アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

186 不愉快な再会

──魔力が戻った。

 あれから一晩がたち、たった2ヶ月ではあるが、魔法の使えなかった生活に終止符が打たれた。その感動は、今も体の中に集中すれば感じることのできる感覚となって呼び起こされるのだが──

『よし、みんな構えろ・・・!』
『いや待てウィル。どうやら身構える必要はなさそうだぞ』
『本当。久しぶりに生で見たけど綺麗ね〜』
『あれはきっと物質の炎色反応を利用して打ち上げているものなんだろうけど・・・』
『そんな分析は今は野暮ってものよ・・・打ち上がる祝いの祝砲とそれを眺める2人の小さな冒険者・・・絵になるじゃない』

 最後のオークを打ち負かした後、花火と共に空に描かれた”Congratulations Challengers!”の文字。心配か安心か、この感情をなんと形容していいのかはわからないものの、とりあえずあの仮面が戦場に現れることはなかった。

「勝っちゃったんだよね」

 一方、オークジェネラル以外のオーク達を刀一本で倒したという興奮の余韻。何よりもこちらの興奮が自信となって、リアムの中で未だ暴れていた。

「行かないと・・・」

 しかし今、こうしてゆっくりベットの上で余韻に浸っている暇はあまりない。なにせリアムは──

「おはようございます。リアム」
「おはようティナ。急いで準備するよ」

 2ヶ月。つまりはスクールの夏季休暇から2週間ほどを超えて、ダンジョンの中でカミラと修行していたのだから。

「おはよう」
「おはようみんな」

 少し遅れての新学期。5年生になって初めてのクラス・・・──

「デイジー?・・・そっか、戻ってこれたんだ」
「はい・・・その、リアムさんのおかげです!」

 そしてそこには、リアムの記憶では4年生ではウォーカー商会のゲイルによって圧をかけられ、実力を発揮できないままにAクラスにいたデイジーの姿が。

「いいや。それは違うさ」

 リアムはデイジーのお礼に謙遜をしてみせる。

「もし仮に、ボクが巻き込まれた事件が起因してデイジーを縛っていた鎖が千切れたとしても、デイジーがその隙間を埋めるほど一生懸命に頑張ったから、今こうして一緒の教室にいることができるんじゃないかな?」

──が、ちなみにその日の夜、こんなキザなセリフを吐いて恥ずかしくなり枕に顔を埋める羽目になることをリアムはまだ知らない。

 それから──

「であるから、ここは数字を足して合計値を先に求めてから割ることでより簡単に──」
「薬の効果は決して相殺ではない。毒を以て毒を制すという言葉もある通り、例えばマンドラコラから作られる粉末は精神干渉系の状態異常に──」
「いいですか! 要は複雑化した回路をどれだけ簡易化できるかが肝なのです! そうすることで陣は一層バリエーションを──」
「はい。オブジェクトダンジョンには必ず闇が深く、並大抵の実力では進めない領域が一つあります。そこにはエクストラボスがいるとも、ダンジョンのコアがあるとも言われていますが未だ最奥への到達者はなく──」
「いいか! 敵が来てもビビらず目をそらさずにこう・・・おいリアム・・・そこはフリでもちょっと目をそらしてくれないと俺の立場がだな・・・」

 久しぶりの授業に顔を出して、帰ってきたのだという実感をより一層に得る。本当はもう知っていることばかり・・・フランのダンジョン学以外はすでに身につけてしまった杵柄だが、今日ばかりはすべての授業をしっかりと受ける。

 そして──

「こんにちはー」

 放課後。

「ゲッ! テーゼのこぞ・・・」

 リアムはとある立派な屋敷の玄関に立ち──

「いえリアム様。ご機嫌よう・・・昨日は見事、本日はどういったご用件でしょうか・・・」

 その大きな扉を叩く。

「ま、まさか! 1年前の報復に・・・!」

 恐る恐ると扉を開けた男は、リアムの顔を見るや否や忌々しそうな顔をしつつもすぐに取り繕い・・・かと思えば、今度は突然の来訪にびびりまくる。そんな怖い顔をして対面した覚えはないというのに、まったく失敬な。

「いいえ。その、今日はゲイルくんにお話があってきました」

 しかしここはこちらが大人になろうではないか。リアムはその男の反応を一度無視して、用件を──

「た、頼む! どうか息子を許してやってくれ! あの子はただ、不敬な邪教徒に取り入られていいように使われてしまっただけなんだ! それもこれもウィスパーの残党に、そんな奴が混じっていると見抜けなかった私の責任だ!」

 だが、男はリアムの話を最後まで聞くどころか遮って慌てた様子で懺悔し情状酌量を求める。

「息子? ということは、もしかしてあなたは・・・」

 この時リアムは困惑する。しかしこの男はゲイルを息子といった。ならば──

「はい。ガスパーです。1年前はどうも失礼な物言いをしてしまいまして」

 一瞬、リアムは自分の目を疑った。だがそう言われてみれば面影がなくもない。1年以上も前、公爵城で出会ったあの小太りした高慢な男が、今ややつれ細く、威厳も傲慢さもないまるで屋敷の気弱な掃除夫、最初は主人ではなく少し口の悪い使用人のようにリアムは思っていたからだ。

「それでゲイルくんは」

 リアムは屋敷の中に招かれ、応接室でガスパーにゲイルの現在の状態について尋ねる。

「はぁ・・・それが非常に憔悴しておりまして・・・」

 それにしてもこの屋敷、至る所に魔除けのようなまじないが施してある。

「それはガスパーさんも・・・でしょうか」
「まぁ・・・でしょうな。この姿をみればお分かりいただけるかと思いますが?」

 少しだけ挑戦的、やはりリアムのことを多少なりとも疎んでいるのだろう。

「そうですね。随分お変わりになられた。しかしそれもまた時の流れが為す技です。私の最後の記憶からもう、1年以上も経っているのですから無理もないのかもしれませんね」

 しかしそれも逆恨み。であれば、少々嫌味ったらしくなろうとも、こちらが下手に出る必要などない。

「・・・ですかな」

 すると、ガスパーは情けなくそう呟き項垂れる。どうやら自分がまた、リアムに八つ当たりをしてしまっていたことに気づいたらしい。

「まあこうした話は秩序ある法の下でするべきでしょう。ですからボクも今更どうこういうつもりはありませんし、本題に話を改めさせていただきます」

 だからここはあえて指摘せずに、さっさと話を進めてしまおう。

「今日はゲイルくんに面会したくて貴殿の家に参った次第、是非彼に面会させていただきたい」
「ま、待ってくれリアムくん! だからゲイルはあの件を深く反省し、心を痛めて部屋に引きこもってしまう始末──!」

 リアムの目的を聞いて再び焦りを見せるガスパー。しかしこの焦りよう、どうもちょっとリアクションオーバーだ。

「言い訳は結構。・・・お願いしますガスパーさん。ボクは決してゲイルくんをよりどん底に陥れるために来たんではないんです」

 だが、リアムは焦るガスパーをなだめるようにしてゲイルとの面会を請願する。・・・これではどちらが被害者かわかったものじゃないが。

──コンコン。

 それから、リアムはガスパーに案内されてゲイルの部屋の前へと向かう。

「ゲイル開けてくれ・・・お前に客だ」

 ガスパーがゲイルの部屋の扉を叩き、客が来たと彼を呼ぶ。しかし──

「客などしるものか・・・帰ってくれ」

 扉の向こうから聞こえてきたのは、そんな暗くしおれてしまった情けない返事──

「あーゲイルくん。この声に聞き覚えはないですか?」

──次の瞬間。

 ・・・ドタドタバタバ、ガン!?

「・・・ツゥー!」
『今のは痛そうだ・・・』

 ・・・ドタバタ。

 そして──

「──ドン! なぜ貴様がここにいるのだ!」

 扉が廊下の方へ勢いよく開いたかと思えば──

「どうせ俺を嗤いにきたのであろう! それともなにか!? 俺にさらに罰を与えにでもきたのか!」

 出会い頭に、顔をあわせるや否や大声でリアムがここにいる理由を問いただして声を荒らげるゲイル。

「まあ落ち着きなよ。そう興奮してたら、できる話もできな」
「うるさい! 貴様と話すことなどこれぽっちもない! わかったらそのムカつく面を翻してこの屋敷から出て行け!」
「い・・・」

 ・・・イラッ。ガスパーはゲイルは反省しつつも憔悴してしまって床に臥せっているようなことを言っていたが、いったいこれのどこが反省しているというのか。

「実は今日は君とちょっと行きたいところがあって誘いに来たんだ。どうだろう。一緒に雄大な自然を感じながらお茶でも・・・」
「出て行けと言っているだろうが! なぜ俺がこんな同じことを何度も言わなければならん! それにお茶ってなんだよ・・・そうかお前馬鹿なのか! やっぱりスクールで不正をしていた馬鹿なのだろう!」

 こんなやつのために、ボクは1年もの時間を失ったのか・・・──

「どうやら何度同じことを言ってもダメなようだね」

 だがまだ彼も子供。ケジメをつけろとは言わないが、とはいえせめて善悪の判断くらいはできて欲しかったかな。

「それじゃあ言い方を変えよう」
「言い方を変えるとか変えないとかそういう問題じゃないんだよ! その面を見てるだけでも虫唾が走るんだ!」

 ならば、こちらも子供という立場をフルに生かし幾ばくかのわがままを言わせてもらおう。

「君と行きたい場所がある。いいからついてこい」

 かなり強引な誘いの言葉を使って、ゲイルを引っ張っていこうとするリアム。しかし──

「お前人の話聞けよ! お前のせいで俺がどれだけ惨めな思いをしたと思ってい──」

 ゲイルがその反抗的な口を閉じることはなかった。・・・ふむ。結構真剣な顔で強気に言ったのだが、これでもダメか。

「いいから・・・ついてきて」

 だったら──

「・・・ひゃい」

 容赦を捨てるだけ。リアムの威圧混じりの脅迫を聞いたゲイルが、情けなくうさぎのように怯えながら答える。

「ガスパーさん。息子さんを少しお借りします」
「ああ息子が数ヶ月ぶりに外に・・・ではない! 待ってくれリアムくん! 息子をいったいどこに連れて行こうと──」
「・・・なにか?」
「ッ!・・・ふ、ふざけるな! そ、そんな脅しに屈するほど私の肝は小さくも腐ってもいない」
「──瞬間移動(テレポート)」
「──ぞ・・・消えた」

 突如としてゲイルを引きずり出し唐突にリアムたちが消えた部屋には、ガスパーの勇敢な抵抗と感想だけが虚しく響き渡る。

「──そ、外だッ!?」
「これくらいでギャーギャー騒がないでよ。いいからこっち!」

 久しぶりの外の日差しにうろたえるゲイルを、リアムはほぼ無理矢理に引っ張って目的地へと連れていく。こうなれば怯えてしまったっていいさ。その空白と落し物を取り戻すために自分がどんな苦労をしたのか、ゲイルに身を以て味あわせてやる。

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