アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

187 ゲイル・ウォーカー

「こんにちはリアムくん。昨日ぶりです」
「シーナさんこんにちは。突然で申し訳ないんですが、ボクの入場手続きと一緒にこの子の入場手続きもしてもらえませんか?」
「え、ええ。別に構いませんけど・・・」

 リアムは彼のダンジョンオペレーターであるシーナに入場ゲートでゲイルの入場手続きまでを頼むと──

「ありがとうございましたー!」
「はい。いってらっしゃい・・・」

 足早に、ゲイルを連れて転送陣のある地下階へと降りていく。

「おいいったい俺をどこに連れて行こうというんだ!」

 そして、転送陣に乗ってアースからガイアの世界へと行くと──

「ゲート」

 空間属性ゲートの魔法を唱え、リアムは一瞬にして約160km程の距離、徒歩では4日はかかる距離を一瞬にして繋げる。

「ここは・・・」

 そして──

「ここはエリアEの大峡谷。そしてあそこに見えるのがこのダンジョンのゴールでラストボスがいるって言われているコルトの山脈」

 ゲートに放り投げられたゲイルが見たのはあまりにも見事な峡谷、その崖の上から見る景色はあまりにも雄大で、まるで一歩踏み出せばと飲み込まれてしまいそうなほどに、自らの危機意識を極限まで小さくとるに取らないものとしてしまう赤土の色。

「ってまさか! ここは中級冒険者以上の称号を持つものしか入れないエリアじゃ・・・!」

「どうして痛みが襲ってこないんだ!」と、自らの体を確認するようにその謎を解こうとするゲイル。

「そりゃあそうさ。ちゃんと君の周りはボクの魔力をまとわせているから」

 リアムがゲイルの質問い答える。自分は体験することはなかったが、エリアD以降のエリアに初心者冒険者が侵入しようとすれば、かなりの激痛に苦しまされるらしい。ただリアムの魔力が尽きてしまって彼が痛みに悶え苦しもうと、それはそれで知ったことではないが。

「それじゃあはい。これ」

 そしてリアムは流れるように一連の造作で腕を横にまっすぐ伸ばすと──

「な、なんだこれは!?」
「なんだって見た通り、剣だよ」

 一本の剣を亜空間から取り出してゲイルに投げて渡す。そして──

「じゃあいってらっしゃい」

 それ以上の説明もないまま、ゲイルに向かって手を振ると──

「へっ──」

 ゲイルの足元に新たにゲートを作り出し、彼をまた別の場所へ転送する。

「クソッどこだここは──」

 ゲイルは、突然落とされた地面に尻餅をつきながらも、あたりを見渡して自分の居場所を探る。

「両端に高い壁。上には空・・・まさか──」

 そして気付く。一体自分がどこに転送されたのかと。

「ゲイルぅー!」

 すると、はるか高い上空からやまびこのように反響を繰り返して何重にもなって聞こえてくるリアムの声が──

「君からぁ見てぇ前の道をまっすぐ行けばぁさっきぃ見たぁコルトの麓にぃ辿り着くからぁ! だからぁ君はぁその剣一本でぇゴールぅを目指してぇみてぇ!」

 そのまま自分の見ている方向にまっすぐ進み、コルトの山脈、エリアGの入り口を目指せという。
 
「ふざけるなぁ! こんなことをしてタダで済むと思っているのかぁ!」

 当然、これにはゲイルも思いっきりはるか崖の上にいるのであろうリアムに叫び

「こんなところ・・・空間属性魔法を使って・・・」

 ・・・待て。さっき見た広大すぎる大峡谷。もし仮にここでゲートを使いゴールにたどり着けなければ、その時は魔力切れで気を失ってお陀仏だ。
 突然の焦燥感がゲイルを襲う。

「ここに俺を落としたのは俺に恨みを持つあいつ・・・。更に言えば、あいつが俺に復讐する気ならば・・・」

 現在自分が置かれている状況を冷静に分析すれば、なおさら焦りが増幅する。

「やっぱり・・・後ろに行ったや」

 リアムは崖の上からゲイルの行動を監視する。修行中自分を監視していたカミラも、こんな感じでボクを見ていたのだろうか。

「どういうつもりですか?」

 すると──

「どういうつもりってなにが?」

 これまでの様子をもちろん終始見ていたイデアからリアムに疑問が投げかけられる。

「ですからゲイルをここに連れてきたことです。マスターの、『ゲイルを同じ目に合わせてやる』というゲスい感情はもちろん感知しましたが、何分彼を陥れようという復讐心は感知できませんでした」
「・・・それで?」
「仮にマスターがゲイルに復讐心を持っていたとして、もしそれをゲイルに執行するならばこんな回りくどいことをせずとも、もっと様々な方法で苦しめることが可能です」

「例えば拘束して魔物の餌にするとか」という、とんでもなく残酷な復讐を考えるイデア。これには──

「まさか。イデアの感知はあってるよ」

 リアムはイデアの感知した自分の感情について、嘘偽りなく答える。

「ボクはゲイルに復讐しようとしてるんじゃない・・・むしろ──」

 そして──

「まさかゲイルをこちら側に引き入れるおつもりですか?」
「・・・まあね」

 ここでリアムの感情を色のように感じ取るイデアはようやく、リアムの真意に気付く。

「なぜ・・・」
「どうしてかと問われれば理由は2つ。1つはゲイルをなるべく近くに置いておきたい。これはボクを狙っている可能性があるというファウストに、またゲイルが利用されることを防ぐため」

 そう。一つ目の理由はゲイルとファウストの接触を防ぐため。ファウストが再びゲイルに接触するとして、彼を餌に泳がせておくこともまた一つの手ではあるが──

「しかし1度接触を持ち警戒レベルが高いゲイルに接触することはないのでは?」
「そうだね。でも悪縁契り深し。意外とこうして落ち込んでいるところにつけ込まれれば、恨みを持ってどんな復讐に出てくるかもわからない」

 何よりも、再会した時のゲイルの態度からして、一度接触されればまた簡単に口車に乗ってしまいそうなものである。

「だから先手を打ちそれ以上の契りをもって裏切れなくしてしまおうと?」
「そっ。つまりは一度接触を持ったゲイルに例の輩が再び接触してこないとも限らない。だからその前に、こちらに引き込んでしまえという・・・」
「ゲスいですね」
「・・・なにかとかこつけて入れ替わろうとしてくる君に言われたくないよ」

 決して友情なんかではない。手元にゲイルを監視対象としておこうとしているリアムと、何かとトランスの味をしめて隙あらば入れ替わろうとしてくるイデアとの醜い罵り合いだ。

「それで、もう1つの理由というのは?」

 とまあどっちがゲスいかという不毛な話はさておき、イデアがリアムにもう一つの理由というやつを尋ねる。

「それは・・・」

 するとリアムは──

「それはさ。暗い部屋でずっと一人篭ってるなんて辛いさ。例えそれが自分の望んだ形でも、そうでなくとも・・・一度くらいは選択の余地があってもいいとは思わない?」

 病弱でしょっ中入院を繰り返していた日々。あの頃の自分には果たしてその選択肢はあっただろうか。そう考えると、お節介と言われようが1度でいいから手は差し伸べておきたい。例え自分を殺そうと企んでいた相手であろうと、彼はきっと利用されてしまっただけなのだと余地を残し、立ち直るきっかけを作ってあげることができれば・・・と。

「お人好しすぎます」
「ゲスいって言ったりお人好しって言ったり。言ってることが180度変わってるよ」
「まあ私はマスターの半身のようなものですから。きっとそのお人好しの成分は私から滲み出ているのです。マスターのゲスさをもってしても中和できないくらいの優しさを私は持っていますから」

「知らないところでイデアのマスター洗脳作戦は順調に進んでいるのです」と、意味のわからない言葉を並べ立ててリアムの手柄を自分のものにしようと企むイデア。彼女のその傲慢さは一体どこからきているのかと尋ね返せば、きっと「それはマスターから滲み出た灰汁ですね」とか言うに違いない。

「さてと──」

 崖の隣を歩きながらイデアと会話していたリアムが、ピタリと谷底が見えるギリギリで足を止める。

「あと20m。ゲイルが接触します」
「だね」

 上からだとよく見える。すこしくねった角の先、ゲイルが曲がろうとしているそこを曲がれば──

「シャー!」
「ふ・・・」

 そこには、2つの頭を持つ大きな巨体が。

「ふざけるなーッ!」
「シャーッ!」

 ゲイルはそのモンスターを視認した瞬間、回れ右をして元来た道を戻るように走る。なかなかの反応速度、そして判断の早さである。

「来るなっていってんだろうがーッ!」
「シャッシャッ!」

 来るなと言いながら走るゲイル。しかしツインヘッドスネークは峡谷の壁に体を打ちつけながらも、ゲイルの行く道を追って襲いかかろうと体をくねらせている。

「シャッ!」

 2つある頭のうちの一つが、ゲイルを狙って瞬間的に首を伸ばす。

「ッ! あぶね!」

 が、なんとかスレスレのところでそれを躱すゲイル。しかし──

「足を止めたらやられる!」
「シャーッ!」

 蛇の頭はもう一つある。走りながら追跡をしているためもう一つの頭は無茶な突進をしてこないが、少しでも攻撃してきた頭に怯み足を止めれば、必ず

「クソッ! こうなったらヤケだ!」

 すると、突然一か八かと苦しそうに走りながらヤケだと叫ぶゲイル。やはり引きこもっていたせいで多少体力も落ちていたらしい。ワープでもするつもりなのだろうか。

「ゲート!」

 リアムの予想通り、前方に空間トンネル系の魔法 ”ゲート” を唱えるゲイル。

「・・・!」

 しかし──

「喰らえこのクソ蛇がー!」

 次の瞬間──

「シャシャ?」

 突然にして輪っかの中に消えていったゲイルを探す蛇の背中に・・・

「シャーッ!?」

──グサリ。

「どうだこの野郎!」

 蛇の背中に剣を突き刺してガッツポーズをするゲイル。しかし──

「シャーッ!シャーッ!」

 突然に背中から電撃のように走る痛みに、体を大きくくねらせて悶える蛇。

「うぉッ!」

 当然、ゲイルがその振りに耐えられるわけもなく

「クソォッ!イッテェー・・・」

 背中から振り落とされる。そして次の瞬間──!

「シャアッ!」
「うわぁぁぁ!」

 痛みに悶える蛇の尻尾が、ゲイルが落ちた場所に叩きつけられ──

「瞬間移動(テレポート)」

 る。

「どうだった? あれがこの2ヶ月ボクに出された課題の中でも一番の強敵。あれを攻略するのになんだかんだ今みたいに手助けしてもらいながらだけど、1ヶ月もかかったんだ」

 突然、隣から聞こえてくる聞き覚えのある声。
 
「1ヶ月・・・ッ!」

 見ればまだ、その尻尾は届かないものの背中の痛みに悶える蛇がすぐ目の前に見える。

「もし剣一本で体に肉厚な筋を備えるあいつを倒そうと思えば──」

 そしてもう一人、目の前現れ歩く人影がどこからともなく一本の刀を取り出すと──

「頭を2つ、落とさないと──」

 暴れる蛇の尻尾にも怯まずにその背中に乗り移る。そして──

「シャ・・・」

 二股の首を走り一つ、頭を落とす。

「もう一つ」

 また、右の片方の頭が落とされたことに気づいたもう片方の左頭が──

「──ダメ」
「・・・」

 首を大きく折り曲げて右に向かい突撃したのも束の間に、首の下に潜り込まれてしまった蛇の頭が虚しく断末魔もなく落とされた。

「・・・嘘、だろ」

 地面に重い音とともに沈黙した首を見て、ゲイルが驚嘆とする。

「ボクはさ。ようやく昨日、あの日から一歩を踏み出せたんだ」

 場所は変わって再び赤い大地の崖の上。

「ゲイルは・・・どうなのかな?」

 リアムは尋ねる。

「俺は・・・」

 ゲイルは一瞬の躊躇いを見せる。しかし──

「お前は、俺が毒を盛った時何をできるでもなく、それをスクリーンで見ていた俺は言い様だと嗤っていたさ」

 ふと何かが乗り移ったように、ポロポロと自分の中の感情を零していく。

「なのになんでお前はあんなより化け物みたいなモンスターを、それも剣一本で倒せるようになってるんだよ!」

 同時に瞼にたまる涙。しかしそれはまだ流れず──

「なんで俺は・・・魔法を使って剣一本を刺すのがやっとなんだよ・・・」

 ようやく、本心をさらけ出したゲイル。その内容からは、悔しさに満たされていたが恨みがましさを感じることはない純粋な後悔が感じ取られ、やっと流れ始めた涙がそれを如実に語っていた。

「俺にはお前みたいに2ヶ月じゃない・・・それに加えて1年もの時間があったんだ・・・なのに俺はバカみたいに捨てられて落ち込み、グジグジと自分の部屋に籠っていた・・・」

 安全な領域に引きこもる。それは生物として間違っていない。しかし──

「そうだね。ボクはどうしてだかすぐ動けた。けど、その気持ちは痛いほどわかるよ」

 篭るだけで何もしないというのは、知性ある人間としてとても勿体無い行為。

「だからさ。ゲイルも一緒に止まってしまった時間をまた動かすために挑戦してみないかな?」

 きっと、遅すぎるということはない。だってボクたちはまだ、少年だから。

「なぜだ・・・俺には今、聞こえないはずの言葉が聞こえた」

 しかし、自らの耳を疑い始めたゲイル。それもそうか・・・彼にとってもまた突然で、常軌を逸した提案なのだから。

「・・・昔さ。病弱でずっと医者通いの男がいたんだ」

 すると、リアムは少し話を脱線させる。

「その男は何度も医者に通い詰め、または体を悪くしたために何度も療養所に入院もした」

 その話は何度も入院退院を繰り返しては通院もしていた病弱な一人の男の小話。

「バカな。そんな何度も医者の世話になるようなことはないだろう」

 ゲイルの言う通り、たしかにこの世界にきてからというものの病院のような設備の整った施設をみたことがない。エリシアの母リンシアがそうであったように、せいぜいあって街の診療所、それであれば余程自宅の方が安静にできるし、ポンポンと患者を受け入れていれば療養所もパンパンにキャパオーバーしてしまう。
 医者の通いが一般的で療養所に入院など事故にあったや急に倒れたなどの緊急事態くらい、さらにいえば魔法があるこの世界で療養所に何度も入院など既にどこかで死んでいるであろうレベルのおかしな話なのである。

「ハハハ・・・そうだね。でもまあ聞いてよ。それでその男はさ・・・何もない病室にいつかは役に立つと思って大量の本を持ち込んでは新しい世界に触れようと必死に読みふけっていたんだ」

 だがこの際、都合の悪いこの世界の設定など無視することとしよう。

「しかし男にそれを自分の世界で活かすチャンスは与えられなかった。いつものように熱が出て運ばれてみれば、ポックリさ」

 常日頃から自由をつかもうとすれば尽き落とされた。誰の所為でも環境の所為でもない・・・ただ自らの体の弱さによって失った。

「けど君は違う。突然放り込まれた理不尽から逃げるどころかなんと立ち向かった!」

 とまあ暗い話はこの辺に、そろそろ話を元に戻すとしよう。ちょっと昔の話をしただけなのにこれだ。このままでは確実に墓穴を掘ってしまう。

「・・・正直驚いたよ」

 そしてリアムは感心してみせる。いや実際、ゲイルならば一か八かにとゲートでどこか訳のわからない場所に逃げると生存率が限りなくゼロになる方をとるかと思っていたのだ。

「君には走るための足も、剣を握るための手も腕も、そして立ち向かうための才能(こころ)と魔法もある! だから──」

 だから──

「一緒に、ボクと置いてきてしまった時間を取り戻してみないかい?」

 置いてきてしまった時間を取り戻すことはできない。しかし彼とならやっていけるかもしれないという希望が見えた。

「なんでだ! なんでお前が俺にそんなこと言うんだよ!」

 置いてきてしまった時間を取り戻すことはたしかにできない・・・しかしそれに匹敵するだけの経験を濃密に、未来に圧縮することは不確実だが不可能ではない。

「なんで!・・・なんで・・・」

 後必要なのはそれを早く実行する勇気だけ。だから──

「クソがッ! こうなったらお前のその訳のわからない誘いにノッテやる! 俺は捨てられたことに1年もウジウジと悩んでいた大馬鹿だ! だから一度握れば意地でも食らいついて放さないからな!」

 2人3脚だとスピードが落ちる?──馬鹿言っちゃいけない。それはただのかけっこの話だ。

「・・・よろしく。ゲイル」

 これは、時間を失ってしまった者同士が手を取り未来へと前に進むお話。きっとこの出会いが、何倍にも何十倍にもボクたちの歩みを速めてくれるはずだ。

「それじゃあまずは、不正を働くように脅したデイジーに謝罪といこうか」
「・・・お前、前からずっと思っていたがなかなかいい性格してるよな」

・・・はずだ。

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コメント

  • 330284【むつき・りんな】

    106って105と一緒

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