書くのが難しい方の龍の奴らは東の方を主に生息地にしている」

 ハイドの告白は衝撃的で、今この世界で起こっているであろうどんな奇怪な出来事よりも頭ひとつ抜きん出て突飛で、毒々しかった。今までの僕とイデアの鬱憤の噴出を相殺して余りある程にだ。

「でも、じゃあ仮に君が竜の記憶を持つ人格だとして、それがどう僕の魔力変質に関わってくるって言うのさ」
「それは、おそらく俺がお前の魔力を俺のフィルターに通して無理矢理使ったせいだ。きっかけは俺たちの中で《咆哮(ブレス)》と呼ばれる収束砲を使い魔力を大量消費したことにある。本来咆哮は、魔力ではなく竜力と呼ばれるドラゴン特有の力を使って放たれるもので、詳しい因果性までは俺も説明できないが、とにかくこれが原因と見て間違いない。おかげで前に俺が咆哮を使った時お前は1年も眠る羽目になったし、今回の大きな魔力変質の原因もソレと考えるのが自然だ」

 恐るべき新事実の判明。なんと僕が1年もの時間を眠って無駄にしたのは、あの時僕を襲った仮面の男でもなく、自分の中に混じったものに原因があったということかい? 元を辿れば僕の中に君が混じるきっかけを作ったのであろう人物はあの仮面だが、馬鹿のスカポンタンをやったのは君だというのか、ハイド。

「・・・とりあえず、君のこれまでの言い分を信じるとしよう。だけどそれにしても、やっぱり納得いかないことが数点ある。まず1つ目に、今回君が咆哮を使ったのなら、どうして僕は今また長い眠りについていないのか? そして2つ目は1つ目同様、またどうして今回だけ魔力変質が起こってしまったのかだ」

 必然、当然、兎にも角にも、この件に関して偶然は絶対に介入し得ない。僕の口調は先ほどの口論の時の興奮とはまた違う、当然のごとく、刺々しいものとなる。

「それは・・・」
「それについては、ハイドの代わりに私が答えましょう。どうやら彼女も魔力変質のメカニズムについて詳細はわかっていないようですし、私の意見も推測になりますが・・・魔力とは、色々な現象を引き起こすことのできる万物に等しいエネルギーです。中でも特に、全属性の魔力性質に適性を持つ本来の純粋に近い魔力を持つマスターのソレは外的要因に大きな耐性を持っていても、内的要因に大きく左右されやすい。一度外的要因の侵入を許してしまってもあしからずですが、つまりこの魔力のエネルギー的性質を考えれば、マスターの2つの疑問の答えは1つの答えへと収束します」

 ハイドの代わりにイデアが出した意見は現在のケースに非常にマッチしていた。・・・わかるよ、君の言いたいことは。

「魔力もまた、学習する。私たち同様、経験を糧として」

 なるほど、学習するか。それは言い得て妙だ。だが的を射ている。彼女の推論は今僕たちが共有する情報の中で最も説得力があり、妥当性があって、確実性がある。少なくとも僕はそう思う・・・さすが、3年僕と裸以上の関係を築いているだけのことはある。カスタマイズの頃からいえば、もっと長い。 

「それじゃあ最後の質問だ。だけどこれはハイドにじゃない・・・イデア、君にだ。もちろん聞きたいことは、わかるよね?」

 もちろん・・・わかるよね?と、僕の口から飛び出さなかった疑問。だが、僕の考えを読むことのできる彼女へは言わずもがな、直接疑問を投げかけたも等しい。

「私は、・・・一介のスキルに過ぎません。・・・申し訳ありませんでした。先ほどは出過ぎた真似をし、また、隠れてしていたことは私有物の不当な私物化に他なりません。今度からは、ちゃんと相談します」

 正直言えば、これは僕の望んでいた回答じゃなかった。だけど、僕の知らないところで好き勝手し過ぎて過熱気味だったことに気付き反省している点はプラスだ。だから、今回はこれでよしとする、が。

「そうかい・・・わかった。なら、そういうことにしとくけど・・・それじゃあつまり・・・」

 それじゃあつまり?

「また魔力操作訓練を一からしなくちゃいけないってこと!? 嘘でしょ!」
「前以上に強く高密度なエネルギーです。扱う際の繊細さはこれまでとは比較にならない程要求されるでしょう。魔法のアルゴリズムから組み立て構築する私にはなんの影響もありませんが」

 ということである。唯でさえ大き過ぎて制御に苦労してようやく物にした技術が大きなアップデート、いや、こんなのアップデートなんかじゃない。僕にとっては一からの開発に等しい。

「よかったなリアム。これでお前は益々強くなる」
「素直に喜べない! 唯でさえ化け物地味た力があったって自覚・・・実際には自覚していたつもりでチラチラ目を逸らして見ないふりしてたんだけど、そんなことどっちだっていい! とにかくこれで確実に僕はまた一も十も人間から遠く怪物化した・・・」
「保存されている魔法式の修正と亜空間の出入り口の調整が終わりました。これで以前通り、私を介した魔法は威力・距離問題なく使えます」

 イデアも調整した保存していた魔法式の強いられたらしいが、エネルギーが強力になったということは特に威力や距離といった要素を持つ魔法を使う時に影響が出る。攻撃魔法はほとんど全滅で暴発する危険を孕み、転移系の魔法だって今まで通りにすればさっきみたいに行き過ぎた場所へと出てしまう。これじゃあ本当にファウストが言った通り、僕はイドラの子、邪神の使徒とやらの道を辿っているのではないかと益々不安になる。僕自身はイデアほど万能でも、ハイドほど豪胆でもない。素の単体能力はちょーっと魔力が多いだけで、価値観は正常な人間とさして変わらないっていうのに、ついにギリギリ人間最高峰レベルと枠に収まっていた魔力までもが人の領域から外れた。まあ、正常の捉え方は結局個人の価値観による所だけど。

「とりあえず、こういう時はステータスだ。ステータ」
「マスターそれはちょっとまッ」
「待てリアムッ! それはまだちょっとッ!」
「ス・・・?」

 ・・・?

ーーーーーーーー

Name:リアム Age : 9  Gender : Male   Lv.1

- アビリティ - 
 《生命力HP》ーーー/測定不能
 《体力SP》982/982
 《魔力MP》118万4800/120万3400 100万を越す ついに100万の大台に乗っちゃったよ。もう人間じゃねぇ。
 《筋力パワー》 730 
 《魔法防御》12万0340
 《防御》730
 《俊敏》18
 《知力》50
 《幸運値》%?_#

 《属性親和》全属性

- スキル - 
 《全属性魔法》
  《火魔法Ⅴ》《水魔法Ⅴ》《風魔法Ⅴ》
    《雷魔法Ⅴ》《土魔法Ⅴ》《光魔法Ⅷ》
    《闇魔法Ⅴ》《空間魔法Ⅶ》《命魔法》
  《氷魔法Ⅵ》《熱魔法Ⅷ》
    《無属性魔法Ⅴ》

 《魔法陣》《魔法陣作成》《精霊魔法∞》
 《複合魔法》《鑑定Ⅲ》《魔力操作Ⅴ》
《威圧》

- EX スキル - 
 《分析アナライズ》《しょ》《隠蔽》
 《テイム》《自動翻訳》

- ユニークスキル -  
《?#化》《魔眼》《魔眼:魔族の血胤》
《魔眼:命の開闢》《咆哮》
《リバーシブル》New:進化獲得 

〈- オリジナルスキル -〉
《イデア》《ハイド》New:新規獲得


- 称号 -
〈《転生者》〉《??%》《魔力契約:エリシア》
《虹の王》《竜の爪痕》《生還者》《反逆者》
《神憑り》《上級冒険者》《レベル》《愛される者》
《剣客》《告白》New:新規獲得
《勇者》New:譲受《新人類》《竜の心》《卵》




 ・・・勇者?


「・・・」

 ──バタン。

「倒れた」
「これくらいで倒れるとは、ひ弱なやつだ」

 薄れゆく精力の彼方、精神力の貧弱さを指摘するハイドの声が聞こえる。だけど僕はそれほど貧弱じゃない、ただ、今日はもう疲れたんだ。

「アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く