アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

176 居候1日目 朝

「おらいつまで寝てんだ! 朝だぞコラぁ!?」
「うーん。おはよう・・・ございます」
「ふん。起きたか・・・」

──ギラン。

「死ねぇー!」
「ぎゃー!」

──グサ。

「はぁ・・・はぁ・・・」
「避けたか・・・チッ」

 昨夜、家族や仲間、知人たちが催してくれたパーティーの翌朝。リアムの朝はスリリングでエキゾチックな朝となった。足と足の間の股すれすれでベッドに刺さる剣によって──。

「さっさと支度しろ。朝食はもうできてんぞ」

 そう言い残すと、部屋の外へと姿を消す赤い髪をした女の後ろ姿。

「くんくん・・・よし、多分大丈夫だ」
「・・・リアムくん?」
「いえ。気をぬいているとカミラさんに殺されてしまいそうですから・・・なんというか、安全確認を」

 まず家では絶対にしない、ましてや人様の家でやれば失礼極まりない行為をリアムは躊躇なく実践する。寝起きから殺されそうになったのだから、当然といえば当然なのだが。

「こらリアム! 失礼だろお前!」

 そんなリアムに失礼だと怒るカミラ。

「・・・あんな起こし方をしておいて、失礼も何も無いでしょう」

 今日から居候。勝手知ったる他人の家とはよく言うが、あんなドキドキでスリリングなエキゾチックはいらない。

「私は毒殺なんてコソコソと根暗なみみっちいやり方はしねぇ! そんなもん糞食らえだ!」
「カミラ・・・食事中に言葉が悪いよ?」
「それにな!ヤるなら堂々とお天道様の下で正々堂々とヤる! そんなお前に毒を盛ったような奴らと私を一緒にすんな!」

 堂々と、食事中に殺害予告をするカミラ。しかし──

『たしか昨日、出会い頭に月の下で斬りかかっていたような・・・』
『寝起きを襲うのはギリギリセーフなの?』

 白昼堂々を気取る彼女に対し、エドガーとリアムは疑問を抱──

「あぁん!?」
「「なんでもありません!」」

 くと見せかけて背負い投げ。包丁を手に持った短気嫁に気をつけろ。前世でもよく聞いた・・・それだと男も女も両方危ない気もするが、とにかく夫婦円満を実現するために旦那、そしてその場に居合わせたものが守るべき定めである。

「いただきます」

 そして、リアムは手を合わせてとにかく食事にする。男がいつまでも女々しくしているのも、何だか格好悪いし。

「・・・おいしい」

 すると──

「カッカッカ! だろう? そりゃあ私が作ったんだから当たり前だ!」

 野菜とベーコンが一緒に煮込まれた半透明のスープ。その塩味は野菜の甘み、ベーコンのから滲み出た油とよく絡み──

「カミラはね、ボクのところにお嫁さんに来て母さんに薬学を習うがてら、料理も習っていたからね・・・昔はね、ウィル達とパーティーを組んでいた頃の食事係はリゲスとボクだったんだけど・・・」
「そ、そんな昔の恥ずかしいこと言うなよエド! あ、あれだ・・・マレーネに料理を習ったのは私だけじゃなくてアイナもだからな!」

 ここで、仲間を巻き込むカミラからの衝撃の発言。まさか我が家の食卓の味がホワイト家直伝の分流だったとは。だが──

「だから・・・おいしいんだ」

 このスープからは、母さんの味に近い何かを感じる。程よく柔らかな塩味に、野菜の硬さや味の出方。違いはベーコンの量ぐらいだろうか。わずかにワイルドな個性の違いを残しつつも、たしかにそこには母さんの作る料理と共通したなにかがあった。

「それで、今日はどこにいくの?」

 薬草を混ぜて焼き上げたパン。薄切りの干し肉のジャーキーとチーズをそこに挟んで口にするエドガーがカミラに尋ねる。

「今日は食料調達だな。肉の残りが少なくなってきてるから、エリアFにでも行くよ」

 するとカミラは、ベーコンをナイフで切ってそこにスクランブルエッグを乗せフォークで口に運ぶ。

「へぇーそっか。リアムくんにとっては初めての冒険だね」

 エドガーはニコニコと、今日の目的地を聞いて笑顔を浮かべる。

「さてと」

 しかし、食べかけのパンを皿に置くと彼は席を立つ。

「・・・上で食べるのか?」
「うん。昨日夜空けちゃったからその分の埋め合わせをしなくちゃね」

 彼は昨晩、リアムの快復祝いのパーティーに同行したために、日課の研究のための薬草の調合をすることができないでいた。

「ごめんなさいエドガーさん。ボクのために」
「ううん気にしないで。昨日はボクも楽しかったし」

 自分のせいでと落ち込むリアムに、優しい言葉をかけるエドガー。

「その代わり、夜は一緒にゆっくり食べようね。今日あったことをたくさん聞かせてよ」

 そして彼はそういうと、2階の調合室へと皿を持って上がっていった。

「刀を出せ」

 食事を終えて外に出ると、カミラはリアムに命じる。

「イデア」
「はい」

 リアムはイデアを呼び出し、亜空間に収納してある刀の一本を取り出させる。それとイデアの入れ替わりの技術は既に神業の域にまで達していた。もうほとんど入れ替わったかどうかもわからないレベルで・・・。

「よし。それじゃあ今から私がいいと言うまでは、イデアとの入れ替わりは禁止だ」

 その手に握られた刀をカミラは確認すると、これから帰宅までのイデアとリアムの入れ替わりを禁止する。ちなみにドラウグルから渡されたという魔石は、紐にくくりつけて首から下げている。

「それじゃあ今日はさっき言った通りエリアFまで行くぞ」
「エリアDじゃダメなんですか?」
「ゴーストやゾンビなんかのアンデットは倒れると、魔石だけ残してほとんど灰になるからな」

 リアムの質問にカミラが答える。曰く、1年前にエリアCのボス戦に臨んだリアムはミカのために、一度エリアDに足を踏み出していたものの、その実態、そしてその先のことについての情報もあまり持ってはいなかった。

「だから食料の調達はエリアF。次のエリアまで行って取りに行かねぇと」

 つまりはこのエリアには、食料となり得るモンスターがほとんど皆無。取れるのは野草くらいらしい。

「次のエリア? あの、エリアEは」

 が、ここでリアムは疑問を持つ。カミラはエリアFを次のエリアと言った。しかしエリアがアルファベット順に並んでいるのならば、Dの次はEであり、Fではない。

「エリアEは ”Error” のEってな。お前エリアDの中心あたりを2分するように通る崖を見たことはあるか?」

 すると、カミラはエリアEについて触れつつ、リアムに逆に質問する。

「はい。一度だけ、そこに吊り橋を渡ったことがあります」

 リアムの答えはYes。その後の記憶は曖昧なものの、ミカを連れ戻すためにリアムは1度その奈落にかかった吊り橋の上をアルフレッドと通っている。暗く底の見えない漆黒。しかしそれは夜のせいで、薄暗い周りのせいだと思っていたのだが──

「あの奈落の底がエリアEと言われてる。全く底が見えずに、降りようと様々な方法で底を目指す奴は大勢いるが、例外なく一人残らず途中で力尽きたり、底に打ち付けられた記憶もないうちにリヴァイブに送られている未知の領域だ」

 カミラは真剣に答える。彼女らは昔冒険者だったはずだ。であれば、エリアDに拠点を構えることができるくらいの実力を持つカミラとエドガーがその奈落に挑戦してみていてもおかしくはない。そう、2人とパーティーを組んでいたというウィルとアイナも。

「ただあまり深く考えるな。オブジェクトダンジョンにはそう言う未知の領域が必ず一つはあるんだ。そこをスルーするのが一般的な定石、冒険者は最強のボス目指してただ走っていればそれでいい」

 しかしそれ以上は、彼女の口から語られることはなかった。あくまでも冒険者たちの目的はこのダンジョン1の強さを誇るボスと宝。何度挑戦してもダメなのならば、一度目をそらして視点を変えることも、人生を円滑に廻すことにおいて大切なことである。

「エリアFはテールの最終ボスがいるエリアGの一個手前の大峡谷(キャニオン)だな。森を抜けて山の手前、ここから40kmほどの場所で岩が隆起してできているため荒れた荒野のような場所でもあるんだが──」

 そして、カミラはエリアFについて、改めて説明すると──

「・・・たく。世話が焼けるな」

 そう言って彼女はリアムを脇に抱きかかえる。

「え?」
「振り落とされたらされたで止まらねぇからな。落ちたら自己責任ってことで・・・あ」

 なんの説明もなしに突然抱きかかえられたリアムは、驚いた表情でカミラの顔を仰ぐ。

「もしかしたら、ほんのちょーっと張り切ってしまって、いつもよりちょーっとスピードを出すかもしれないが、それは別にお前をわざと落とそうとか考えてるんじゃなくて、ただの気分だからな。他意は──」

 しかしカミラは知らん顔をして話を続ける。えぇーっと、彼女が世話が焼けると悪態をついた前にあった解説はたしか・・・──

『エリアFはエリアGの一個手前の渓谷、森を抜けて山の手前、ここから40kmほどの・・・』

 ・・・40kmほどの。

「まさか──」

 だが、リアムがそれに気づいた時にはもう──

「ない!」

 遅かった。腕をぐるっと回されているため多少安定しているが、それでもこのスピードは──

「ぎゃー!」
「なっはっは! 落ちろ落ちろー!ヤッホーウ」

 なんの事前説明もなく、突如時速にして100kmほどで森を駆け抜けていくカミラ。身体強化で体を強化しているとはいえ、それほどのスピードを出して見せた実力、さらには木々が乱立する森の中をそんなスピードで駆けていくカミラに、リアムは新たなトラウマを植えつけられたという。

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